21 囚われの雄


(※ユウ視点)


「……ん?」


 気が付くと、知らない場所だった。


「え?」


 動けない?

 椅子に座らせられて、その上縄で縛られている!?


「な、なにこれ……?」


 意味が分からない……。

 部屋で寝ていたはずなのに、なんでこんなところにいるんだ?


「おやおや、目覚めちゃったにゃ~?」

「え? 誰?」


 知らない声。

 いや、知ってる。どこかで聞いたような気がする。けど覚えていない。


「まぁいいにゃ~、みゃーの運命の雄のお目覚めにゃ~」


 声の方を見る。

 そこには角を二つ生やし、背中に羽を生やした女の子の姿が。魔人族だ。しかも可愛い。

 って、布面が少なく肌面が多い、胸の谷間もこれでもかと見せびらかす、すごい露出した格好の服装だ。


「って、君は誰?」


 いきなりの女の子の登場に驚く俺。


「みゃー? みゃーはサキュバスのマーニャだにゃ~」

「サ、サキュバス……?」


 サキュバスって大昔に絶滅した種族じゃ……。


「あ? みゃーがサキュバスって言うのは秘密だったにゃ~。サキュバスが生き残っているのは内緒の話だにゃ~」


 え? 何この子? 天然?


「いやいや、なんで俺がこんな所で縛られているんだよ!? 確か俺は自分の部屋で寝ていたはずだぞ!?」

「こんな所とは失礼だにゃ~。ここはみゃーたちの秘密のアジトだにゃ~。お前はみゃーの運命の雄だから連れてきたミャ~」


 秘密のアジト? それに運命の雄? 何を言っているんだ、この子は!?


「むむ、そのポカンとしたアホ面。さてはいまだに状況が掴めてないにゃ? さてはお前アホかにゃ~?」


 なんか、こいつにだけは言われたくはない感があるのは、何なのだろうか?

 でも確かサキュバス種は絶滅したはずなのに……。

 じゃあ、俺の目の前にいるこの女の子は一体なんなんだ?


「ふっふのふ。なんでサキュバスが俺の目の前にいる! 絶滅したんじゃ!? とか思っていそうな顔をしているな」


 なんで考えていることが分かる。

 勘が良いのか?


「それはだにゃ~。サキュバス、インキュバスを含む吸精種は全てが絶滅したわけではないんだにゃ! 中には、少数だが絶滅を免れた奴らもいるにゃ~」


 しかもご丁寧に説明もしてくれる。

 サキュバス――吸精種とは魔人族の種類の事だ。

 魔人族にもいろいろな種族がいる。

 シシィのようなアカム種に、ヴィグナリア将軍のようなヴォルガ種、メイズさんのようなアスラ種。

 アカム種は能力が平均的な種族で、ヴォルガ種は力が秀でた種族、アスラ種は魔法に秀でた種族と魔人族にも様々な種族がある。

 この他にもたくさんの種がいるわけなのだが……。


 って、なんで俺はこんな場面で、こんなことを振り返っているんだ。

 今、俺にとっては絶対的な危機のはずだぞ!?

 それに目の前のサキュバスの格好がすごすぎて、直視できない!


「さて、みゃーの運命の雄であるお前には、みゃーとやってほしいことがあるのにゃ~」

「ん? 俺がお前と何かすれば解放してくれるのか?」

「そうにゃ~。なんだお前、アホだと思ってたけど、実は頭が良いにゃ?」

「いいから! 俺は何をすればいいんだ? さっさとやって解放してくれ!」


 こんな面倒くさい奴、一秒だって共にいたくない! だって面倒くさいから!

 こいつの要望さえ聞けば解放されるんだから、さっさとこいつの話を聞いておさらばしてやる!


「そ、れ、は、だにゃ~。みゃーと交尾をすればいいんだにゃ~」


 ……え?  今なんて言った?


「だ、か、ら、みゃーと気持ちいいことするにゃ~。いわゆる合体にゃ~」


 前言撤回。こいつの話呑めない。


「冗談じゃないぞ! この淫乱! お前みたいな奴に俺の童貞奪われてたまるか! 俺の初めての相手は決まってんだ!」

「みゃーは淫乱じゃないにゃ! こう見えても純情にゃ! 初心にゃ! それに処女だにゃ!」

「信じられねぇ! お前みたいな奴が処女なわけないだろ! っていうかサキュバスはそういう生き物じゃないのか!」


 そう、言い伝えではサキュバスは性行為を糧とした魔人族と聞いたことがある。きっとこいつも可愛い顔して、ヤることヤッているはずだ!


「そんなのは誤解だにゃ! 吸精種はそんな生き物じゃないにゃ! 失礼しちゃうにゃ! そもそもあんな本があるから、みんなサキュバスの事を勘違いしちゃうにゃ! マリーちゃんめ!」


 あんな本とは恐らく、『吸精魔サキュバスのマリーちゃん』だろう。誰もが知るサキュバスに関する官能小説で、俺も何度お世話になったことか。


「え? サキュバスってそんな生き物じゃないの? 嘘? 俺、結構あの本にお世話になったよ?」

「だから、誤解だにゃ! あれはフィクションだにゃ! みゃー達が求める精気はそっちの精じゃないにゃ! 人々の気力の精にゃ! それを糧にして生きてるだけにゃ!」


 なんだ、そういうことだったのか……。吸精ってそういう意味だったのね……。

 って、いやいや、それと俺との交尾は何も関係ない。


「待て! それでなんで俺とそんな行為をしたがる! 俺たち初対面だよな!?」

「そうにゃ! みゃーがお前に一目惚れしちゃったにゃ! これはもうぞっこんだにゃ! そしてずっこんばっこんだにゃ!」


 別に上手い事言えといったわけではないが!

 でも一目惚れか……それは仕方ないのかな……。俺もシシィには一目惚れだったし……。


「って、そんな問題じゃない! 俺はお前とはヤらないからな! だから諦めて放せ!」

「そうはいかないにゃ! みゃー、お前の顔と体を見て、そして匂いを嗅いで、すっかりその気になっちゃったにゃ~!」


 やばい! 完全に発情していらっしゃる!?

 というか初心じゃないのかよ! 完全に淫乱だろ!


「よし! まずはこのズボンを脱がして……」

「やめろ! 放せ! この淫乱!」


 俺は何とかズボンを脱がされないようにじたばたと足をばたつかせ死守する。だけどサキュバスが引っ付いて離れない。


 バーンッ!!!!


「え!!??」

「にゃっ!!??」


 俺とサキュバスは同時に声を上げた。

 爆発音が響き、何かが崩れる音がした。


「ま、まさか! 敵襲にゃっ!?」


 思いがけない救いが現れた。

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