76.お宿は富士キャン

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 バスコンは小田原へ戻り、酒匂川を登って東名高速へ、御殿場で降りて富士五湖道路へ。

 道中はまたしても年末カラオケ大会だ。


「あー!富士山だー!」ミキが車窓に食いついた。

 傾き始めた西日を背にした富士山が眼の前に迫る。

「キレーイ!」

「日本人の魂…」

「おーきーね!」「山の女神様デース!」

「富士山の神様は木花之佐久夜毘売、まさに女神の山だね」

「日本の山には神が宿る…こうしてみると説得力あるなあ」

 スーが感慨深げに窓の外を眺める。


 空が赤くなった頃、16時頃にバスは山中湖畔に着く。

 時サンは予約してたウッドデッキにデカいテントを組み立てて、それをお延さんとお次さんが手伝って、あっという間に完成させた。


 おっと私達も手伝わなきゃ。

 時サンの指示で私達は更に小さいテントを組み上げた。

 中でなにやらやってる様子。

 バスの倉庫から銀色の缶みたいなのを幾つか出して。

 他にも色々荷物を出して。


 陽が沈む前に三つのテントとウッドデッキの周りに灯りが付いた。

 そしてテントからニョキっと出た煙突から煙が。


「「「「ほお~!」」」」


 大きなテント二つ、一つはリビング。もう一つは私達の寝室。

 小さなテントは…何と風呂!バスコンの中のシャワーかな?って思ってたら風呂付だよ!

 ウレシー!


「これもうキャンプと違うんじゃネ?」

「まあ、皆さん旅の汗を流して来てよ。食事の準備もしとくから」

 お言葉に甘えてジャンケンで順番を決めて二人一組で風呂で体を温めた。

 テント、上の方に窓があって夕陽の富士山が見える。

 ああ。今年ももうすぐ終わる。

 何か凄い1年だったよ。何十年も何百年も過ごした気分だ。


「アノ人イーネー、時サン?」

「おっさんだよ?しかも妻4人いるし、犯罪だし」

「ずっと私達のため黙って運転したりレストランやキャンプをリザーブして。

 そんな男フィリピンにいないヨ?」

「そうなの?」

「皆、日本で言うとオレサマ!ロクに仕事しないでオレサマ!

 女働かせて酒飲んでばっかりヨ!」

 ヤバ!ミキの目がキラキラしてるよ?


「いや時サンも酒飲んでばっかりだけどね」

「グラシアサンも玉チャンもカワイイし、私も仲間になろうかナ?」

「待て、あの人達は…」

 言いかけて止めた。まともに説明できない。


 風呂場のテントは薪を燃やすストーブで暖かかった。


******


 リビングのテントも暖かかった。

 何故かクリスマスツリーが、そしてなんか小屋と人形が。

 馬やロバもいる、真ん中には赤ちゃんが。カワイイ。


 ストーブでは鍋や燻製肉が温められていた。

 そして振る舞われるスパークリングワイン!

「オー!コドーニュ!イスパーニャのシャンパーニュ、いやシャンパーニュ以上デース!」

「グラシア、それはフランスに喧嘩売るからやめて」

「イタリアだったらフランチャコルタの格付け相当、って事だね」

「お高いの?」

「そんなでも。でもいいワインだよ」

「うわ、フルートグラスまで」

「時様はお酒に拘りますよ」


「じゃあ、乾杯の前にクリスマスらしく短く礼拝的なものをしよう」

 グラちゃんが小さいキーボードでオルガンの音色を奏でる。

「グローリア、インネクシェルシスデオ」

 とても綺麗な声で歌う。

「「「エティンテラ、パクスォニヴス」」」玉ちゃん達が続く。

「「「「ヴォネヴォルンタティス、ラウダムステ」」」」これにミキも加わる。

 お延さん達も、ミキもラテン語で歌っている、スゴイ。


 続いて時サンが聖書を朗読、イザヤの預言だそうな。

 すっかり忘れてたけど、クリスマスってキリスト教のお祭りだったよ。


「では、この世に人の力を超えた神、或いは仏、この世の人々の信じる宗教が人々を守り平和な暮らしを守る事を祈って、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 さあ!宴会だ!


 再びグラ玉が声を合わせて歌い出す。

「「ハークザヘラールドエンジェルスシング、グロリートゥザニューボーンキング!」」

 またミキが加わる。フィリピンはキリスト教だなあ。


「あのおじさま、不思議ネ」「どしたのラン?ローストビーフ美味しいよ」

「キリスト教って言いながら仏教とか他の宗教もって言うのがね」

「あ~。前言ったけど、キリスト教は十字軍とか宗教裁判とか馬鹿やらかし捲った反省で今では宗教対立を禁じて融和を訴えてるんだって」

「そうなの?それって戒律に反しない?」

「そうらしいよ?まあ時サン曰く、人を幸せにしない宗教に意味はないって」

「へー…面白い人ね」


「ホント日本って国は宗教もフリーダムだよね」

 スーも話し始めた。

「神仏習合って言うし、織田信長も豊臣秀吉も徳川家康も死んだら神様だし」

「まああの人達御利益ありそうだし」

「寺建てたり神社建てたり、流石に教会は建てなかったけど」

「昔は神社の隣にお寺あったしね」

「あまりギスギスしないで和やかなのがこの国の良い所だと思いますよ?」

 お延さん。お風呂上りだか、色っぽい。


 何だか向こうは歌いながら盛り上がってる。

 時サンもなんだかんだ合唱に参加してる。飲みながら。

 皆何故か音感がいい。何故だ?護児堂教育の成果か?

「いやー、日中運転だったから飲めなかったしねー」

「そらそーだ」

「明日は朝食べて甲府へ出発だよー」

「…早起きは期待しない方がいいかも」


 グラ玉にお次さんまでミキと核反応起こして盛り上がってる。

 何気にオタクっぽい話にスーも加わってる。

「この人形がクリスマスのお話なんですか?」

 ランがお延さんに色々聞いてる。


 こりゃ半徹コースかな?

「今夜はウチ以外お客さんいないんでちょっとは騒いでもいいってさ」

「ちょっとで済めばね」

「20時になったらお騒ぎ禁止で」

「トキサーン、次ヨ!オー、リトルタウンオブベトレヘム~」


 初日の疲れか、その日の内に一人づつ眠りこけて時サンが寝室テントに抱えていく事になった。


******


※本キャンプ場は架空の物です。

 自前で風呂出して風呂炊けるキャンプ場が富士山麓にあるかは謎です。

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