10 警邏 その1

 ガルバディア城下街。

 この大陸で一番大きく、ガートランド領内では一番栄えている都市であり、ガートランド領の首都である。

 都市の概要は円形に囲った城壁に、その城壁に囲まれるように都市が存在し、複数の区画で分かれている。その中央には王城であるガルバディア城がそびえ立っている。

 各区画の街々では人々の活気にあふれ、昼夜問わず賑わいを保っている。


 ただ、こんな栄えた都市でも、犯罪が蔓延っている所もあり、毎日複数の犯罪が上がっている。

 なのでこうして兵士自らが巡回し、時には説得、時には実力で解決へと導いたりしなければならない。

 

 これだけ広い都市で複数の区画が設けられているため、警邏に出る兵士も常に人手が足りない状況の中、さらには様々な問題を抱えていたりとしている。

 先ほど出た行方不明の件なども、正直人手が足りないという理由で調査できないと言った状況も出てきてしまう。

 それでも問題や犯罪の件数は減ったりはしない。大なり小なりの犯罪が蔓延ってしまうのも仕方がなくなってしまう。

 とはいえ、仕方ないで片づけるのも国を守る兵士としては問題になってしまうので、兵士たちはてんやわんや忙しく日々責務を全うしているのだ。


「待ちなさい!」


 そして俺達が今追っているのも、また一つの犯罪だ。

 俺とエリィはある一人の男を追って走っていた。前を走る男は後ろをチラチラと振り返りながらも、溢れかえる人の中をただひたすらに駆け回っていた。


「あぁ! もう! 止まりなさい! あんた! 殺るわよ!」


 俺のすぐ後ろで息を切らしながら、キレ気味に走っているエリィ。

 俺らから逃げている男は食い逃げ犯。ちょうど食い逃げの現場を、偶然俺達は鉢あわせてしまったのだ。


「なぁ、魔法を使ってあいつの足を止められないか?」

「駄目よ! そんなことしたら周りの人にも被害が出るわ!」


 それならどうにかしてあいつを止めるしかないって事か……。

 すると男は急角度で角を曲がった。


「しめた!」


 俺達をどうにかして撒こうと急角度で道を曲がったのだと思うけど、残念だ、その先は行き止まりに続いている。

 もしかしたら男は都市外から来た奴かもしれない。街の構図を把握していない奴だ。


 まぁ、この街のすべてを把握してるかって言えば、俺も自信はないけど……。


 俺は小さい頃からこの都市に住んでいるけど、それでもこの都市の全ての道は把握していない。

 とはいえ、男はこのまま行き止まりへ続く道を直進することになる。そこで勝負だ。


「エリィ、任せた!」

「わかったわ!」


 エリィに声を掛け、男の対処は彼女に任せることにした。この先は人もいないだろうから、エリィが魔法を仕掛けても巻き込みは起きないだろう。


「――ちっ!」


 やがて行き着いた行き止まりに、男は舌打ちし急停止し立ち止まった。


「『バインド』!」


 そこをエリィが魔法を仕掛けた。


「うわっ――」


 その瞬間、男が光る縄に縛られた。エリィがよく犯罪者に使う拘束魔法だ。

 って言うかあの縛り方、なんかアレ系の雑誌で見たことがあるな……。確か、『亀甲縛り』とかいう名前じゃなかったっけ?

 女が縛られている姿が映えているのであって、男が縛られている姿は、なんか見るモノじゃないな……。


「ん……。なんか師匠から教わったこの拘束魔法。やっぱりイヤラシイような感じがするのよね……」


 ですよね……。

 でもなんか俺の心に何か燻るものがあるような。俺もエリィにその魔法を掛けられてみたい、って一瞬だけだけど思ってしまった。


「それじゃあこの人、とりあえず詰め所にでもぶち込んでおこうぜ」

「そうね。それが終わったら、お昼休憩しましょう」


 そうして俺は捕縛された男を肩に担いで、詰め所へと連行しに行った。


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