二人の虹
「やるぞ、
「もちろんです!! 僕たち夫婦……じゃなくて勇者屋の力っ!! 目に物見せてやりましょう!!」
「あの構え……」
突撃。
共に並び立ち、聖剣と二刀を構えた
「二対一だ!! あんたが話を聞かないって言うのなら、力尽くでも退いて貰う!!」
「大層な口をきく。やれるものならやってみろ」
「言われなくてもやっちゃいますっ!!」
先陣。音速を超えて飛び込むのは超勇者奏汰。
奏汰は即座に七つの力全てを解放。剣神リーンリーンは具現化させぬまま、虹色の輝きを聖剣のみに纏わせて時臣へと斬りかかる。
「だぁあああ――ッ!!」
「何度やっても同じだ。それで俺には勝てんぞ」
しかし時臣に虹の輝きは届かない。
奏汰が繰り出す亜光速にも届こうかという数万の剣撃も、時臣にはその全てがかわされ、いなされ、見切られている。
もし奏汰と時臣双方の力を数値化するならば、奏汰の物理的な力はもはや〝測定不能〟。一太刀でも時臣に与えることさえ出来れば、いかに時臣とはいえ消滅を免れぬであろう。
だがしかし。
力と同様に〝戦闘における技量〟を数値化したならば、今度は時臣のそれが測定不能となり、〝奏汰との技量差は絶対的〟なものとなる。
奏汰が時臣を相手に〝巨大な剣神の姿〟を取らないのも、これほどまでに技量差のある相手に、自らの的を大きくする愚を悟っているからだ。だが――!
「そんなことわかってる!! 俺の力があんたより強くても、俺の剣はあんたの足元にも及ばない!! だから――!!」
「だからこの僕が!! 〝貴方の剣を超えてみせる〟――!!」
「なんだと?」
瞬間。眩いばかりの光を放つ奏汰の影から二条の剣刃が飛び出す。
時臣は咄嗟に奏汰を蹴り飛ばしてその太刀筋に対応するが、不意を突いた一撃は時臣の受けをかいくぐり、僅かな裂傷をその巨躯に与えた。
「ほう……俺の見切りを外したか」
「届いた――!!」
「まだまだ行くぞ!!」
奏汰に遅れて現れたのは新九郎。
新九郎は巧みに奏汰の猛攻を隠れ蓑にしつつ、さらに踏み込んで大上段からの振り下ろし一閃。それは更に深く時臣の身を抉り穿つ。
「この太刀筋……どうやら相当に出来るな。そして思い出したぞ……お前のその剣、十年前に死合った〝あの男〟と同じ動きだ。さては同門か?」
「十年前……! やっぱり貴方だったんですね……カルマさんやエルミールさんの仲間で、〝とっても大きな人〟って……!!」
力では奏汰に遙かに劣るはずの新九郎の剣が、時臣の巨躯を押し込む。
確かに今の奏汰の技量では時臣には届かない。しかし――。
「もう一度言います!! 僕の名は
「エリスセナ……? あの女がお前の母だと?」
しかし新九郎はそうではない。
剣鬼と呼び称された父
その双方を受け継いだ新九郎の天剣であれば、時臣の技量にも届く……届きうる領域にまで、彼女の剣はこの僅かの間に信じ難い成長を見せていた。
「そういうことか……ならばその剣にも納得がいく」
「
「見上げた意気だ。その魂魄ごとここで沈めてくれよう」
不意を突かれ、体勢を崩していた時臣が切り返す。
鋭く放たれた時臣の突きは新九郎の二刀を針の穴を通すかのようにしてすり抜け、彼女の心の臓を砕かんとした。
「二対一だって言った!! 今さら卑怯とか言うなよ!!」
「超勇者……!?」
しかし時臣の刃は新九郎に届く前に弾かれる。
目にも止まらぬ剣撃の狭間、飛び込んだ奏汰が強烈な虹の蹴り上げで時臣の剣を新九郎から逸らしたのだ。
「助かりました、奏汰さん!!」
「この人の攻撃は俺が全部引き受ける!! 新九郎はとにかく前だ!!」
「がってんです!!」
それは正に攻防一体。
人知を超えた力を持つ時臣の攻めを、常人である新九郎が正面から受けることは不可能。
だが時臣の攻めを奏汰が引き受けることで、逆に攻めのみに一点集中した新九郎は文字通り〝奏汰の剣〟となり、遙か格上である時臣の身にその刃を届かせうる領域へと到達していた。
「ふざけた真似を……!」
奏汰と新九郎。
二人が繰り出す一心同体の攻防を前に、時臣の表情に初めて苛立ちが浮かぶ。
なぜなら、今時臣が相対するこの二人の動きは、とてもそれぞれが己の意思を持った別人とは思えぬほどに、研ぎ澄まされた連携だったからだ。
「はぁあああああああああ――!!」
「てぇえええええええええ――!!」
勇者の虹による超人的機動で攻防に駆け巡りながら、しかし奏汰は決して新九郎の軌道には入らず、むしろ彼女がより動きやすいように、より次の一太刀を放ちやすいように誘導している節すらあった。
一方の新九郎もまた、奏汰を心の底から信じ切り、時臣にその二刀を届かせることだけにその剣才と全神経を集中して突き進む。
奏汰だけでは届かない。
新九郎だけでも届かない。
その現実に、想いを通じた二人が出した答え。
それは、ただ超人的な力があれば出来ることではない。
ただ
日々の鍛錬で磨き上げた技術に加え、互いを深く信じ合い、その身も心も、呼吸や思考すらも把握して初めて成せる〝神域の連携〟であった。
「たしかに、今のお前たちは〝あの二人〟と瓜二つだな」
「父上と母上が僕に残してくれたもの……! 今度は僕が、奏汰さんと一緒に繋いでみせる!!」
迷わず、恐れず。
もはや惑わず。
ただ前だけを
「だがな……! それでもあの二人は〝俺には届かなかった〟のだぞ。その意味……今ここで教えてやる!」
二刀に紅蓮と氷雪を顕現させ、新九郎が渾身の踏み込みで迫る。
しかしその踏み込みに時臣は足を止めて迎撃。
その身に奏汰に勝るとも劣らぬ膨大な力を漲らせ、奏汰と新九郎双方を真正面から打ち砕かんと、大上段にその大太刀を構える。
「その程度の想いなど……この千年で何度となく
「頼む新九郎! 俺の全部――新九郎に預ける!!」
「いざ――!!
瞬間。奏汰の想いと力とを受けた新九郎の二刀が、炎も氷雪もなにもかもを超えた〝虹の光芒〟を纏う。
「
疾走する〝二人の虹〟は大上段から振り下ろされた時臣の刃めがけ駆け上ると、夜空にかかる巨大な七色の橋となり、江戸の天に昇った――。
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