第3話
でも、あの子、かつて跪いて泣いたあの子が、その場にいた、わたくしの産んだ息子を守ってくれた話は聞いてるわ。息子だけは毒殺されずに済んだ。その事で王からは何も褒賞は無かったようだけれど、実はわたくしから、特別に宝石を下賜したの。王にいただいたものなんて、あれはどうしたと言われたら面倒だし、わたくし個人の自由になる財産なんて無いようなもの。だから独身時代に誂えたガーネット……これはたいして高価でもないけれど、それに加えてルビーをあしらったネックレスを作らせて、一度だけ身につけてから、匿名配送、なんて言って病院へ送り付けてやったわ。それを売って貧者の救済にあてるなんて高尚な真似はしない子だから贈ったのよ。今頃栗鼠のようにどこかに埋めて、満足気にこれで多少老後の生活の足しになるなんて言ってることでしょう。せせこましすぎて、想像しただけで笑ってしまうわよね。
いいのよそれで。それだけたくましい子だから。都から離れたところで部下に威張り散らして楽しくやってることでしょう。
もう会うこともないでしょうけど、短い間だったけれど、あの子がいて結構楽しかったわ。昔の話。多分一生忘れない。冷たい目の奥に、ガーネットのような情熱を秘めたあの年下の恋人のことを。
【 了 】
貴女なしには 緩洲えむ @kitsuneponchan
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