3 システィアの後悔


(※システィア視点)


 ユウの部屋を出た後、私はしばらく歩いて、角を曲がった所で立ち止まった。

 そして――。


 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!


 自ら壁に頭をぶつけていた。


「私の馬鹿ぁああああああああっ! なんでっ! なんでっ!! あそこで逃げたんだぁああああっ! もう少しでユウとキスが出来たのにっ!! ユウの唇に! 少し前まで子供だと思ってたのに、いつの間にか大人になってたユウの唇にぃいいいいいっ!! 本当はお姉さんである私がリードするはずだったのに!! なんで逃げ出したぁあああああああっ、私はぁああああああああああっ!!」


 欲望を口からダダ漏らしながら、ひたすら頭をガンガンと壁にぶつける。

 私の横を通り過ぎる兵士たちも何やら気まずそうにしながら、声もかけずにみな同情の顔をしながら、見て見ぬふりして通り過ぎて行った。


「やれやれ、姫様ともあろうお方が、本当に意気地なしでございますね」


 と頭上の天井からシュタッと一人のメイドが飛び降りてきた。


「お前は!?」


 現れたメイドの姿を見て、私は驚愕した。


「ミ、ミリエラ! な、なんでお前がここに!?」


 ミリエラは私付のメイド。幼少の頃からの付き合いで、ユウも含めて彼女の世話になっていたこともあり、私たち二人にとって姉の様な存在だ。

 そんなミリエラがなぜここに?


「ユウ様の部屋の天井裏に忍び込んで事を見ておりました。姫様はもちろん、ユウ様もヘタレすぎて、わたくしはただただ残念に思います」

「な、なんでお前がユウの部屋の天井裏に忍び込む……?」

「それはとりあえず置いときまして」

「話を逸らした!?」


 なぜ彼氏の部屋の天井裏に一介のメイドが忍び込むのか、彼女として、主として問いただした方がいいのだろうか?

「そんなことよりも」とミリエラの説教は続く。


「なんであの絶好の機会にキスの一つも出来ないのですか? 朝ですよ? 殿方もおそらくビンビンですよ? ここはしっぽりむふふと殿方の性処理をする絶好の機会ですよ! なんでその機会を自ら放棄するんですか?」

「せ、性処理って……」


 その単語を聞いただけで、恥ずかしさでもじもじさせてしまう。


「いいですか? 朝の殿方の猛りを鎮めるのは彼女の務めですよ? ここはキスをしながら徐々にそう言う事をしていかなければいけません! そして最後はずっこんばっこんと男女の営みをしてですね――」

「そ、そそ、そんな事朝からできるわけないだろ! そんな恥ずかしいことをして、ユウに嫌われたらどうする! もし嫌われたら私は生きていけないっ!!」


 ユウが私に向ける軽蔑の視線を想像する。

 ……あれ? なんかきゅんと来る? 特に下半身の奥がこうきゅーっと――。


「はっ!? 私は何を!?」


 今王族として、女性としてあってはならないことがあったような……。


「まぁ、まだお二方付き合って一か月ですから、日和見するのも仕方ないかもしれませんね。わたくし含めて周りは急かしてしまってるかもしれません。しかし――」


 ミリエラが真剣な顔を私に向ける。


「ユウ様に想いを寄せる女性は多くいます。分かっていますね? 姫様がそんな調子では横からかっさらわれても知りませんよ?」

「そ、そんなことはない! 絶対に!!」


 ユウに限ってそんなことは――。

 あいつにそんな女なんて……。

 内心どこかもやもやしながらその場から離れた。





 「はぁ……本当に先が思いやられますね……。あなたがそんなことではわたくしのあの子への想いはどうすればいいのですか、姫様?」


 遠くからそんな言葉が聞こえたような気がした。

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