2 朝の目覚め
(※ユウ視点)
「うーん……もう朝か……」
見覚えのある天井。もう何年も見てきた天井だ。
まだ時間はあるな……。
目覚まし時計を確認し、まだ10分ほど眠れることに気付く。
あと少しだけ、あと少しだけ……。
たかが10分、されど10分。布団の魔力にかかるのも容易い10分間だ。
「……ん?」
ゴロンと横へ寝返りを打つと、初めて人の気配があることに気付いた。
「おはよう、ユウ!」
綺麗で透き通る元気な声。
システィア・ガートランド。この国の姫様で、魔王様の娘であった。
「……おはようございます、姫様~」
寝ぼけ眼で俺――ユウ・サーティスは挨拶した。
「むっ? お前、寝ぼけているのか?」
「え~……」
「ほら、何かあるだろ! 恋人が同じベッドの中にいるんだ! ドキドキとかワクワクとか、何か……」
眼を擦りながら欠伸をする俺。そんな俺に向かって姫様はご機嫌ナナメに何か言っている。
「いや~、なんか起きたら姫様がいますな~って」
「はぁ~……」
ため息を吐き、額に指を置き、眉の間をこねくり回す姫様。なんだか呆れている様子だ。
……解せない。
「あのな、二人きりの時は、『姫様』は無しだろ?」
「……あ?」
その言葉に半分目が覚めた。
「二人きりの時、敬語は無しだ。『様』もいらない。愛称で呼べ! 一か月前、そう約束しただろう? お前と他人行儀は嫌だ」
――そっか……。
彼女が不機嫌な理由が少し理解できた。
やっぱり慣れって奴なのかな? 普段通りにやってたよ。
俺はそんな彼女に改めて挨拶をした。
「おはよう、シシィ」
「あぁ、おはよう、ユウ♪」
俺とシスティア姫――シシィは一か月前に恋人同士になった。
シシィと出会って、もう数十年。
初めは父親に連れられたパーティでの出会い。
その後すぐに父が事故で死。ちなみに母は俺が幼い頃に他界。
父の昔からの友人の魔王様に養われて、それからシシィとは何十年の付き合いになった。いわば幼馴染だ。
初めはシシィの遊び相手だったのだが、魔王様にここまで育てて頂いた恩を返すために自ら兵士へと志願。それからは毎日鬼将軍にしごかれて、立派な兵士業を務めていた。
そんな俺の目標はシシィを守護する近衛兵になるのを目指している。
「あの……その、な……」
「?」
もじもじしだすシシィ。
そして上目遣いで言ってきたんだ。
「あの、私たち付き合って、もう一か月だよな?」
「あ、あぁ……」
そう! シシィの言う通り俺達は付き合っている!
俺から告白し、そして! なんと! 奇跡的に! お付き合いすることが出来たのだ!
初めはあの幼い頃のパーティで一目惚れし、日々接していくとともにこの想いは確かなものになり、俺は気づけば告白していた。そしてオーケーされた。
身分不相応の恋だって? でもなぜか姫のご両親の魔王様と王妃様が俺にシシィに告白するよう後押ししてきたんだぜ。信じられるか?
今の時代は自由恋愛の時代だとさ。現代最高!
「私たち恋人同士だろ? もうそろそろ……」
「?」
シシィと目が合う。何か口ごもっている。
シシィの顔をよく見る。顔は整っていて、瞳が燃えるような紅色で、髪は艶やかな黒色。そして頭には立派な角が生えていた。そうシシィは魔人族だ。
そして胸も――おっぱい星人こと俺が興奮するほどの成長を見せていた。
なんて素敵なおっぱいだろう。
もうかれこれ何十何百回、俺はこの胸を何度見てきたことだろう! あの小さいおっぱいが、ここまで大きくなるなんて! 感無量とはこのことだ! このお胸様と共に成長したことを誇りに思うぜ!
俺は毎朝、内心でこのお胸様に向かってお祈りをすることを日課にしている。
おっと、今日のお祈りを忘れていたぜ。
あぁ、乳よ……。
そして口をもごもごさせていたシシィが、意を決したように、顔を赤らめながら言う。
「もう、そろそろ、キ、キキ、キスとか、してもいいんじゃないか!?」
「……え? キ、キス~~~~っ!?」
その言葉に声を上ずる俺。
目を瞑りながら、そんな俺に唇を突き出すシシィ。
途端に目を奪われた。
プルプルして、柔らかそうな唇だ。
そんな唇を見ていると、触れてみたい! 貪りつきたい! とそんな衝動に襲われた。
「ん……」
必死な感じで目をぎゅっと瞑る、唇を尖らせるシシィ。
彼女の中ではもはや臨戦態勢なのだろう。
――お、おお、俺も覚悟を決めないと!
そう心の中で決断し、俺はシシィに唇を重ねようとした。
俺の胸がドキドキしている。いや、シシィの方からも胸の鼓動が聴こえてくるような気がする。
この胸の高鳴り、まったく落ち着かない!
唇と唇が重なりそうな、そんな一歩手前、シシィが突然目を見開いた。
「そ、そういえば、母様に呼ばれていたんだった!」
「そ、それは大変だ! 早く奥様の所に行くんだ!」
「わ、分かった! またな!」
俺たちは棒読みの言葉を交わし、そしてシシィは立ち上がり、ダーッと思い切り早い足取りで部屋から立ち去っていく。俺はその背中にただ手を振っていただけだった。
「ははは……」
もう乾いた笑いしか出てこない。
こんな感じの展開、もう毎日繰り返している。
「はぁー……」
ため息とともにベッドへ腰を下ろした。
「うわぁあああああっ! 俺のヘタレ! あほっ! 意気地なし!」
俺はベッドの上で顔を抑えながらごろごろと転がった。
「もう少しだったんだ! あと数センチ、数センチであの柔らかい唇に――」
俺は想像してしまった。
シシィのピンク色の唇。
ぷにっとしていて少し厚めの唇。
触れれば弾けるんじゃないのかと思えるほどの弾力がありそうな。そんな唇を俺はあと少しで貪れたはずだった!
もし成功していたら、俺はまた一つ大人の階段を登っていたんじゃないのかと思える!
「はぁー……」
俺は枕に顔を埋めた。
もう起きて準備しなきゃいけない時間なのだが、そんな気も起きない。
そんな毎朝を、いつも日課としている。
「ちっ……」
落ち込んでいる最中、真上からそんな舌打ちが聞こえたような気がしたけど、気のせいだよな?
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