5 システィアの焦り


(※システィア視点)


 朝食を終えて、私は母様――ミスラ・ガートランドと食後のお茶を飲んでいた。

 ミリエラのお茶、相変わらずおいしい。

 朝の優雅な時間を過ごしていると、母様が口を開いた。


「それで、ミリエラから報告がありましたけど、あなた達キスをし損なったって話、本当かしら?」

「ブーッ!!」


 飲んでいたお茶を盛大に拭き出した。


「システィア、あなたも女性なのだから、口から飲み物を吹き出すなんてはしたないからやめなさい」

「す、すみません、母様……」


 ミリエラから差し出されたタオルで口を拭きながら、私はミリエラを睨んでいた。

 報告ってなんだ!? 私とユウとの関係に何か報告することでもあるのか?

 ……たぶんあるんだろうな、私って魔王の娘だし、後継者だし。

 私に睨まれているミリエラは涼しい顔でお茶のおかわりを空いたカップに注いでいた。


「はぁ、情けない。本当に情けないわ」


 そう言ってため息を吐く母様。


「付き合って一か月も経つのに、あなた達はなぜ進展してないの? 普通ならもうヤッてる関係になってるはずだわ」

「ヤ、ヤヤ、ヤッてる!!??」


 ヤッてるって、あれだよな!? 今朝ミリエラが言ってたしっぽりむふふ、ずっこんばっこん、だよな!?


「って、ヤるわけないだろ!? 私たちは付き合ってまだ一か月だぞ!? そんなことヤッたらユウに嫌われるだろ!?」

「だから、言葉遣いも直しなさい! あなたは魔王の娘でありレディーなんですから、お淑やかにしなさい! それに私たちの頃は付き合って一か月目でもう子供が出来る行為もしてたわよ?」


 お淑やかって何!? そういう事言うのってお淑やか的にどうなんだ!?

 って、母様たちの情事なんて、子供心に聞きたくなかった!

 と言うか、一か月でそれって、早くないか? 私の性的感性が間違っているのか?


「わ、私たちだって純粋に付き合っているし、そう言うのってまだまだ早いんじゃないかなって……」


 恥ずかしくなって、最後の方はぼそぼそと呟いてしまう。

 しかしそれでも母様の攻めは揺るがない。


「なんて奥手なの! いいこと? 純粋に初心に付き合うのは結構ですけど、跡継ぎを産むことも考えなさい!」

「そ、そんな話聞きたくない!」


 恥ずかしくなって母様の話を途中で遮った。

 でも想像してみる。裸のユウと私、キスして、抱き合って、そして……。


「~~~~~~」


 想像してしまった。私とユウが交じり合っている姿を。


「……まったく、あなたって普段偉そうにしているのに、こういうのには免疫がないわよね」


 再び母様がため息を吐く。


「ほっといてください! ミリエラ! 今ユウはどこにいる?」

「ユウ様でしたら現在ヴィグナリア様との訓練に勤しんでるかと?」

「訓練?」


 あれ? 今日は訓練の日だったか?


「まぁいい。とりあえず用事があるので失礼します、母様」


 行き先が決まり、部屋から出ようとした時だった。


「システィア」


 母様に呼び止められた。


「あの子、モテるわよ? あなたがそんなぼやぼやしてると、そのうち誰かに盗られるわよ?」

「よ、余計なお世話だ!」


 母様もミリエラもなぜ同じことを言うんだ!

 私がそんなに信用ないか!

 母様のその言葉に動揺しながら、部屋を退出した。


 ユウがモテることなんて知っている……。

 歩きながら、数人の女の顔が頭の中で浮かんだ。

 ユウが他の女と……。

 そう考えているたびに、私の頭の中がぐるぐると回っていた。

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