6 ガートランド軍訓練、ヴィグナリアスペシャル
(※ユウ視点)
ガートランド軍の訓練は、それは大変キツイ地獄のような訓練だと言われている。
入団した瞬間、人としての人格すら矯正されるほどのきつく恐ろしい洗礼が待ち構えていた。
とある実例をあげよう。度重なる不良行為を行う不良息子に困り果てた両親は、そんな息子を更生させようと軍にいれた。
すると当初金髪ロン毛の不良は、
『は? 軍隊? ばっかじゃねえの? そんな時代遅れなモノ、やってられるかよ! 上等だぜ! そんなの一日でバックレてやるぜ! ぎゃっはっはっはっ!』
そんなことを言っていた不良は、しかし一週間後丸坊主姿で。
『父さん、母さん。今までご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。私は目を覚ましました。これまでの行動が恥ずかしいです。私はこれから心を入れ替えて、両親の為、お国の為に誠心誠意仕えて参ります。父さん、母さん、今まで迷惑をかけた分恩返しをしていきます』
そう言って、きれいなお辞儀で父母に謝罪している姿を見て、この彼の性格をガラッと180度変えたことに戦慄を覚えた。
それもこの軍では一回や二回だけの出来事ではない。これが頻繁に起こることから、一部ではガートランド軍は不良更生施設として名が知られている。
特にガートランド魔王軍四将の一人『戦鬼のヴィグナリア』の訓練は地獄を超えたものであった。死者が年に2,30人出てしまうほどだ。ヴィグナリア将軍曰く、「あ、やりすぎた」と軽く言っていた。
それでもヴィグナリア将軍の信望は厚く、むしろ将軍の訓練を生きがいにする猛者が山のようにいるというから驚きだ。
そしてなぜか俺とタナカ、ハシモトはヴィグナリア将軍に特に目をつけられていた。
「タナカ、ハシモト! お前らはまず腕立て伏せ1000回だ!」
「「サー、イエッサー!!」」
ヴィグナリア将軍の指示の元、タナカ、ハシモトにそれぞれの担当官が付く。
タナカに付くのはターナ・イスタール中尉。粗暴で鬼畜な性格と恐れられている。
「頭が高い! もっと下げろ!!」
そう言ってイスタール中尉はタナカの背中に、自らの腰を下ろす。
「おぉ! 背中に柔らかいのが!」
イスタール中尉のお尻が直にタナカの腰にあたり、タナカは悶絶していた。
「おらおら! タナカ! 腰が上がってるぞ! なんだそのへっぴり腰は!」
タナカは腰を高くしながら、それでも懸命に腕立て伏せを続ける。
タナカの腰が高くなった理由は分かっている。アレがでかくなったのだろう。
正直な話、イスタール中尉はタナカの好みだ。そしてタナカの夜の妄想相手だ。
「あぁああああ! あぁあ! あぁあああ!!」
タナカの喘ぎにも似た気合が聞こえる。気合だよな?
タナカの腰の上にその引き締まった尻をのせるイスタール中尉。きっと体重を掛け思いっきりタナカの上に腰を下ろしているのだろう。イスタール中尉の顔はとてもゲスく笑っていた。
しかしなぜかひどい扱いを受けている筈のタナカが恍惚の表情を浮かべているのは気のせいだろうか?
……いや、気のせいではないな。だってご褒美だもん、あれは。
「ハシモト!! もっと顎を地面に付けろ!!」
ハシモトの元にはアウレリア・シュノーベルン中尉が付いていた。
ハシモトの頭を足で踏みつけ、無理やり顎を地面にぐりぐりと擦り付けるシュノーベルン中尉。
なんて綺麗なおみ足――もとい足癖の悪い人なんだろう。
「ぐぁああああああ、あああ、ああ(もっと、もっと!!)」
悲鳴を上げながらなんとか腕立て伏せを実行するハシモト。謎の副音声が聞こえるのが気になるが?
でも気のせいだろうか? ハシモトの奴、涎を垂らしながらすっごい喜んでいるような気がする。
「あぁああああああ!! はぁああああああっ!! あぁああああん!!」
……いや、気のせいではないな。
タナカもハシモトも汚い喘ぎ声をあげながら、それぞれ中尉たちにしごかれていた。
「さて、お前の相手は、私だ!!」
俺へと相対するヴィグナリア将軍。訓練メニューは素手での実戦訓練。将軍は指をぽきぽきと鳴らしている。
あれ? なんか他の二人と違って、こっちはマジだぞ?
