4 悪友たちとの会話
(※ユウ視点)
俺は落ち込む重い足を無理やり動かし、兵舎にある食堂へと朝食を取りに来ていた。
朝の食堂は戦争だ。
食べ盛りの兵士にとって食事は、いくら食べても物足りない。
他人から飯を盗られるのは日常茶飯事。もはや弱肉強食で、盗るか盗られるかの世界。「ぼーっとしてました」でおかずを盗られても誰にも文句は言えないのだ。
『盗られても文句なし』、いつからあるか分からないが、この食堂にある訓戒である。
「あれ? 何も残っていない……」
気づけば俺のお盆の上に残っている皿には碌なものが残っていない。あるのは野菜&野菜、そして野菜たち。肉やパンは何も残っていなかった。
ずっと俯いていたから、全く気付いていなかった。
仕方ないので残された野菜を草食動物よろしくといった感じに食する。
「おやおや? うらやま彼女と朝からイチャイチャしててぼーっとしてたのか?」
俺のそんな様子を見ながら話しかけてきたのは、俺の同期で悪友のタナカだ。ボーズ頭でバカそうな見た目をしてるが、見た目通りバカだ。
「まったく、例の姫様とイチャイチャできるなんて、本当にあなたは人生の勝ち組ですね」
そしてこの男も同期で悪友のハシモト。眼鏡がチャームポイントで知的に見えるが、実はこいつもバカであった。
二人とも人族で俺と同じ位の兵士である。位は同じ一等兵だ。
俺はよくこの二人とつるんでいて、よく3バカとか3エロとか呼ばれる。
俺達はバカであり、エロいのが大好きな同士である。
「いちゃいちゃか……」
ハシモトの言葉で今朝の事を思い出す。
あと少しでキス出来たんだ!
だけどあと少しと言うところでヘタレスキルが発動してしまった。
あー、いつみんなが言うイチャイチャが出来ることやら……。
ベチャ。
俺は項垂れて、まだ中身のあった皿に頭を埋めた。
「おいおい、大丈夫かよ……」
苦笑いのタナカにタオルを差し出される。
だけど俺には頭を洗う気力すらなかった。
そんな俺の様子に、タナカは察したのだろう――。
「お前まさか、まだあんな美人と何も出来ていないのか?」
タナカがため息を吐きながら心に傷をつけることを言ってくる。
言うな、俺だってイチャイチャしたいのに……。
「せっかくの美人でナイスバディ、そして王族。あんな逆玉な彼女、なぜ手を出さないのですか? わかりませんね?」
とタナカと同じ反応のハシモト。
「しょうがないだろ! 俺たちはずっと一緒だったんだ! 恋人としてのお付き合いなんて初体験なんだよ!」
そう、俺たちは長く一緒に居すぎた。
だからこそ恋人として意識するのが、すごく、ものすごく恥ずかしい!
あぁ! 恋人になったら秒でキスして、即行為って思ってた時があったさ! 童貞の儚い夢だって今なら思えるよ!
「つーか、こんなところであまり彼女の事を言うなよ! 俺が姫様と付き合ってるってバレたら、いろいろと後が面倒くさいんだよ!」
これはもちろんなのだが、シシィと付き合っていることは内緒だ。こいつらは俺の友人だって事で特別に教えただけだ。
俺とシシィは恋人同士って事をある一部の人たちを除いて秘密にしていた。なんとかシシィと付き合っていることは周りには伏せておきたい。バレたら絶対面倒な事が起きるに決まっている。
だって王族が相手だぞ!? これは絶対スクープものだろ!?
のだが……――。
「全く今更なことを……城中はもちろん、都市中にはすでに話は広まってるってのに……」
「本当ですね。都市中の皆さんがこの二人を温かく見守っているというのに、それなのにこの不始末は」
とタナカ、ハシモトが小声でつぶやいた。
え!? ひ、広まってるって!?
俺とシシィの仲って、広まってるの!? 俺たちの配慮は!? 魔王様方の間だけで認められた仲じゃないの!?
え、なに? じゃあ、最近俺とシシィが一緒にいるところを見て、ひそひそしている人が多いなぁって思っていたのは、そういう事だったの!?
