力を重ねて
〝舞へ舞へ勇者
舞はぬものならば
魔の子や鬼の子に
踏み
生まれし世まで帰らせん〟
しゃらん。
しゃらん。
鈴が鳴る。
今や、その歌声はすぐそこに――。
「――着きました! ここが
真なる闇から切り離された
もはやかつての面影が失われたマヨイガの荒野を進んだ三人は、その果てに現れた霧の中で、天から大地に向かってにそびえる巨大な異形の山脈――〝逆さ富士〟の前に立っていた。
「よっし……こっからはいよいよ俺たちの出番ってわけだ。頼んだよエルきゅん、はなちゃん!」
「……はなちゃん?」
「無論です。まずは囚われた皆さんを!!」
禍々しい威容を誇る逆さ富士の麓。
かつては無限の闇へと続く深淵がぽっかりと空いていたはずのそこは、不気味なほどに静まりかえっている。
荒涼とした青白い砂漠がどこまでも広がり、黒と灰が混ざり合った空は不気味な瘴気が波打つ。
世の終焉が近づいているとはとても思えない静寂の地。
三人は改めて各々の役目を確認すると、まずは緋華が闇の前に立った。
「闇の流れ……前よりもずっと荒れてるけど、大丈夫……〝見える〟」
「まさか、勇者でもないはなちゃんにこんな力があるなんてね……こういうのも、言っちまえば〝おっさんの狙い通り〟だったんだろうけどさ」
「
闇の前。
見開かれた緋華の瞳に雷光の放射が奔り、それは
かつて
「見つけた……! たくさんの強い力が、〝なにかと戦ってる〟……!」
「まーじか! そーいうことなら、さっさと助けてやらねーとな!!」
「ええ! 行きますよ!!」
瞬間。緋華の言葉を合図に、カルマとエルミールが共に彼女の左右に並び立つ。
そうして緋華の捉えた感覚に同調すると、二人はすぐさまその勇者としての力を解放。
無数の命を飲み込んだ闇を前に、エルミールのジャッジメントがまたたく間にその力を増加。
そして緋華の感覚に乗って闇の深奥へと進んだカルマのスティールは、その闇の先で迫り来る〝破滅にあらがい続ける力強い勇者たちの魂〟を、確かに掴んだのだ。
「やれる……!! 頼むエルきゅん!!」
「はい!!」
勇者たちの存在を捉えたカルマが、膨大な力を解放したエルミールに合図を送る。
それを受けたエルミールはその声に同調し、カルマのスティールに自らの持つ無限の力をすぐさま重ねた。そして――。
「俺のスティールで、ここに捕まってるやつらみんな一本釣りしてやろうってわけ!! 俺一人じゃ絶対に耐えらんねーから、エルきゅんはしっかり捕まえててくれよ!!」
「任せて下さい! この命に代えても、私の責務を果たして見せます!!」
そう。これこそが奏汰がカルマに託した救済の策。
緋華の先導を受け、エルミールのジャッジメントの力を与えられて極大化したカルマのスティールを用い、闇に囚われた勇者たちや異世界の命を闇から〝盗み出す〟。
時臣の策によって封じられた勇者たち。
そして暴走した無条の闇に飲み込まれた異世界に住む人々と神々。
その全てをまずは闇から救い出す、奏汰が見いだした道の〝第一段階〟だった。
緋華の才では、闇と光の流れを捉えることは出来ても干渉することはできない。
エルミールの力だけでは、膨大な出力は得られても闘争以外にそれを活かす術がない。
そしてカルマだけでは、たとえスティールが無限の可能性を秘めるスキルであっても、無条の闇から勇者たちを救い出せるほどの強大な力がない。
しかし互いが互いを補い、力を合わせれば出来る。
緋華が闇の中の光を捉え、カルマのスティールが勇者と異世界の命を導く標となり、さらにその標を確固たる物にするための無限の力をエルミールが担う。
それは常に単独で事を成そうとしてきた時臣では想像すら不可能な、まさしく奏汰だからこそ思い描くことの出来た道だった。
「最初にかなっちのこれを聞いた時は、流石にできっこねぇだろって思った……! けど俺たちにはかなっち以外にも沢山の仲間がいたからさ……!!」
「クロムさんは、何度も危険を冒してマヨイガの闇を入念に調べてくれました……緋華さんも、勇者同士のスキルを重ねたことなどない私たちに、力の捉え方を何度も教えてくれました!!」
「それでわたしもよくわかった……〝あ
「申し訳ありません……! 猛省ですっ!!」
「にゃはは! つっても勇者って普通は一つの世界に一人だからさ。ソロ思考が強くても仕方ねーのよ! 大目に見てやって!!」
鋭い緊張を保ちつつも、互いの力ががっちりと噛み合った三人はそれぞれにはっきりとした手応えを得ていた。
あと一押し。
あと一押しで、千年もの長きにわたり闇に囚われた勇者たちを助け出すことが出来る。
これまでこの地で必死に戦い、散っていった者たちの悲願を成すことが出来る……そう思った、だが――。
〝だめ……逃げて、みんな――!!〟
「えっ!?」
「なに……!?」
「こいつは――!?」
――――――
――――
――
――
しゃらん――。
しゃらん――。
悲鳴のような少年の声。
そしてどこからか聞こえる鈴の音。
その二つの音を引き連れ。
闇が、溢れた――。
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