18 メイズ・アールブスタ
兵舎で晩飯を取った後、俺は自室へと戻るために廊下を歩く。
今日はいろいろあった。
シシィ達の手伝いはあったが、行方不明者の発見とまではいかなかった。
それでも手がかりは掴めたし、明日から本腰で動くことになるだろう。
「よし! 明日から頑張るか!」
改めて気合を入れながら部屋へと戻る。すると……。
「うふふ、頑張れる子っていいわね、ふふふ」
声がした。
振り向くと、そこにはメイズ・アールブスタ様がいた。
「お、お疲れ様です! メイズ様!」
慌てて敬礼の姿勢をとる。
「楽にしてていいわ。それにあなたに名前に『様』なんてつけられたら、なんだか寂しくなってしまいますわ」
そう言って、涙を流す真似をするメイズ様。
いやいや、この人は魔王四将の一人、メイズ・アールブスタ将軍だ。
ヴィグナリア将軍と並んだ魔王軍率いる将軍のお一人で、エリィの師匠でもある。
「あなたには私の事をお姉ちゃんって呼んでもらいたいわ」
「いやいやいやいや!」
恐れ多いにもほどがある。
「前まではあんなに仲が良かったのに、今では私の事をそう呼ぶだなんて。昔みたいに『メイズおねーたん』って呼んでもらいたいわ」
「そう呼んだことないですよね!?」
事実仲が良かったときはある。俺が兵士になる前だ。
しかし今では俺は一介の兵士で、しかも底辺の位置にいる。だからそんな俺がメイズ様を気安くお声掛けすることなんてできない。
「それにしてはヴィグナリア将軍やミリエラちゃんには平気で声を掛けられるのよね?」
「いや、あの二人は……」
ヴィグナリア将軍は俺直属の上司でもあり訓練なんかでお世話になる。ミリエラ姉さんはシシィのメイドでいろいろと話を掛ける掛けられる関係にある。
だからあのお二人は結構俺とは近い関係でもある。
「でもね、あなたが兵士になるって時に相談にのったのは私だし、姫様に告白する時に相談にのったのは私じゃない? なのにこんな扱いされて、私悲しいわ」
またしくしくと泣き真似をするメイズ様。
そういわれると困ってしまう。
確かに俺が兵士になる時も、シシィに告白する時もこの人に相談して背中を押してくれたおかげだ。
そう思えば、俺は薄情な態度を今まで取っていたことになる。
「ご、ごめんなさい、メイズさん」
「いいのよいいのよ、いつもみたいに『メイズおねーたん』って言って、私のほっぺにチューってしてくれたらいいわよ」
「しないですよ!? したこともないですよね!?」
この人、めちゃくちゃなことを言うから、実は少し苦手だったりする。
「それよりなんでこんな所にメイズさんがいるんです? 普段こんな所に立ち寄りもしないくせに」
「もう! 弟分のユウ君の様子を見に来ちゃ駄目だって言うの!」
「い、いえ、そんなんじゃあ……!」
「じゃあ、お姉ちゃんにチューしてくれたら許すわ」
「だからしないですよ!?」
何回このくだりをやらされるんだ?
「まぁいいわ。久しぶりにユウ君の顔を見ることが出来たし」
「え? 戻られるんですか?」
「うんうん。ユウ君と久しぶりに話せて満足よ」
そう言って、引き返そうとするメイズさん。
なんだったんだろう……。
と思っていると、急にメイズさんが立ち止まる。
「あ、そうだ!」
「え?」
なんとメイズさんがこちらへ振り向き、俺に近づき、そして。
「えいっ!」
抱き着いてきた!
「ふぁああああああっ!?」
思わず叫び声を出してしまった。
「うふふふ、いい抱き心地ね。これを姫様が独り占めなんて、なんだかずるいわ」
「な、なにをやってるんですか!?」
メイズさんの突然の行動にびっくりする俺。
そうだよ! なんで俺抱き着かれているの!?
む、胸の感触が。豊かなおっぱいの感触がぴったりと!!
おっぱい柔らけー! 俺の胸元でぐにゃりとさせてるぜ!
「さて、続けると怖~いお姫様が来るからこの辺でやめとくわ」
「え?」
メイズさんが離れ、嬉しかった――もとい温かかった感触が離れる。
「それじゃあね、ユウ君」
「うふふ」と笑みを零しながら去っていくメイズさん。
いったい何だったんだろう……。
っていうか、なんだか疲れたよ……。
「ユウ……」
「え?」
その声に振る返ると、そこには俺の愛するシスティア様のお姿が!?
み、見られてた……!
「この浮気者~~~~!!!!」
「誤解だ~~~~!!!!」
そして尚、疲れる夜は続くのだった。
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