戯れの暴虐
〝遊びをせむとや生まれけむ
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さへこそゆるがるれ〟
しゃらん。
しゃらん。
鈴が鳴る。
響き渡るは魔の雄叫び。
笑みを漏らすは若皇子。
その幕切れは、あまりにも無惨な恐怖と悲鳴によって引き裂かれた。
『グオオオオオオオオオオオッ!!』
「む、
「なんなの……」
現れた鬼。
宗像の身を食い破るようにして現れたその鬼は、またたく間に金属質の甲冑と豪壮華麗な
目の前に立つ
「
しかしそれを許す緋華ではない。
緋華は即座にそれまで持っていた二刀を投げ捨てると、その身に恐るべき雷光を宿して宗像へ突貫。渦巻く雷撃の飛び蹴りを鬼の背に叩きつける。だが――!
「っ!?」
『ゆ、るさぬ……!』
緋華の放った雷鳴の一撃は空を切る。
緋華の眼前から消えた宗像の気はすでに〝背後〟。
それは、その巨躯と暴威からは想像もつかぬ反応と速度だった。
『俺を虚仮にした者すべて……ミナゴロシだ!!』
直撃を確信し、虚を突かれた緋華の背後に宗像の刃が迫る。
「緋華さんっ!!」
しかし宗像の刃もまた緋華を捉えることは無かった。
咄嗟に飛び込んだエルミールが空中の緋華を抱え、間一髪のところで彼女を救い出す。
「お怪我はありませんかっ!?」
「……問題ない」
助けれた緋華は咄嗟に何かを言おうとし、結局何も言えず短く応じる。
そしてそのさらに後方では、
「〝赤〟だ――!」
『ぬうッ!?』
逃げ惑う群衆をかき分けて跳ぶ奏汰の拳に、灼熱の炎が燃える。
それは奏汰が持つ七つの輝きの一つ、滅殺の赤。
すでに奏汰は、宗像が何者かの力によって〝鬼へと変えられた犠牲者である〟ことを見抜いていた。
それゆえに、奏汰は赤の炎を用いた〝邪悪な鬼の力のみの滅殺〟を狙ったのだ。
『ググ……! グ……グオオオオオオオオオオオ!!』
「――!? こいつ……!」
だがなんということか。
鬼と化した宗像はまともに奏汰の赤を受けたにも関わらず、あの
驚愕と同時、奏汰は暴れ狂う宗像の刃に吹き飛ばされる。
しかし奏汰は弾かれた先の空中で受け身を取って着地。
地面に長い二条の
「だ、大丈夫ですか奏汰さんっ!?」
「ああ。けどこの鬼、強いぞ……!」
『力が溢れる……! 殺したい……殺しタイ! どいつもこいつも、俺の剣で血の海に沈めてヤル……!!』
思わず陣幕から飛び出した
今の奏汰は聖剣リーンリーンをまだ〝召喚していない〟。
滅殺の赤も、本来の出力からは程遠い威力ではあった。
しかしそうだとしても、鬼と化した宗像の力はあまりにも度を超えていた。
「気をつけて下さい
「ま、魔王級……?」
「俺が知ってる異世界のモンスターの中でも〝一番ヤバい〟ってことだ。早くなんとかしないと、とんでもないことになる……!」
魔王。
それは文字通り、数多のモンスターの頂点に君臨する存在の名称。
同じ魔王でも世界ごとにその姿形も思考も能力も異なるが、異世界に召喚された勇者は皆、この魔王と呼ばれる存在の討伐を目指して戦いに身を投じる。
つまり、魔王の持つ力は〝勇者と比肩しうる〟ということだ。
「えええええっ!? そ、それって……ものすごくまずいんじゃ!?」
「それでも、俺が全力で戦えば倒せる相手だ。けど――」
そこまで言って、奏汰は試合場の周囲へと目を向ける。
そこには未だ大勢の参加者や観覧者が逃げ惑い、舞台の上には主賓である〝皇族ご一行の姿〟すら残っている有り様だった。
「ここで〝勇者の虹〟は使えない……それに、鬼にされた宗像さんだって絶対に助けないと駄目だ!」
そう……百の異世界で〝魔王すら越える邪悪〟を
これだけの群衆に囲まれる中では、たとえ勇者の虹でなくとも、滅殺の赤一つですらその全力を解放することはあまりにも危険だった。
「
「お、俺も加勢するぞ!!」
「ありがとうございます! お二人は皆さんの避難を!! この鬼は……私たちでなんとかします!!」
「な、なんとかって……いくら太助さんでも、こんなのが相手じゃ……っ!」
混乱の中。その身を恐怖に震わせながら、ここまで共に戦ってきた
エルミールはそんな二人の姿に胸を締め付けられながらも、すぐに緋華と共に立ち上がって指示を与えた。
「大丈夫です。どうか私を……〝
「太助さん……っ」
「……わかった。行くぞ春日……ここには天剣の
「……っ。絶対に……絶対に死なないで! 私……太助さんが帰ってくるまで、ずっと道場で待ってるから!」
その言葉を残し、ここまで共に戦い抜いた公正館の二人は試合場から離れる。
舞台に残るは、油断無く周囲を睨み付ける宗像と、奏汰たち四人のみとなった。
「宗像さんを殺さないように、みんなを守りながら魔王を倒す……やれるか、エルミール」
「無論です。これまで傍観者として積み重ねてきた私の
そう言葉を交わし、二人の勇者が魔王の前に進み出る。
「立てますか姉様っ!?」
「ぜんぜん平気……気にくわない男二人にだけ任せてられない」
駆け寄る新九郎を制し、ひょっとこ面をつけたままの緋華が構える。
この期に及んでいまだに奏汰とエルミールに対抗意識を燃やす緋華に、新九郎は困ったような笑みを浮かべて頷いた。
「なら、僕たちも頑張らないとですね! 江戸にはびこる
「――わたしたちは許さない」
緋華の首巻きで素顔を隠した新九郎が腰から愛用の二刀を抜き放ち、並び立つ緋華がその手に握るクナイに
「来い! リーンリーン!!」
「示せ!
どこまでも広がる
その光芒は二人の勇者めがけて一直線に降り注ぎ、彼らが持つ決意に呼応するようにして収束。
「やるぞエルミール!!」
「ええ!
引き裂かれた台覧試合。
そこに渦巻く底知れぬ闇。
しかしその悪意の中にあって。
四人の持つ守護の意思は、一際強い輝きを放っていた――。
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