そう考えている俺に、将軍は一直線に蹴りを喰らわせてきた。とっさに横へと避ける。
「お前の事を姫様直々に『頼む』と言われたからな! 顔に傷が出来ない程度に指導を入れてやる!」
「そ、それって指導って言わないんじゃ!!」
いわゆるパワハラってやつじゃ……。
俺の抗議も聞く気がないのか将軍は、続けて容赦なく攻撃を放ってくる。俺はそれをなんとか紙一重に避けきる。
「今回の実戦訓練は私に一撃でも喰らわせられたら合格だ! とはいえ、雑魚の貴様なぞが私に一発でも喰らわせるのは無理な話か……」
うるせぇ! ほっとけ!
将軍のセリフに内心で毒づく。
「タナカ、ハシモト! 腕立てが終わったら次は腹筋1000回だ! 休む暇なんかないぞ! さっさと取り組め! イスタールもシュノーベルンも引き続き頼む」
「「「「サー、イエッサー!」」」」
そう言って腹筋を始めるハシモトとタナカ。
これまでも幾度となくパワハラ紛いの熱心な指導を受け入れてきた俺達は、いつの間にかヴィグナリア将軍の特別メニューも難なくこなせるようになっていた。
「さてユウ・サーティス。もしお前が私に万が一でも一発攻撃を当てたら、私はお前の願いをなんでも叶えてやろう!」
「――いや、別にいいです」
「即答だと! なぜだ! この私が何でもやってやろうと言ってるんだぞ! 胸を見せろと言われたら見せてやってもいいし、あんなことやこんなこともしてやろうって言ってるんだぞ!」
「いや、俺にはシシィがいるし……」
「姫様の事をそんな風に呼ぶな! この馴れ馴れしい!」
絶対俺が勝てないからってめちゃくちゃなことを言ってんだ、この人は。
いや、もし万が一でも勝てたら、本当に何でもしていいのか? あんなことやこんなことも?
「…………」
ブハッ!!
想像してたら鼻血が吹き出した。
「やばい! ヤる気でてきた!」
「やはり姫様にはお前は合わない! 私直々に引導を渡してやる!」
将軍が構える。服の上でもわかるその大きな膨らみが強調される。
「ごくん……」
で、でかい……。
将軍の大きな膨らみに目がつられて、俺の性欲がむくむくと高まっていく。まるで力がみなぎっていくような。
「な、なんて凄まじいオーラだ! こいつ、いつからこんな力を……?」
ごめんね! 欲情しただけだからね!
俺の性欲の高まりと共に、気力もますますみなぎっていく。
たまに感じるんだが、俺の力と性欲ってどこか繋がってるんじゃないか? と思う時がある。
将軍もそんな俺に相対して、闘気のオーラを高めていく。
あれ? 俺死ぬんじゃねぇ?
性欲と闘気。どっちが純粋に強いのか、一目瞭然だろう。
「この一撃で決めてやろう!」
将軍が握りこぶしに闘気を込めている。
ものすごい本気だ、この人。俺、絶対死んだな。
葉っぱがひらひらと舞う。
その様をじっと見つめ合う俺たち。
そしてひらひらと舞っていた葉がすとんと落ちた。
それが合図だった。
俺と将軍は一気に走り出した。
「だぁああああああああああっ!!」
将軍が拳を振りながら俺へと殴りかかる。
しかし寸でのところで躱した俺は将軍の腹に拳を入れた。
がぎぃいいんっ!
「くっ!」
将軍の腹筋に阻まれ、拳がジーンと痺れた。
っていうか、なんて固い腹筋だよ! がぎぃいいんって言ったぞ!
でも驚いた、まさか俺が将軍に一発当てることが出来るなんて……。
当の将軍本人も相当驚いているって顔をしている。まさか俺があそこで決めるとは思っていなかったのだろう。
だけど一発入れられた! だから約束通り――。
「よっしゃぁあああっ!! これで将軍のおっぱいが揉める!」
「ま、まて! たかが一発入れたからって調子に乗るな!」
「いやいや! 一発入れたら願いを叶えてくれるって言ったじゃないかっ!?」
「本気にしてるのか、その話!?」
なんだとっ!
それは俺をからかったというのか!
こっちは粉砕覚悟で本気の一発を打ち込んだというのに!
俺の純粋な童貞心を弄びやがって!!!!
