託す勇
「てめぇは確かに強ぇ……! だが〝それだけ〟だ。ただ強いだけで粋がってるてめぇなんざ、〝俺たち〟の敵じゃねぇんだよ!!」
「ふん……! その俺に敗れ、妻の
「ハッ! 笑えるな。そこにいるクロムの話じゃ、てめぇは〝神の作ったその仕組みが気にくわねぇ〟ってんで暴れてたそうじゃねぇか……!! だがそうやって散々暴れたあげく、てめぇだけは〝それをしても許される〟だと……? とんだ二枚舌野郎もいたもんだぜ!! なあッッ!?」
死闘。
それはまさにそう呼ぶに相応しい闘争の極致。
剣と剣。
暴と暴。
互いに己の我を通すために極め、その拳に握りしめた刃。
時臣が前に出れば家晴も前に。
家晴が前に出れば時臣も前に。
もはや全てが必殺の間合いと化した
互いの刃に己の存在と歩んできた道の全てを乗せ、家晴と時臣は互いに譲らぬ絶人の剣戟を展開した。
「俺とて、このような形でお前たちを滅ぼすことは本意では無い……! だがこれ以上神を元凶とした災厄を許さぬ為にも、俺を模倣して生まれ、神の尖兵としていいように使われる勇者どもを皆殺しにするためにも……億万と存在する数多の世のために、お前たちには消えて貰う!!」
「いちいちムカつく野郎だ……!! てめぇはエリスを傷つけ、
家晴が攻める。
もはや因果事象すら切り裂く領域に到達した鬼人の剣が、時臣の鍛え抜かれた
「情けねぇ野郎だ……! そこにいる女の手も、てめぇから離れていった他の奴らの手も……あの
「ぬぅ――!?」
二刀が舞う。
いつしか家晴の二刀には眩いほどの緑光が灯り、常人であるはずの家晴の身体能力を勇者にも匹敵する程に引き上げていた。
元より技量では同等の領域に到達していた両者。
そこに超常の後押しが加わり、両者の均衡は徐々に家晴の側へと傾いていく。
「てめぇは強いから一人なんじゃねぇ……!! 自分以外の奴を信じることも、他の奴に託すことも怖くて出来ねぇ臆病者だから一人なんだよッ!!」
「おのれ……!! 言わせておけば――!!」
剣と共に放たれる家晴の罵倒。
常であれば毛ほども響かぬはずのそれが、しかし今の時臣の心奥には確かに突き刺さる。なぜなら――。
『ときおみは、おっとぉ……?』
『やめろ……俺はお前の父ではない』
差し伸べられた手。
求められた手。
それはかつて、時臣が〝絶対にはね除けてはいけなかった〟小さな手の記憶。
かつての時臣が拒み、そしてその後の時臣が、なぜあの時〝あの手を取らなかったのか〟と千年もの間
「どこかで一度逃げ出しちまえば、その後だって逃げるしかねぇ……! てめぇはそうやって、他の奴らの手から逃げ続けて生きてきたんじゃねぇのか――!?」
「黙れ……!! 俺は逃げてなどいない!! この地で
瞬間、力ませに振るわれた時臣の刃が家晴の痩せた体をはね飛ばす。
そしてそれと同時。構えた時臣の巨躯に膨大な気と力とが漲り、これより放たれる一刀は、この星もろとも江戸城の結界もそこに住む何もかもを消し飛ばす〝破局の一撃〟であることを予感させた。
だが、それを前にした家晴は――。
「てめぇ以外の奴に託すこと……ダチでもねぇ奴の手を握ること……そして、好きな女一人守れねぇ駄目親父のまま……泣きわめく吉乃を抱きしめてやること――」
膨れあがる時臣の剣気。
それを見た家晴は、なぜか不意に柔らかな笑みを漏らす。
「どれもこれも、剣で死合うよりよっぽどキツかったぜ……元から柄じゃねぇんだ……そういうのはよ……」
そしてゆっくりと……緑光輝く二刀の切っ先を天地に向ける異形の構えを取った。
『ありがとね……本当に本当に、いっぱい頑張ったね……やっぱり
「へっ……まあな」
果たして、その時家晴の耳に届いた声は夢か幻か。
聞こえた声に家晴は短く答えて笑うと、明確な破滅と死が待つであろう時臣の間合いに、一切の躊躇無く踏み込む。
「
「神すら恐れた俺の強さ……今こそ示そうぞ!!」
交錯。
圧倒的暴威と力の頂点たる時臣の剣と、同じく荒れ狂う暴威を持ちながら、その暴を暖かな緑光によって収束させた家晴の剣が正面からぶつかる。
「
一閃。
時臣の放った刃は黒天を貫く光芒となって天に昇る。
家晴の放った二条の銀閃は、その光と闇とを共に切り裂いて渦を巻く。
激突した二つの奥義。
それはまるで天から降り注ぐ陽光の如き光の柱を生みだし、その光の中にある何もかもを消した――。
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