「お前と姫様って、結構鈍いからなぁ……」
「えぇ、もう今や話題の中心ですよ?」
うわぁああああああああ! 嘘だろ!?
もう俺たち一緒に仲良く外歩けないじゃん!?
見ないで! そんな温かい目で見ないで!?
衝撃の事実にだいぶ動揺していると――。
「そこでだ! そんなお子ちゃまなお前に良いモノがある!!」
タナカはテーブルの上に身体を乗り出し、服の中から何か紙袋を取り出した。
「ん? なんだそれ……?」
「これはだな、ふふふ、見て驚くなよ」
いやらしくニヤついたタナカに紙袋を渡され、俺はその中に入っていたモノを取り出した。
って、こ、ここ、これは……っ!?
「ま、まさか……っ!? タナカ! お前、手に入れたのか!?」
それを手に取り驚愕した。
それは本だった。
その本は誰もがよく知る『ある姫』にそっくりな女優さんのエッチな本。
しかしその『ある姫』に似すぎたことから王家で問題になり、いつの間にか発禁対象となっていた。それでも未だにコアな人気を誇り、沢山のエロス共がその本を求めているって話だ。
俺も『ある姫』に似ているからといった理由で、この女優の本を集めているんだが……。
ま、まさか……こんなところでお目見えするとは……。
ちなみにタイトルは『おっぱいお姫様、ラブラブイチャイチャ新性活!』
新性活だってよ! 付き合って一か月の俺にはちょうどいい教本だ!
「得意先の古本屋で見つけたんだぜ? 誰にも言うなよ! せっかくの得意先がガサ入れされちまうからよ!」
「言わねぇよ! そんな貴重なお店、俺もお得意さんになってやるぜ! 紹介してくれ!」
貴重な本を差し出してくれたタナカに俺は親指を立てた。
「これを貸すから、この国の明るい未来に役立ててくれよ、兄弟!」
「そうです! 僕たちに素晴らしい未来を見させてください、兄弟!」
「お、お前たち……」
清々しい程の笑顔を見せながら親指を立てるタナカとハシモトに、俺たちは熱い抱擁を交わした。
持つ者はやはり親友だ。俺達は目に涙を流しながら抱き合っていた。
それを見ていた周りの人たちは、そんな俺達に引いていた。
特に女性たちから蔑みの視線を向けられる。
むしろその蔑みはご褒美です! あざーす!
「ほう? これは朝から美しい友情愛を見せつけてくれるな。なぁ、おい?」
背後から冷たく迫力のある声がした。
その声に背筋がゾワッと寒気が走った。俺とタナカ、ハシモトは同時に立ち上がり、振り返り敬礼をした。
「「「サー、イエッサー!!」」」
俺達は同時に声をそろえた。
目の前に立つ人物は俺達の上司、ヴィグナリア将軍であった。
「貴様ら、朝から元気だな。何を話していたんだ? 私も話に混ぜてくれよ? なぁ?」
堂々と俺達にガンを飛ばす将軍。思わず財布を差し出しそうになる。
「これはなんだ? ずいぶんと楽しそうな本だな?」
「「「サー、ただの本であります、サー!!」」」
俺達三人の声が重なる。そして同時に冷や汗もかいている。
周りにいた人たちは関わりたくないのか、目も合わせず、次々と食堂から立ち去っていく。
「ほう? この本の女はあのお方にそっくりだなぁ。なぁ、おい?」
「「「…………」」」
しまった! この人に見られてはいけない物を見られてしまった。
俺達は顔面真っ青を通り越して、真っ白になりつつあった。
「朝からお盛んな貴様らに朗報だ! 今日の訓練は貴様ら三人だけ特別なプログラムにしてやろう! どうだ、嬉しいだろう?」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべる将軍。
「「「サー、光栄です、サー!!」」」
そう答えざる負えない俺たち三人の心の中は、軽く絶望していた。
ただでさえ厳しい軍の訓練。それがヴィグナリア将軍の直々の訓練となると地獄すら生ぬるいものになる。
「特にユウ・サーティス。お前は私がみっちりしごいてやるから楽しみにしてろよ?」
「サー、イエッサー!」
これから近い未来、悲惨な運命をたどることを想像し、心の中で神に祈った。
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