引き受ける者
「どうやったかは知らんが、すでに闇の増大を見透かしていたようだな。ならば、俺がここに来た理由もわかっていよう」
「
江戸城内庭。
異形化した黒天より落ちた
青白い閃光を背に現れたのは、鍛え抜かれた肉体に小山のような巨躯の男――
始まりの勇者と呼ばれ、この地に現れた闇を滅ぼすために千年もの時をかけて闇の中に勇者の力を封じ続けた、最強の剣士がついに江戸に現れたのだ。
「聞いてくれ時臣さん! あの後、俺たちは
「――だから、なんだというのだ」
「っ!」
瞬間。時臣に向かって必死に呼び掛ける
それは軌道上のなにもかも――現世を構成する次元や空間すらも断ち切り、奏汰の鼻先をかすめて天へと昇った。
「余計なことをするなと言ったはずだ。俺は今日まで、犠牲にしてきた数多の勇者たちの知見をまとめ、何度となく計画の確証を得てきた。言わずともわかるぞ……お前たちの策に、そこまでの〝確かさなどない〟のであろう?」
「く……っ!」
奏汰たちがクロムの力によって無条の動向を把握していたように、時臣はまるで全てを見透かしたかのように、奏汰たちの策に〝否〟を突きつける。
事実……奏汰が目指す策は時臣のものは愚か、クロムが語った勇者と神の立場を入れ替える案よりも不確かで、薄氷の上を歩む道だった。
「お前たちの考えなど、所詮は追い詰められた者どもが縋る付け焼き刃に過ぎん。そのような脆弱な策に乗るほど、俺は夢想家ではないぞ……超勇者」
決裂。
奏汰はこれまでも、何度となく相対した者に和解と交渉を求め続けてきた。
それは良い結果も悪い結果ももたらしたが、奏汰はたとえ何度鼻で笑われ、愚かと罵られようと自らの道をこの地で諦めたことはない。だから――。
「わかったよ……! なら、俺は俺たちの道を意地でも貫き通す!! 最後まで……〝勇者らしく〟な!!」
「フッ……神の所業は気に食わぬが、この俺を模倣して神が生み出したのがお前たち勇者だという事実は、認めざるを得んな!!」
そして二人の問答が終わると同時。
奏汰と共にエルミールとカルマが前に出る。
「時臣……私は今でも貴方を敵だとは思っていません。貴方は私の大切な恩人であり同志……そしてだからこそ、私は貴方が認めてくれた勇者として……貴方のためにも戦います!!」
「俺もエルきゅんとおんなじよ。俺たちを騙してようがなんだろうが……俺もエルきゅんも
「行くぞみんな! この世界が背負ってきた何もかも全部……今ここで、俺たちが終わらせる!!」
瞬間。
進み出た三人の勇者は、闇に覆われた天上にその手を掲げた。
「来い! リ
「示せ! オ
「来な! カ
虹と銀と橙。
三つの光芒が主めがけて降り注ぎ、それはやがて三人の魂の具現化となって収束。心の有り様を示す三振りの聖剣として顕現する。
「お前たちの覚悟は認めてやる……しかしいかに覚悟を固めようと、数多の命を喰らった闇に抗うことなど出来ぬと知れ」
極限まで力を高めた勇者たちを前に。しかし時臣は表情一つ変えずに自らの剣を横薙ぎに振るう。
するとどうだろう。時臣の刃が触れた空間がぱっくりと裂け、その先に現れた深く濃密な闇から次々と〝強大な力を持つ鬼〟が現れたのだ。
「な、なによこれ……!? 大鬼が、こんなに!?」
「なるほど……これぞまさに死地。武士道とは死ぬことと見つけたりとは、よく言ったものぞ!!」
「もはや、無条を封じる結界はこの地のみ。そして元を正せばこの結界も俺が施したもの……お前たちがいかに決死で守ろうと、時間稼ぎにもならんぞ」
現れたのは、魔王級すら混ざる鬼の群れ。
それは江戸城を守護する武士たちは愚か、鬼を相手に戦い慣れた勇者屋の一同すら絶望させるに十分以上の威容だった。だが――。
「いいや、そうでもないさ。後は任せたよ……奏汰」
「む?」
その時。現れた鬼の暴威も武士たちの絶望も、全てを押し流すような凜とした〝銀の声〟が響いた。
響き渡った声は一瞬にして時臣のものとは違う、闇へと続く門を奏汰たちの周囲に生み出す。
「頼んだぞみんな……! 必ず戻ってくるからな!!」
「僕たちがなんとかするまで、絶対に死んじゃ駄目ですからね!? 絶対に、絶対にですからねぇええええええ――っ!?」
「君たちは自分たちの役目を果たすことだけに集中するんだ。ここのことは、全ての神々の中で最も美しく、最も優秀と謳われたこのクロム・デイズ・ワンシックスが引き受ける」
「ほう……」
現れた闇への入り口に向かい、奏汰を先頭に新九郎、緋華、エルミール、カルマの五人は一斉に飛び込む。
そしてそれと入れ替わるようにして、その場に現れた純銀の光。
それはその背に七枚の翼をはためかせ、巨大な星系の光輪を顕現させた高位神――クロム・デイズ・ワンシックス。
その銀色の輝きは魔王級の鬼すら怯ませ、一度は恐怖に怯えた武士たちの心を励ますように支える。まさしく神の名にふさわしい威光だった。
「なるほど。どうやら先に語っていた神としての気概は
「龍石時臣……君が憎み、怒りを向ける相手として私以上に相応しい者はもうこの地にはいない……闇に飲まれ、贖罪をする機もないままに消え去ってしまったんだからね」
「ふん……ならば、その罪はお前が引き受けるとでも?」
絶世の青年となったクロムはどこか諭すような……全てを覚悟したかのような声色で時臣を静かに見下ろす。
それはまるで、罪人が己の罪をあがなうために処刑台へと向かうかのような様相だった。
「ああ、そうだよ。君がその目で見続けた私たち神の犯した罪――君のその怒りと憎悪と共に、この私が引き受けようじゃないか。まぁ、もちろん……ただでやられるつもりはないけどね――っ!!」
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