「ゆるせねぇええ! 俺はあんたのおっぱいを揉むために本気を出したのに!」
「いや待て! お前さっき姫様がいるからって断ったよな! さっきのあれは何だったんだ!?」
「あれはあれ、これはこれだ!」
「この最低な奴め!!!!」
俺の言葉に将軍はかなりお怒りの様だった。
だけど知ったことじゃない! 俺だって純粋な童貞心を弄ばれたんだ!
「くそっ!!!! もう怒ったぞ! 絶対何が何でもそのおっぱいをおもっくそ揉んでやる!!」
「この最低な奴め! やはり貴様は姫様の相手にふさわしくない!」
そう言って将軍は俺の背後に回り込んだ。
俺の首と足に、将軍の腕と足が絡みつく。
そのまま将軍は俺事後ろへと倒れ込んだ。
「このまま絞め落としてやる!」
将軍の腕が俺の首を絞めて、絡んだ足が俺の足を抑え込む。
やばい! 身動きが出来ない!
それに首が締まり、足も固定されて、俺の身体は将軍に抑え込まれる形でエビぞりになっていた。
しかし……。
将軍の張りのあり弾力のあるおっぱいが俺の背中に密着している! すごい柔らかい感触だ!
かなり興奮してきた!
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
「なんだこいつ!? 急に鼻息が酷くなったぞっ!」
「将軍のおっぱいが背中に! 将軍のおみ足が俺の足に絡んで!」
密着され、俺の性欲値がさらに高まった!
「こ、ここ、この変態! さっさと落としてやる!」
思いっきり俺の首を落としにかかる将軍。
仕方がないじゃないか、こちらは童貞だ。こんな風に女性と密着したことなんかないぞ!
って、やばっ、息が出来ない――。
「今朝、姫様がお前の部屋から出るのを見たぞ! 真っ赤な顔をして! お前、ヤッたのかっ!!!!」
「なんでそうなるんですか! 俺らはまだそう言う関係じゃ――」
「うるさい! 早朝の男の部屋で男女が二人きりなんて、そう言うのしかないじゃないか!」
あぁ、なんかこの人色々と勘違いしているな。
この人、シシィの事大好きだから、たまにすごい保護欲が出るんだよな。
強いて言えば、過保護なお姉さんって感じか?
「貴様のせいで姫様の純潔が! 姫様の聖なる処女が散らされて! お前たちにはまだ早いのに!」
だから誤解だってば……。
やばい、意識が朦朧としてきた……。
あぁ、なんか愛しのシシィの姿が幻になって見えてきた……。なんか、青い顔してこちらを見下ろして……?
「ひ、姫様!?」
途端に将軍の絞める力が弱まる。
気づけば、さっき幻と思ってたシシィの姿が――。
え? 本物? 嘘!?
って、やばいっ! この体勢って!
「姫様! これは何かの間違いで! ただの訓練で!!」
「へぇ? 訓練ってそんな密着して行うものなのか?」
真っ青な顔で弁解を述べる将軍。
寝技をかける将軍と掛けられる俺。それを見てプルプルと震えるシシィ。
嫌な構図が出来上がっている。
「いやいや! 将軍のおっぱいが背中に密着して決して興奮してたってわけじゃないぞ! 本当にさっきまで死の境を彷徨ってたんだからな!」
「そ、そうです! 私がこのような者にそんなハレンチなことを! 本当は少しユウと密着出来て少し嬉しいな、なんて思ってませんから! 姫様の処女がこいつに散らされたと思い、私はこいつを懲らしめようと――!!」
何言ってんの、この人は!?
本当に俺はシシィとそういった行為なんてしてないぞ!
そんな俺達のやり取りに、とうとうシシィがキレた。
「うるさいうるさい! ユウの浮気者!! それに私はまだ処女だ!!!!」
『処女だ、処女だ、処女だ』
俺の頭に繰り返し響くシシィの声。
まさかシシィの口から処女発言が出るなんて。
「ユウの馬鹿! ヴィグナリアの馬鹿ぁあああああああっ!」
その場から駆け出すシシィ。
将軍は青ざめた顔をしていた。
しかし俺は未だにシシィの処女発言に頭がすっかり蕩けていた。
そんな俺に将軍は。
「このクソやろおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
ドゴッ!!
「ぶぐぁあああっ!!」
将軍の本気の拳が俺の顔面に思いっきりめり込み、俺を中心として地面に大きなクレーターが出来た。
そして俺の意識は完全に閉ざされた。
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