1章 幕間

幕間1 二人の休日


(※システィア視点)


 目が覚めた。

 目を開けた先には、私の愛しのユウの寝顔があった。


「ふふ、おはよう、ユウ」


 しばらくユウの寝顔を眺める。

 幸せだ。まさかユウと同じベッドで寝起きをすることになるとは。

一応言っとくが、私はまだ純潔だ。ユウと共に寝たからって、いやらしいことはないぞ!

 私がユウと共に寝るのには理由があるのだ。

 それは……。


「ふにゃ~、それはみゃーのごはんだにゃ~……むにゃむにゃ……」


 私の視線から、ユウのさらに先で呑気に寝ている駄猫ことサキュバスを見てため息を吐く。

 なぜこいつがここにいるのか……。

 そう、すべてはこいつからユウの童貞を守る為にベッドを共にしているのだ。

 数日前の事を振り返る。


 きっかけは、やはり先日の行方不明事件が終わった後だった。

 その実行犯でサキュバスであるマーニャがユウの部屋に逃げ込んだ後、どうしてそうなったのか分からないが、そのままマーニャがユウの部屋へと居ついてしまったのだ。

 事件を起こしたというのに、なんのお咎めもなしだ。魔王である父様が全てを聞いた上で、サキュバス姉妹をお許しになったのだ。

 そしてこの駄猫はユウの部屋にこのまま居ついてしまったのだ。


 それを不満に思った私は、マーニャへの反抗の意思表示でユウの部屋に住むことを決めた。

 ミリエラに言い、両親に言い、家臣にも言った。

 反対する者はいた。ヴィグナリアは反対し、ミリエラでさえいい顔はしなかった。

 しかし父様、母様は快く承諾してくれた。

 やはり父様、母様は優しい。応援してくれるとも言ってくれた。私はそんな二人の娘でいて本当に幸せだ。

 両親の承諾を切っ掛けに、家臣のみんなも納得してくれた。ヴィグナリアも不満げながらも納得してくれた。


 ちなみに、私とサキュバスが、ユウのベッドに同衾することは、彼は最後まで抵抗していた。いや、今でも抵抗している。

 しかし、苦悶に苦しむユウが言っていた。


『童貞にはどうしても拒否できないものがあるんだ。それはおっぱいと、女の子たちに挟まって眠ることだ!』


 何を言っているのか分からない。バカだ。ユウはハーレムでも目指しているのか? 

 そういえば昔ユウは、ライクというクソ野郎から、ハーレムの良さとかなんとか、教え込まれたようだった。

 そもそもあのクソ野郎は、ユウに碌なことしか教えない。ユウのエロはそのクソ野郎のおかげで開花してしまったものだ。

 ライクの奴め、よくもユウをこんなおっぱい星人にさせて、そのせいでユウは私以外のおっぱいも興味を持つようになってしまったぞ!


