20 事件発生、システィアの焦燥
(※システィア視点)
真夜中。
ミリエラに起こされ、私は兵舎の会議室へと赴いた。
そこにはヴィグナリアとメイズ、そして警邏隊の隊長の一人ダリン・ロウがいた。
こんな時間にこのメンツ。何かが起こったのは間違いない。
でもなぜ私が呼び出されたのかが分からなかった。
「どうした? なにかあったのか?」
「姫様、落ち着いてお聞きください」
ミリエラが神妙な顔で話しかけてくる。
「まずは先に謝罪をさせてください」
「謝罪?」
「えぇ。これから話すのは、姫様にとって大層ショックな話になります。そしてそれにわたくしも関わったことをお詫びさせてください」
「なんだというんだ?」
「ユウ様が拉致されました」
その言葉に、私は一瞬何を言われたのか分からなかった。
だけどすぐに何があったのかが理解できた。
「待て! ユウが拉致されただと! どういうことだ! それにお前が関わっているって、どうなってるんだいったい!」
「落ち着いてください、姫様」
頭が真っ白になる。
その報告を聞いた途端に心の中に焦りが出来て、落ち着かなくなる。
当然だ。ユウが拉致されたと聞かされたからだ。
そんな私に、ミリエラは話を続ける。
「実は、ユウ様に微量な魔素が感じられました。昼間見つけた魔素と同一のものです。おそらくユウ様は、一連の行方不明事件に巻き込まれたものだと思います」
それを聞いた途端に、頭がカーっとなる。
「なぜだ! それを知っていながら、なぜみすみすユウが拉致されるのを見逃した!」
ミリエラに掴みかかる。
それでもミリエラは涼しい顔で話を続ける。
「落ち着いてください。見逃したのではありません。仕掛けたのです」
「仕掛けた?」
「ここからはメイズ様がお話します」
「はい」
ミリエラに名指しされ、メイズが言葉を続ける。
「昼間ミリエラちゃんに相談されて、ユウ君を餌にして、罠を張りました」
「罠だと……?」
「はい」
メイズが大きく頷く。
「夜にユウ君にセンサーのような魔法を掛けました。それで結果は――かかりました」
すっと目を細めたメイズが、途端にニヤっと笑みを浮かべた。
性格が滲み出てる、イヤな笑みだ。
見た目に騙されやすいが、こいつの性格は真性のドSだ。
「ユウ君に罠を張り、わざと拉致を見逃したおかげで、敵の位置がつかめました」
そこでヴィグナリアが口を開く。
「その場所を、現在このダリン・ロウが率いる部隊が強襲を掛けております」
「いや~、すみません~。姫様に相談しようかと思ってたら、ヴィグナリア様からぎりぎりまで伏せておけって言われまして~」
ダリン・ロウの能天気な悪びれもない謝罪がイラつく。
けど、ここで心をなんとか落ち着かせる。
「話は分かった。けど、なぜユウなんだ? それになぜ私にも話を通さなかった?」
「申し訳ございません、姫様。なぜユウ様が実行犯にターゲットされたのかはわかりません。しかしこれはチャンスと思い、あえてユウ様を泳がし、罠を張りました。姫様にお伝えしなかったのは、姫様に干渉されて台無しにされたくなかったからです」
「それは……」
ミリエラの話も、わかる。
ユウがターゲットになっていると聞かせられれば、私はきっと普通の態度ではいられないし、その作戦に頷かなかっただろう。
それに私がユウを心配することで、敵に罠を悟られる可能性もあった。
しかし……。
「理解はしたが……納得はできない」
ユウが巻き込まれたことに、やはり納得できない。
あいつは私の大切な人なんだ。
「申し訳ございません、姫様。責任ならば、後ほどわたくしが全て請け負います。しかし訓練されたユウ様ならなんとかこの事件を潜り抜けられると思い、わたくしは全て彼に託したのです」
「…………」
私はもう黙っているしかいられなかった。
ユウも我が軍の兵士だ。下手なことは起きないだろう……。
「あいつは私が自ら鍛えた男です。あいつなら無事に切り抜けられるでしょう。あいつにはその力があります」
ヴィグナリアもユウを認める発言をする。
なんだかんだ言って、彼女もユウの事は認めているのは知っている。
しかし、おそらくユウの実力を一番知るヴィグナリアの言葉でも、私は不安でしかいられなかった。
「どうやら兵士たちが敵の拠点にたどり着いたようです」
そう考える私に、メイズが状況の報告をする。
もう後戻りは出来ないところまできていた。
ここまで来たら、ミリエラやみんなの覚悟を決めた姿勢に、私も見習おう。
ユウの心配はあるが、ここは一連の事件の解決へと向かおう。
「作戦開始です」
どうやら始まったみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます