27 後片付け、初めての……
「なんで、俺も……」
囚われていたはずなのに、疲れているはずなのに、なぜか俺は塔崩壊後の片付け作業を行っていた。
あの後、塔はシシィの放った魔法によって粉々になって崩れた。
被害者の男性たちは崩れる前に全員外へと出されたみたいで、男たちみんな今は魔法の効果も無くなったのか、攻撃してくることもなく、ぐったりとしていた。
サキュバス姉妹は塔崩壊に乗じたのか、どこかへと消えていなくなっていた。今は各部隊総出で探しているし、その内指名手配にでもなるだろう。
そして俺は、今は塔の崩壊の瓦礫撤去作業に追われていた。
「だっははは、お前、ロクな目にあってなかったみたいだな! これも日頃の行いか?」
「ユウ殿のこれからの人生はきっとハードモードなんでしょうね」
囚われた俺の事をまったく労わってくれないタナカとハシモト。ハシモトの眼鏡がキランと光るのがいちいちウザい。
「ほら! あんたはてきぱき働きなさい! まったくもう……あんなことをしてくれたんだから……」
真っ赤な顔で俺の尻に蹴りを入れるエリィ。
どこか恥ずかしがっているのを隠しているような感じだ。
「(……おい、エリィと何があったんだ?)」
「(……教えない)」
タナカに耳打ちで問われるが、教える義理がない。というか教えたらロクな事が起きないだろう。
だけどそんなタナカとハシモトは「くっそ! ユウだけ良い思いして!」「世の中不公平です!」と叫んで去っていった。
こっちの気にもなってくれよ。そういう感じなんか、微塵も起きなかったんだぞ! だって俺の貞操の危機だったんだし……。
「…………」
よく考えてみれば、良い思いだらけだった。
「(ユウ!)」
「ん?」
すると物陰から、こちらに手招きをするシシィの姿が見えた。
「どうしたの?」
俺は素直に手招きするシシィの元へと行った。すると……。
ドンッ!
「ぐえっ」
襟首を掴まれ、すごい勢いで持ち上げられたかと思えば、背中を壁に押し付けられた。
「お前! 何もされてないよな!」
「何って……何が?」
襟首を持ち上げられているからか、若干息苦しい。
「何って……ナニがだ! エリィはまだしも、あの際どい格好の魔人族に変なことはされてないよな!!」
「へ、変な事って……」
「交尾みたいなことだよ!」
「ちょっ!?」
どうどうと大胆なことを言うシシィ。だけどその目はすごく真剣なものだった。
「そもそもなんでそんな簡単に拉致されるんだ! 私がどんな思いをしていたか!」
「ご、ごめん……で、でも我慢していたから!」
「そうか……我慢していたのか……」
そう呟きながら、シシィの視線はなぜか俺の股間あたりへと行っていた。
……あっ!
「この嘘つきめ!」
「違う! これは疲れなんちゃらというもので……」
だって、あの際どい格好のサキュバスに迫られたり、事故でもエリィとあんなに密着したり。あんな感じだったら、こんな状態になってしまうだろ!?
「やはりミリエラたちの言う事をきちんと聞いておけば! 私にもっと勇気があれば……」
俺の顔がシシィの顔に近づけられる。
って、近い近い!
「私がどんな思いだったのか、お前に思い知らせてやる!」
シシィの真っ赤な顔が近づいてくる。
そして……。
「んっ」
「んむっ!?」
された。シシィにされた! キスを!
シシィに襟首を離され、俺は膝からがくんと地面へと崩れ落ちる。
「これで勘弁してやる!」
そう赤い顔をさせながら、シシィは走り去ってしまった。
俺はその後姿をただ見守るように、唖然としていた。
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