 あー、気持ちのいい朝のはずが、嫌なことを思い出してしまった。


 とにかくライクは今度会ったらただではおかない、と。


 とにかくベッドから離れて、カーテンを開ける。今日はいい天気だ。

 さてユウを起こそう。

 今日はユウとのデートの日だ。すごい楽しみだ。恋人らしいことが出来たらいいな。


 私はユウと駄猫が寝ている布団の裾を掴む。

 そして思いっきり布団を引っぺがす。


「おい、起きろ、お前たち。朝だぞ!」



〇 〇 〇


「いやにゃ~っ! みゃーも一緒に行きたいにゃ~っ!」


 駄々をこねるマーニャ。


「ごめん、マーニャ。今日はシシィと二人きりで出掛けるって約束だから……」

「いやにゃ、いやにゃっ! みゃーも一緒に行きたいにゃっ!」


 それを諫めるユウ。

 マーニャは「えぐえぐ」と涙を流している。

 まるで兄と妹の図だ。

 いつもは邪魔で憎く思う駄猫ことマーニャだが、駄々をこねる姿がなんだか可愛らしく思えて、おかしかった。


「ほらほら姉さん。今日はユウ様のせっかくの休日なんですから、システィア様と二人きりにさせましょう。ね、姉さん?」

「えぐえぐ……うん……」


 妹にあやされる姉とか、どちらが姉だか分からないな。


「それでは、行ってらっしゃいませ、システィア様、ユウ様」

「……行ってらっしゃいにゃ」

「行ってきます」

「うむ、行ってくる」


 サキュバス姉妹に見送られて、私はユウと共に外へと出た。



〇 〇 〇


 ガルバディア城下街。

 ユウと二人きりで出掛けるというのは、実は久しぶりだったりする。

 昔は、それこそ幼い頃は、毎日のように二人で遊びまわっていたが、ユウが兵士に志願してからは、滅多に二人きりで出掛けることがなかった。

 そうして私は昔の思い出話などを交えつつ、一緒に歩き回っていた。


 今日はユウも仕事休みだから、すごくリラックスした顔をしている。

 彼女になってからか、最近そういったユウの表情の変化を見るのが、すごく楽しい。

 だからこそ彼氏のいろいろな顔を見てみたい。それこそ笑っている顔とか、楽しんでいる顔とか。

 付き合う前は、そんなこと考えたことも無かった。私の隣で笑顔を浮かべているのが当然だと思っていた。

 と、なんだかんだで、私はユウと付き合えたことに、毎日毎日浮かれているのだ。


 でも……。


 それより、先に進むことが出来なかった。

 この前は、やけくそ気味にキスをしてしまったが、それ以来していないし、恋人らしいことは何も出来ていない。

 二人きりでいる今日こそは、ユウと恋人らしいことがしたい。


 試しにユウと手を繋いで歩こうか。

 彼の手をちらちらと見る。

 幼い頃とかは、平気で手を繋ぐことが出来た。けど今はそれを実行するのが、なぜか気恥ずかしく思える。


 あぁ……。やっぱり私って、こういう時の勇気って出ないな……。


 ため息が出た。



〇 〇 〇


 昼時。

 喫茶店で昼飯を食べる。

 以前、エリィがユウに「あーん」をしているのは見たことがあった。

 私もそれに憧れていた。

 何度もチャンスを伺ってはいるが、なかなかその勇気が出なかった。

 恥ずかしい。やっぱり私に度胸がない。


 でも……。


 ユウがおいしそうにご飯を食べている。

 それを見ているだけで十分だった。



〇 〇 〇


 二人きりで都市を見回って、いつの間にか夕方になっていた。

 ユウにとっていいリラックスにはなれたかどうか。

 恋人らしいことはできたかどうか……。


 いや、私が思う恋人らしいことは、何もできなかったと思う。

 何度も繋ごうと思っていた手は、今も空を切っている。

 今日は何も出来なかった。

 母様やミリエラの言う通り、私はこういうのには臆病なようだ。


 はぁー……。


 心の中では何度もため息を吐きっぱなしだった。


 そんな時に。


 私の手に誰かの手が重なった。


 ユウだった。彼が私の手を握ってくれた。

 私は頭の中で混乱していた。

 そんな私に、ユウは恥ずかしそうに言っていた。


「ひ、他人がいっぱいだから……その……迷子にならないようにって……」


 そんなユウの顔が赤かった。

 同時に私の顔も熱くなる。そして嬉しくなる。

 

 そうだよな……。


 周りが何を言おうと、私たちは私たちのペースでやっていけばいいんだ。


 そう。私たちはまだ付き合ったばかり。

 まだ物語は始まったばかりなのだ。


「ふふふ」

「な、なんだよ……」


 自然と笑みが出て、ユウがぶっきらぼうに反応する。

 繋がれた手が、すごく温かい。

 少し幸せを感じながら、私たちは家路へとつくのだった。


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