四
かつての瞳
「で……わざわざそれを俺に言いに来たって?」
「うん。
時は夕暮れ。
所は
間もなく
慌ただしさを増す黄昏の板橋宿。そこで
「かなっちってば、ほんっとーにクソ真面目だよねぇ……俺だって四六時中明里のとこにいるわけじゃねーんだ。かなっちなら、やろうと思えばどうとでも出来たんじゃねーの?」
「そうだとしてもしないよ。何回か話してみて、カルマが明里さんのことを大切に思ってるのはよくわかった……そこに明里さんのあんな話まで聞いて、カルマに無断で彼女を危ない目にあわせられるわけないだろ」
明里が勇者屋にその胸の内を明かした日の夕暮れ。
奏汰は彼女が自分達の元に訪れたことをカルマに伝え、もう一度話を出来ないかと願い出た。
さすがのカルマも明里が自身の意思で動いたとあっては
「それに、明里さんの話には〝ひっかかるところ〟がいくつかあった。明里さんはカルマのことを信じ切ってるみたいだったけど……もしかしたら、彼女に〝話してないこと〟もあるんじゃないのか?」
「さすがはご立派な勇者サマ……ぶっちゃけ〝かなっちの言うとおり〟だ。悪いね……色々気を使わせちまってさ」
カルマの言葉通り、奏汰にはカルマに無断で明里と共に鬼と対峙するという選択肢もあった。
しかし奏汰はその選択をせず、カルマと明里……双方の思いに対して可能な限り誠実に対応する道を選んだのだ。そして――。
「わーったよ……この件に関しちゃ俺の負けだ。あの化け物についてだけは、知ってることをゲロってやんよ」
「カルマ……」
「まったく……かなっちはここに来てまだ半年かそこらしか経ってねーってのによ……これじゃ、百年もうだうだしてる俺がマジで馬鹿みてーじゃねーか……」
沈み行く夕日の赤に照らされたカルマは、一度奏汰から視線を外し、バツが悪そうに呟いた。
「かなっちの読みどおりだ。あの鬼はただの鬼じゃねぇ……もちろん、明里に言った怨霊なんてのもでまかせよ。あのクソ鬼の正体は、
「なんだって……!?」
「〝あれ〟がただの鬼なら、俺がとっくにぶっ殺してるさ……そうしないのは、俺じゃあいつには絶対に勝てねーし、下手につつけばこの世界も俺の妹も、なにもかも滅茶苦茶になっちまうからってワケ。ほんと、笑えねーよな――」
――――――
――――
――
「――お初に御目にかかります。江戸は板橋から
「おお……なるほど、これは噂に違わぬ美しさ。日の本一と謳われる歌に舞……今宵より数日のの間、思う存分披露してもらうとしよう」
「はい……
時は五年前。
うららかな春の日差しに照らされた京の都。
花開いた梅の香りに包まれた
「ほっほ。なんとも
「まっこと、
居並ぶ公家たちの外れ。
平伏する芸妓たちを見おろす公家たちの中でも、一際妖しい眼差しを向ける男――病的な
「ははーーっ! 儂らも江戸の店を閉めて総出で来た苦労が報われるっちゅうもんでさ! どうぞどうぞ、皆様の好きなようにお楽しみくだせぇ!!」
公家者たちの反応を見た天川宿の老主人は、鼻息も荒く芸妓たちの前に進み出る。
だがそれを見た公家者……特に無条は途端に表情をしかめると、手に持った扇子で蠅でも払うかのように顔を背けた。
「なんぞ、この小汚いじじいは? 誰ぞある、このじじいを即刻我の目に入らぬ場所につまみ出さんか」
「ぎえっ!? な、
無条の言葉を受け、
だがその騒ぎにも芸妓たちは一言も発さず、ただひたすらに平伏するのみであった。
「ほむ、見事よの……よいよい、もうよいぞ。そろそろお主らの
「はい……貴き皆々様からの
「ほう……?」
無条の言葉に、その場に残された天川宿の芸妓たちは一糸乱れぬ所作で顔を上げる。
そうして明るみとなった芸妓たちの素顔は、みな見惚れるほどの美しさ。
しかしそれら芸妓たちの姿を見た無条の視線は、彼女らの先頭に座る芸妓……当時まだ十六になったばかりにも関わらず、すでに江戸の
「お、お主……? お主の名はなんという? そこの〝美しい瞳〟を持つお主の名は……!?」
果たして、それはいかなることか。
少女の姿を見た無条は、もはや名を尋ねることしか出来ないほどに動揺し、指し示す扇子をふるふると小刻みに震わせる。
「
無条の問いに、明里は深く透んだ〝
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