もう一つの光
「やっほー! 久しぶりだねかなっち。それにそっちの子はしんちゃんっしょ? 顔を隠してても一発でわかるよん」
「お前たち……」
「たしか、カルマさん……? それと……」
それまでの
「お前とこうして顔を合わせるのは初めてだな……超勇者。俺の名は
現れた二人の男。
一方は
そしてもう一方は、二人も初めて見る漆黒の面に紅蓮の着流しをまとう大男――龍石時臣だった。
「
「〝違う〟。俺たちの目的はあくまで結界の破壊。たかが女一人のために、かような騒ぎなど起こすはずもなし」
「かなっちだって、もうエルきゅんから聞いてんだろ?
緋華が闇に飲まれたあの瞬間。
目の前にいた新九郎はもちろん、離れた位置にいた奏汰も即座に緋華を助けるために動いていた。
しかしそれを阻むようにして現れたのがこの二人だ。
果たして、時臣とカルマによって奏汰と新九郎は緋華の救出を阻まれ、現れた闇を〝マヨイガへの回廊〟だと即座に見抜いたエルミールだけが、すんでのところで回廊に飛び込むことが出来たのだった。
「ふざけないでくださいっ!! 姉様を攫ったのが貴方たちじゃないのなら、どうして僕たちの邪魔をするんですか!?」
「特に理由などない。俺とカルマはとうに〝目的を果たした〟……その帰路で、偶然こうしてお前たちと相対することになっただけのこと。この闇の先は、〝我らの
最愛の姉を奪われた新九郎が、必死の形相で尋ねる。
時臣は平然とその問いに答えたが、横に立つカルマはそんな新九郎の姿に複雑な様子を見せた。
「ごめんねしんちゃん……こっちにも事情ってもんがあるんだよ。俺だって、こうなるって知ってたら無理矢理にでもエルきゅんがそっちに行くのを止めてたさ……」
「カルマさん……」
「…………」
カルマの謝罪に、時臣も思う所があるように瞳を閉じる。
しかしすぐに時臣はその身から強烈な剣気を放つと、鋭い眼差しを奏汰へと向けた。
「闇に飲まれた女とエルミール……追いたければ、我らを倒していくことだ。今ならば、まだ急げば助けられるやもしれんぞ」
「なんだって……?」
時臣の言葉に、リーンリーンを構える奏汰の拳がぎりと握られる。
「はっきりと言わねばわからぬか? お前がここでいつまでも座していれば、闇に飲まれたあの二人はもはや二度と現世に戻ることは無い。それで構わぬというのであれば、そこで黙って見ているがいい」
「姉様とエルミールさんが……っ!?」
「……のんびり話してる場合じゃないってわけか」
「チッ……!」
カルマと時臣。両者の反応は異なっていたが、いずれにしろ奏汰たちを黙って行かせるつもりはない……それは互いの剣気を見れば明らかだった。ゆえに――!
「だったら――!!」
「力尽くでも退いて貰います――!!」
瞬間。奏汰と新九郎の姿がその場から共にかき消える。
奏汰は音速の五十倍にも達する青の力で、新九郎はその研ぎ澄まされた絶人の踏み込みで、またたく間に神速の間合いへと飛び込んだのだ。
「いい判断だ。超勇者とやらの力……まずは確かめさせて貰う」
「手加減はしない――!!」
奏汰の青を止めたのは時臣。
見れば、時臣はそれまで鞘に収まっていたはずの愛刀を瞬時に抜き放ち、聖剣リーンリーンの斬撃をこともなげに受けきっていた。
「前の僕と同じだと思ったら大間違いですよっ!!」
「にはは! まだあれから三ヶ月しか経ってねーってのに、かなっちとちょー仲良しになったみたいじゃん! ところでさ、ずっと気になってたんだけど……しんちゃんって、本当に男の子?」
「はわっ!? あ、あったりまえじゃないですかっ!! なんたって僕は、江戸一番の天才美少年剣士ですからっ! ふんす!!」
「ほーん? ま、俺はどっちでもいいけどねぇ!!」
一方、新九郎の天剣はカルマの聖剣カ
初撃から氷雪と業火を伴う二刀が舞い踊り、カルマは自身の周囲に無数の刃を召喚して新九郎の命を奪いにかかった――。
――――――
――――
――
「
『ほっほっほ……誰かと思えば、時臣に保護されておった〝役立たずの異界人〟ではないか。さんざん我らの世話になっておきながら、我の楽しみの邪魔までするとは、とんだ恩知らずもいたものよの……』
マヨイガの深奥。
壮麗な
エルミールは傷ついた緋華を床の間に寝かせ、その手に握る聖剣オーラクルスをゆっくりと構える。
「エル……ミール……っ」
「傷に障ります……緋華さんはそこで休んでいて下さい」
『役立たずの裏切り者が、今さら何をしにここに戻ってきた? ここは我が作りし悠久の箱庭……邪魔者を遊ばせておく場ではないのだがのう?』
一方の無条は壊れた
「答えなさい……まさか貴方は、ご自身の私利私欲を満たすためだけに宗像さんを鬼に変え、緋華さんにこのような乱暴を働いたのですか?」
『そうだが?』
「っ……! なぜこんなことをするのです!? 時臣もカルマも、このような行いを許すような人ではないはず……! なのに、貴方はどうして――!?」
『はぁ~~……』
エルミールが江戸に落ちて七年。
これまで、彼はこの男と
だからこそ、彼はまずこの男の真意を確かめようとしたのだ。
『……つまらんのう』
「ッ!」
だがしかし、無条がその問いに答えることはなかった。
無条の姿が闇に溶け、流れる
『お主ら……もう死んで良いぞ』
「これは……っ!?」
残ったのは、どこまでも深い闇。
上も下も左右もない。
緋華とエルミール以外なにもない
『――ジャ
『おん?』
瞬間。
闇の中に至極の光芒が
その光は、無条の呼び出した闇と正面から拮抗。
闇の中に取り残されたエルミールと緋華を力強く包み込むと、やがて闇の中に〝巨大な人型の光〟を
『貴方が一体何者なのか……今の私にはわかりません。ですが――!!』
闇を抜け、光の影がその収束を終える。
それは奏汰がかつて
『今はなんとしても、緋華さんを無事に連れ戻す――!! そこをどきなさい……無条!!』
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