勇者屋の流儀
「――って、かなっちの力は借りねぇって言ったじゃん!?」
「あっ! かるまさ……じゃなかった、
「おはよう、風吉さん」
時は夕暮れ。
「久しぶりですね、カルマ。元気そうで何よりです」
「やっほーエルきゅん! エルきゅんが無事で俺も嬉しい……じゃねーっしょ!? なんなんだよあんたらは!? そんな大所帯でなにしに来たってわけ!?」
「俺から
「ですので、これから辻斬りが見つかるまでの毎晩。僕たち勇者屋がこの板橋の町をお守りします! ふんすっ!!」
「はぁ!?」
声を荒げるカルマの様子などどこ吹く風。
奏汰はもちろん、奏汰の隣に寄り添う新九郎もまた鼻息荒く胸を張り、得意満面のどや顔で勇者屋来訪の目的を宣言した。
「ふんすっ! じゃねーよ!! しんちゃんやエルきゅんはまああれだけど、後ろにいる〝ゴツい人ら〟にまでうろうろされたら、他の店にも迷惑……」
「かっかっか! そう固いことを言うでない! 我らとしても、わざわざ板橋にまで来て〝遊ばずに帰ろう〟などとは思ってはおらんぞ!」
「
「お、俺は……
「私も真面目にやるわ。けど、辻斬りの狙いは男の人だけらしいじゃない。その分、女の私は楽に動けそうね」
明らかに意表を突かれて
見れば、
剣術小町の
「マジかよ!? 鬼を相手にすりゃ、そこらの剣士レベルじゃ話にもなんねーんだぞ!? こんな勇者でもねぇ奴らまで巻き込んで……かなっちは平気なのかよ!?」
そんな彼らの姿に、カルマはとんでもないとばかりに奏汰に詰め寄る。
カルマの知る奏汰であれば、天剣を持つ新九郎はともかくとして、カルマから見れば〝有象無象の現世人〟たちを戦場に駆り出すなど絶対にしないはずだと思ったからだ。だが――。
「みんな危険は承知の上だ。相手が鬼だろうと悪人だろうと、俺たちの町を荒らす奴は俺たちで止める……その気持ちに、勇者かどうかは関係ない」
「な……っ」
しかし奏汰の答えは揺るぎない。
思えば数日前に一人で歌明星を訪れたことといい、すでに今の奏汰はかつてカルマが相まみえ、その後に遠目や伝聞で見知った奏汰とは明らかに異なっていた。
そこでようやくカルマも気付く。
このなにがあろうと己の信念の元に前進する姿こそが、勇者としての立場や、数多の異世界での戦いを経たことで失われていた、〝奏汰が持つ本来の強さ〟なのかもしれないと。
「なるほどね……ようやくわかったわ。いつの間にか、かなっちもここで色々成長してたってわけか……」
「この前言った協力の話は俺もひとまず忘れる……けどここに鬼が出るなら話は別だ。これ以上犠牲になる人が増える前に、絶対になんとかする。それが俺の、いや……〝俺たち勇者屋〟のやり方だ」
「そーいうことですっ!!」
もはや、奏汰の傍に立つのは新九郎だけではない。
勇者屋として鬼と戦うために立ち上がった仲間たちが……そして、江戸中に広がった多くの絆が、力強い根を張り巡らせ始めていた。
「おおっ! まさかあの勇者屋が、辻斬り退治に来てくれるたぁ心強ぇ!!」
「せっかく大勢で来たんだ、今夜はうちの店で遊んでっておくれよ! あんたらがいりゃ、辻斬りだっておっかなくて寄りつかないだろう?」
「頼んだぞ勇者屋ぁ!!」
「板橋を守ってくれ!!」
夕暮れと共に賑わいを増す板橋の通り。
恐ろしい辻斬りの成敗のため、かの勇者屋が総出で現れたと知った板橋の人々は喜びの大歓声を上げる。
「チッ……止めても無駄ってわけか」
「なあカルマ……もしかして、ここの鬼について何か知ってるんじゃないのか?」
「……だとしても言うつもりはねーよ。一応忠告すっけど、ここの鬼を甘く見るなよ。それでそっちのお仲間に死人が出ても、俺は知らねーからな」
「…………」
勇者屋の登場に湧く板橋の人々を尻目に。カルマは大きなため息と共にその場に背を向け、忠告を残して歌明星の店内へと姿を消した――。
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