16 捜索 その2
「それで、彼氏は昨日どんな行動してたんですか?」
「はい……一昨日は仕事の前に私と少し出掛けておりました」
男性の捜索。
男性の彼女を連れて、俺とエリィは男性の行方を追っていた。
先日の男性の行動を、順を追って探っていく。
しかし、これと言って進展はない。
「それで一昨日はここで別れたんですね」
「はい……そのあと彼は仕事に出掛けていきました」
女性と会っていた最中、男性は特におかしな様子は無かったようだった。
すると何かあったのは仕事中か、そのあとか。
「それじゃあ、彼の仕事先を教えてください」
「はい、こちらです」
女性の案内で、俺たちは男性の仕事先へと向かう。
今日俺たち警邏隊は、一斉に行方不明者の捜索が始まった。しかも全員総出で。
警邏の方は隊長が自ら出るようだ。
警邏の人手が足りないんじゃないか? と思えてしまうが、あれでも隊長はベテランで、やる気になれば何でもできてしまう完璧超人だ。
きっと勤務が終わったら、ゆるふわで涼しい顔をしながら「いや~、大変だったよ~」とか大げさに言って、さも何もなかったかのようにふるまうのだろう。
そんなわけで俺たち下っ端は全員で行方不明者の捜索に打って出れるようになったのだ。
しかもそれが繁華街だけではなく、他の区画でも担当の警邏隊が俺らと似たような感じで、行方不明者の捜索が始まったらしい。
どこの警邏隊も、上に立つものは優秀だったという事だ。
……これなら普段ももっとしっかりしてほしいと思ってしまう。
「着きました」
女性に連れられて、男性が働いている職場へと到着。
俺はその職場の上司の方に事情聴取をして、エリィが辺りを探る。
しかし、やはり特に成果は無かった。
上司に聞いても、先日男性はいつも通り働いており、特におかしなところは無かったみたいだった。
周辺を探っていたエリィも特に何も無かった。
「ん? あの人は何を……でも……まぁ、いいか、関係なさそうだし……」
でもエリィの方で何か引っかかるものがあったのだろう。何か首を傾げていた。
気になるが、彼女も「特に気にしなくていいんじゃない?」って言ってるし、気にしなくてもいいんだろう。
というわけで、職場でも特に何かあったというわけではなかった。
それなら仕事終わりに何かあったのか?
俺たちは男性の仕事場を後にし、男性の家までの帰り道を探った。
しかし、やはりこれといった物はない。
俺たちも女性も途方に暮れていた。
すると……。
「や、やぁ~~。これはユウではないか、こんなところで何をしているのかな?」
そんな棒読みな口調で、シシィが現れた。メイドのミリエラ姉さんをセットにして。
「姫様、こんなところで、っていう割には、ずっとユウ様の後をつけていたではありませんか?」
「そ、それは言わない約束だろ!?」
ミリエラ姉さんにあっけなくバラされて、顔を真っ赤にさせるシシィ。
え? 仕事中ずっと後を付けられていたの? 気づかなかった……。
「あぁ、やっぱりね。ずっとあたしたちの後を付いてくるのがいるなって思ったら、やはり姫様たちだったのね」
そう言うエリィ。彼女はずっとシシィたちが付いてくることに感づいていたようだった。
という事は先ほどずっと首を傾げていたのは、シシィ達がいるのに気付いたから?
ずっとシシィに後を付けられて仕事を見られていたなんて、それをエリィが気づいて俺が気づかないなんて、なんか恥ずかしい……。
「ふ、ふん。別に付けていたわけではない。私も捜索に協力してたわけだ」
「見苦しい言い訳はいいですよ、姫様」
そんなシシィとミリエラ姉さんのやり取りに少し呆れてしまう。
どうやらシシィ達もなんとなしに、行方不明事件を追っていたそうだ。
姫って暇なのかな?
「それじゃあ、シシィ達も事情は知っているってことだね」
「はい。わたくしの方でもそれとなしに辺りを探っておりました」
「え? そうなのか?」
出来るメイドですので、とさも当然だと言ってのけるミリエラ姉さん。
それに対してシシィは「そんなこともしていたのか、お前は?」と姉さんの行動に呆気にとられていた。
「それでミリエラ姉さんは何か見つけましたか?」
「えぇ、かすかにですが……それとユウ様」
「はい?」
「わたくしを『ミリエラ姉さん』と呼ぶのは控えてください、と言っておりますでしょう?」
「あ、すみません……」
「それにわたくしは一介のメイドです。あなたは未来の旦那様でもありますから、敬語もいりません」
「だ、旦那って……」
「そうでしょう? ユウ様が姫様とご結婚なされば、わたくしもあなた様のメイドになるのです」
ミリエラ姉さん、もといミリエラさんの言葉に顔を真っ赤にしてしまう、俺とシシィ。
「……ふん!」
ボゴッ。
「ぐはっ!」
そしてなぜかエリィに横腹を殴られる。
なんで急に機嫌が悪くなったの? 俺何かした?
「そ、それでミリエラさん、かすかにって言ってたけど、何か見つけたの?」
「はい。こちらにですね……」
そう言って、突然歩き出すミリエラさん。その後に付いていく。
そこは路地裏だった。
「こちらに、少し魔素を感じたものでして」
「これは……」
目を閉じるシシィとエリィ。
「あぁ。確かに、かすかに魔素を感じる」
「えぇ。微量すぎて気づかなかったわ。よく気づいたわね、このメイドさんは」
「お褒めいただいて感謝いたします。エリィ様」
メイド服のスカートの裾を掴んで、軽くお辞儀をするミリエラさん。
「まったく当然だろ! 私のメイドは有能だからな!」
そしてなぜか自慢げなシシィ。
いや、そこでなぜ自慢げなんだろう? 別に見つけたのはシシィじゃなくて、ミリエラさんだろ?
魔素とは、別名魔力の滓と言い、魔法を行使した際に発生する残り滓のようなものだ。
強い魔法ほど辺りに膨大で強力な魔素が発生し、微弱な魔法ほど発生する魔素も微量。
そして魔素は身体に有害とされており、強力な魔素ほど健康に影響が出てきてしまう。強力すぎる魔素に近づいて即死といったケースもある。
また魔素によって環境も変化する。微量な魔素であれば何もないが、魔素の程度によってはミストや動植物の変化。そしてひどい場合では何年もその場にはいられなくなるような、といった現象も起きる。
なので、魔法の行使も注意が必要だという事だ。
とはいえよく使う魔法はそれほど魔素が発生せず、身体に影響ってほどでもない。魔素が膨大に発生する魔法も、そう頻繁に使われるわけでもない。
まぁ、魔力に長けた者で、魔法の行使で魔素の量も抑えることが出来る人も中にはいるみたいだけど……。
「ここで何かの魔法が発せられたのは、確かですね」
そう言ってのけるミリエラさん。
魔法を使う者が今回の容疑者か。
「やはりはぐれ魔人族が彼を攫ったのですかね?」
「そんなぁ……か、彼は……」
俺の言葉に、絶望したかのように手で顔を覆い、立ち崩す女性。
それほどはぐれ魔人族は、この近辺では恐れられている。
「いえ、これだけでははぐれ魔族なのかはわかりません」
首を横に振るミリエラさん。
しかし魔法を行使できる者の犯行というのは確かなもので。
「とりあえず、他の行方不明者の事も探ってみないか?」
「わかった」
シシィの言葉に、俺たちは頷いた。
その後、他の警邏隊たちと合流し、情報の共有をした。
そして掴んだ手掛かりを隊長に報告するために、一度詰所へと戻っていった。
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