26 ヒロイン?システィアの激情


 壁を壊し、そこに仁王立ちで立つシシィ。

 サキュバス姉妹はポカンとした顔で立ち尽くすが、俺とエリィは共に慌てる。


「(なぁ、あれってやばい感じじゃないか?)」

「(えぇ……あれは相当キレてるわね……)」

「(じゃあ、ここにいると俺とお前、あれに巻き込まれるんじゃないか?)」

「(100パーセント巻き込まれるでしょうね……)」

「(じゃ、じゃあ、早く逃げないと!)」

「(そ、そうよ! あんたは早くあたしの上から退きなさい!)」


 俺とエリィは戦々恐々としながら、共にここから逃げる方法を模索し、もぞもぞと動く。


「ユウとエリィ、動くな。お前たちには後でいろいろと聞くからな? 特にその体勢の事とかな?」

「「は、はい……」」


 俺とエリィが一斉に動きを止める。

 シシィがすごく怒ってらっしゃるようだ。だってそうだよ。他人から見たら、俺とエリィ、くんずほぐれずの体勢してんだよ!


「(あんたのせいよ! 後でボコるから覚えておきなさい!)」

「(はい……)」


 おまけに後でエリィにボコられるのが決定してしまった。


「貴様か、私の男を連れ去った者は」


 シシィがサキュバス姉妹に目を細める。


 妹が「ひっ!」と怖気づくが、姉の方が臨戦態勢に入り。


「ふ、ふん! あれはみゃーの運命の雄にゃ! これから大切な交尾が始まるにゃ! 邪魔は許さないにゃ!」


 となぜか強がる。


「交尾、だと」

「「「ひっ!」」」


 こめかみに血管を浮きぼらせるシシィ。

 その声はひどく低くドスのきいた感じで、俺とエリィ、サキュバス妹を怯えさせるのに充分だった。


「やるのかにゃ! おらにゃっ!」


 怯むことを知らない、能天気な姉一人が臨戦態勢を解かない。その隣にいる妹は完全に怯んで立ち尽くした状態だ。


「(ねぇ、ユウ。あんた、本当にあれが彼女でいいの? あんたそのうち殺されるんじゃない?)」

「(い、いやいや! 俺は何もやましい事なんかしてないぞ!)」

「(この体勢をよく見てから言いなさいよね)」


 ため息を吐きながら呆れるエリィ。

 分かってるよ、とりあえず現実逃避させてくれよ。

 そんな俺とエリィをよそに、シシィの怒りはさらにヒートアップさせていた。


「お前、私の男に手を出すというのか?」

「あぁ、もう出しちゃうにゃ! 出しまくって、その際いろいろなものも出しまくってやるにゃ!」


 あぁ、余計なこと言うなよ、あのバカ姉……。


 シシィの髪が黒から真っ赤な紅色に染まる。まるで燃えたぎるような、赤よりもさらに深い深紅な、そんな感じの色だ。

 そしてシシィの魔力が迸る。そのオーラが目視でも確認できるほど色濃くなっていく。


 あぁ……あれをやるつもりだ。絶対やるつもりだ。


 今のシシィは相当キレている。

 俺とエリィは巻き込みをくらわないように身を伏せる。

 サキュバス妹も勘で察したのか、その場で蹲って身を守っている。

 ただそれにも気づかない能天気な姉。しかしその姉でも戸惑いの表情を浮かべていた。


「ユウの童貞は、私のものだ!!!!」


 シシィのスキル、『魔王』が発動。

 ……スキルの説明はそのうちさせてくれ。とりあえず、この身を無事に守ることだけに専念させてくれ!


「死ねぇええええええええええっ!!!!」

「ふみゃぁあああああああああっ!!!!」


 ヒロインとは言えない、もはや魔王な力(まぁ、実際魔王の娘だが)がサキュバス姉を襲う。

 その衝撃に塔は音を立てて崩壊した。


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