30 混乱のエピローグ


(※ユウ視点)


「んあっ……」


 ――寒い。

 突然奪われた温もりに、目が覚めた。


 目の前には、シシィがいる。


「……おはよう、シシィ」


 挨拶をした。だけど返事が返ってこない。


「……ん?」


 怪訝に思い、いまだ重い眼でシシィを見る。

 シシィが俺を見つめている。

 しかしその表情は無表情で、しかもなぜか時が止まったように身動きしない。まるで氷のようだ。


「ん……」


 まぁいいか、と思い、先ほどから俺が抱きしめているモノに顔を埋める。


「うにゃ~!」


 それは音を発し、なぜかぴくぴくと動いた。


 あれ? なんかいい匂いがする? それに柔らかい? 温かい?


 俺は薄目を開けて、それが何なのか確かめた。


 それは肌色だった。柔らかくて、温かくて、そして――女体!


「うわっ!?」


 俺は思わず飛び起きた。

 何度もガン見する。

 全裸の女の子だ。言葉通り何も身に着けてない肌色一色!?

 なんで!? なんで!?

 何が何だかわからない!? 俺はなんで裸の女の子と一緒に寝ているんだ!?

 それに俺がさっき顔を埋めたところって……胸!? おっぱい!?

 それはそれは立派なおっぱいだった――じゃなくて!?

 なに!? どういうこと!?

 周りをきょろきょろと見渡す。

 シシィが無表情で固まっている以外は、何もおかしなところはない。俺の部屋だ。


 って、シシィィィィイイイイイイイイイっ!!??


 なんでここにいるの!? っていうかなんで固まっているの!? っていうか俺が全裸の女の子に抱き着いているところを見られた!?


 あぁあああああ、もう! 頭がついていかねぇえええええ!!


 まったくよくわからない状況に、俺は混乱していた。

 もう本当に何が何だか……。

 って、この全裸の女の子見覚えが……背中に羽、そして頭に角を生やした魔人族の女の子……って、昨日戦ったサキュバスの姉じゃねぇか!?


「ふみゃぁああああ……なんにゃ? やかましいにゃ……」


 サキュバス姉が目を覚まし、身体を起こす。

 って、見えてる見えてる!?

 目覚めたばかりのサキュバス姉は、眠たそうに瞼を擦り、そして両手をぐんと上にあげて伸びをする。

 おっぱいがバインバインと跳ねる。


 あっ、いい眺めだ……――じゃないっ!


 こんな状況でもシシィはいまだに固まったままだ。


「おっ!? みゃーの運命の雄にゃ!」


 サキュバス姉が抱き着いてくる。

 って、なんで抱き着いてくるの!?

 むにゅっと気持ちいい感触が、俺の胸に当たる。

 なんだ、これは!? これが幸せか!? これが天国か!?

 ――のちに本当の天国の境へと彷徨うわけなのだが……。


「にゅふふ、怪我の手当てをしてくれてありがとうにゃ!」

「怪我の手当てって、俺はお前の手当てなんて……」

「したにゃ、されたにゃ! みゃーの身体ヌルヌルの液体ぶっかけられて、手当てしてくれたにゃ!」

「そんなの、してないぞ……?」


 いや、待てよ……寝る前、俺、何かしたな……。

 そうだ! 怪我した猫の治療して、その後、一緒に猫と寝て……。


「って、お前は! あの時の猫か!?」

「ふっふっふ! やっと気づいたにゃ? 変身にゃ!」


 サキュバス姉の体が一瞬光ったかと思えば、その姿が猫の姿に!?


「にゃ~!」


 そしてまた光、再び全裸の女の子に!


「どうにゃ! みゃーの変身魔法は。みゃーはこれで自由に猫になることが出来るにゃ!」


 と再び裸でじゃれついてくるサキュバス姉。

 シシィが傍にいる手前だが、俺はそれを引き離すことが出来なかった。

 だって、頭が働かないし、この状況にラッキーだと思ってる自分がいるし……。


「はっ!?」


 ……いや、どうやらラッキーではなかった。シシィが覚醒した。

 こちらを見るシシィの体が、わなわなと震わせていた。

 そして第一声。


「お前ら! ヤッたのか!!??」


 そんな言葉を発した。


「いやいや、待て待て、俺は――」

「ヤラれたにゃっ!」


 何か言おうとした途端、サキュバス姉がさらりと言った。


「だから俺は――」

「にゅるにゅるの液体をぶっかけられながら、もうみゃーの身体全身くまなくその手で触られまくったにゃ!」


 言い方!?


 ――でも間違いじゃない、俺は寝る前にこいつの身体に薬を塗りまくっていた。猫の姿のこいつを。


 そしてシシィがボソッと呟く。


「……スキル『魔王』」


 その瞬間、シシィの髪が黒から紅へと変化した。


「ちょっ!?」


 そして彼女の身体がとてつもない、というか、これまで感じたことのないオーラを発する。


「や、やめっ!?」

「死ねっ」

「ひぃぃいいいいっ!!??」


 シシィのスキル『魔王』が発動した。

 あ、俺、今度こそ死ぬ……。


「やれやれ、何を朝っぱらから騒いでいるのですか」

「ちょっと! 今日も見回りの仕事なんだから、寝坊とか許さないわよ!」


 空気の読めない感じで、ミリエラ姉さんとエリィが俺の部屋へと入って来る。


 その後、状況はさらに混乱したものへと発展する。

 なんだかんだで平和? な一日が訪れようとしていた。

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