12 警邏 その3 システィアの憤慨
(※システィア視点)
(時間は少し前に遡って)
私――システィアは現在、勤務中であろうユウと小生意気な娘のエリィの姿をガルバディア城下街の中を探していた。
ちなみに私はこの国の姫だ。普段の私服ではすぐに私だとバレてしまう。なのできちんと町娘風に変装している。
人呼んで『町娘シシィちゃん』姿だ。
「……ん?」
だけどなぜか周りを歩く人たちが私を避けているような気がする。どうして?
もしかして普通の町娘風の格好をしても、私の姫オーラが溢れ出てくるのだろうか?
「なぁ、ミリエラ。私の格好、どこかおかしい所はないか?」
「いえ、システィア様。その如何にも怪しいコート、目深に被った帽子、そしてサングラス姿と、さすがのわたくしでも思わず他人の振りをしたくなるその装い、立派です、姫様」
「そ、そうか? なんか馬鹿にされているような気がするけど……」
「いえいえ、馬鹿になどしておりません。全く。これっぽっちも」
き、気のせいだったのだろうか?
するとやはり私のこんな服装でも隠せない姫オーラが溢れ出ているのだろう。
王族って言うのも、こういう時は困ってしまう。
「単純なお方ですね(ぼそ)」
「ん? 何か言ったか、ミリエラ?」
「いえ」
なんだかミリエラに馬鹿にされたような気がしたけど、やはり気のせいだったか。
いや、そんなことより、まずはユウとエリィを探すことが先だ。
どこだ、あいつらは?
「姫様。私のメイドレーダーが喫茶店の方を差しております」
「ん? よくわからないけど、あの喫茶店に二人はいるのか?」
ミリエラにそう言われ、私たちは件の喫茶店へと近づいた。
そして、いた!
いわゆるオープンテラス席に、あいつらの姿が!
なんだか和気あいあいと飯なんぞを食べている。
くそっ! こちらは飯を食べないで出てきたから、なんだか腹が減って来た。
なのにあいつらと来たら、あんなに仲良しこよしで食べて……!
「姫様。こちらにお食事の用意が」
「むっ? いつものことながら本当に気が利くな」
「いえ、ただの優秀なメイドですので」
自分で優秀って言うのはどうなのだろうか?
「それで……これはなんだ?」
「アンパンと牛乳です」
「なぜ?」
「こういう尾行している時には、このアンパンと牛乳が必須なのです」
「そ、そうか。本当に気が利くメイドだな」
「いえ、ただのめちゃくちゃ優秀なメイドですので」
だから、なぜ自分で優秀って言ってしまう? しかもめちゃくちゃと言ってるし。
そして私たちはユウたちの食事風景を覗きながら、アンパンを齧っていた。
あっちはちゃんとした食事で、こっちはアンパン。なんだかものすごく差を感じてしまうのはなぜだろう。
「ふむふむ。なんだか仲良さげな感じですね、姫様」
「そ、そうだな……」
「端から見たら、お似合いのカップルと言った感じでしょうか?」
「そ、そうか? そ、そそ、そのようには全然見えないと思うけど。あぁ、全く、これっぽっちも」
「おやっ? なんだかあーんしているように見えますね?」
「っ!」
バキっ!
それを見て思わず建物の壁を拳で破壊してしまった。
「おやおや、あの二人、あんな仲良さそうに。ユウ様も姫様というお方がいらっしゃるのに、なんて大胆なことを。いやはや、若いって良いですね」
ミリエラのそんな戯言は耳には入ってこなかった。
私の目の前で、ユウがエリィの手によって、「あーん」をさせられているという場面が繰り広げられていた。
く、くやしい! 私もまだそこまでしてないのに!
エリィがどんどんとユウに「あーん」をさせていく。それを見て私は建物の壁をどんどんと叩いていく。
気のせいか、周りの人たちが、悲鳴を上げながら、私から逃げていく。
「もう食事の方は終わったみたいですね。立ち上がって会計の方へと向かっていますね」
「…………」
もう何も言う事が出来なかった。あるのは怒りと、悔しさだけ。
くぅぅぅっ、なぜユウはあんな小娘と、あんな風に仲良く食事なんて。しかも「あーん」まで……!
「姫様、ユウ様たちが店から出られました。このまま追跡なさいますか?」
「あ、あぁ……」
私もミリエラもユウたちの追跡の為に、移動しようとするところ――。
なんとエリィの奴がユウの腕に抱いたのだ!
ガシッ。
私が飛び出そうとした、と同時にミリエラに羽交い絞めされる。
「離せ! ミリエラ! あの小娘を! この手で!」
「いけません、姫様。街中です。ここでは暴れないようにお願いします」
「うがぁあああああああああっ!!」
怒りで目の前が真っ赤になった。
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