29 システィア、彼氏を起こしてあげる!


(※システィア視点)


「ふふふ」


 早朝。

 私は今ウキウキ気分に浸りながら、兵舎の中を歩いていた。

 昨日私はユウとキスをした。

 一歩だ、やっと一歩前進することが出来た。


「ふふふ、ふふふのふ」


 自分でもわかる。すごい浮かれている! おかげであれからまったく眠ることが出来なかった。

 ユウの部屋の前に立ち止まる。

 緊張する。ドアノブを握る手が震える。

 あー、駄目だ駄目だ。こんなあからさまに緊張してたら、ユウに変に思われる。

 私の方が年上だからな、ユウの事をリードしてやらないと。

 いつも通りだ。私、いつも通りで接さないと。


「よし! いつも通りで!」


 深呼吸してドアを開けた。


「お、おはよう……」


 声を掛けたが、返事はない。

 もしかしたらとベッドの方を見ると、布団がこんもりと盛り上がっていた。


「む……私は全く眠れなかったって言うのに……」


 呑気に寝ているユウに、理不尽な怒りを覚える。

 こっちはキスして浮かれていたのに、なんでされたユウは呑気に寝ているんだ!


「すー……はー……」


 ここで静かに、ゆっくりと深呼吸をする。

 落ち着け、私。

 私の方が年上だ。お姉さんだ。だからこのお姉さんが優しく起こしてあげるっていうシチュエーションもいいだろう。


「うふふ」


 笑みが止まらない。たぶん私の今の顔はだらしない感じになっているだろう。


「さて、それではユウを起こしますか」


 そう、優しいお姉さんが、呑気に寝る彼氏を優しく起こしてあげる。

 これだ。このシチュエーションだ! 付き合ってからやりたいと思っていた理想の恋人のシチュエーションの一つは、これなのだ!

 私は布団に手を掛ける。

 そして……。


「起きろ、ユウ!」


 布団をめくりあげた私は、その光景を見て凍り付いた――。

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