74.ガイド小田原城2 江戸時代唯一の関東天守

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 小田原城、二之丸御殿の先には内堀で隔てられた岡、本丸。

 その手前に盛り土された階段と橋、そして階段の上に建つ、高麗門じゃなくて白壁に門が開いた埋門と、コの字型の多聞櫓で固められた桝形門。

 本丸の入口、常盤木門だ。


 そんな大した坂でもないのでホイホイ昇ってホイホイ潜れば、目の前に徳川家康公も、明治天皇陛下もお泊りになった、元小田原離宮の本陣即ち本丸御殿。

 その甍の向こうに天守の最上階がチラッと見える。


「「「「「ほえ~」」」」」

 本丸御殿の大広間は規模こそ小さいがプチ二条城みたいな格式の高さを感じる。


「本丸御殿は徳川将軍家の為に用意され、普段の立ち入りはありませんでした。

 天皇陛下のご行幸にも使用され、その際に改造するか論議があったが「そのままで」との御聖断があって江戸時代のまま残される事になりました」


 そしてその向こうには聳える天守!

 多少頭でっかちな感じだけど、窓の上下を横長の出っ張った梁、長押が何となくオシャレで九州で見た天守よりファッショナブル!

 あ、これ江戸城の天守や櫓と同じだ。


 次グラの目が輝き、九州旅行で私がプレゼントしたタブレットに向かい手が動く動く!


「関東地方で将軍家の江戸城、開幕以前に豊臣政権で築かれた沼田城、甲府城、笠間城、そして小田原御在所を除けば江戸時代で唯一上げられた天守がこの小田原城のものです。」


 そうなんだよ。九州で見た様な立派な天守って、我が関東地方にはあんまし無いんだよね…


 さあ、天守へ…

 あれ?常盤木門の櫓の入口にあるあのアニメキャラっぽい看板…?

 あ、スー猛ダッシュ!お次さんとグラちゃんも猛ダッシュ!

 さっき言ってたゲームのキャラかあ。そういや九州でもチラチラ見たなあ。

 実在の戦国武将までイケメンキャラにしてしまうとは、日本のオタク文化恐ろしい。


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 しこたま物欲を満たしたオタ三人の首根っこを引っ張って天守へ。

 天守は畳も無い板の間に、武具や鉄砲等が展示されていた。

 そんな中異色だったのは天守の模型…模型というより立体設計図、雛形だった。


「この4フロアのテンシュはどこのお城?」

 ミキが聞く。4フロア?あ、1層は地面、グラウンド扱いか。外国は違うんだ。

「これはこの小田原城に五層の天守を上げようとした計画で、実現しませんでした」

「オー、残念!」


「全国統一とポルトガル・スペインの影響を追い払った江戸幕府には、江戸城以外には五層天守は要らなかったのです」

「京や大坂とは違うネ?」「う~ん、そうかもね」


「そうだよ。元々日本は西と東では城の考えが違って、織田信長以降の石垣や天守の城ってのは西日本、東日本は秀吉配下の大名以外は土の城なんだよ」

「それ…観光的に東日本ショボイって事じゃないの?」

「いやいや、土塁に御三階櫓でも、関東らしい美しい景色はあるんだよ」

 ホントだよね時サン?


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 天守最上層、祭壇がある。

「天守の最上層に神仏を祀り加護を祈る風習がいくつかの城にあります。

 小田原城では仏を守る日光の神、摩利支天を祀っています。

 日本では楠木正成、毛利元就、山本勘助等良く信仰された守護神です」


「仏様は神じゃナイです!」

「その辺日本の仏教はやわやわなんで」


「ハヌマーン…ハニュメンとか仏法の守護神じゃね?怪獣もやっつけるぞ?」

 何だかスーが援護した。怪獣って何だよ?

「インドでも神様扱いだね。仏教と他の宗教が融合してるみたいだね」

 時サンから頼もしい援護が。

 それはさておき。


「右手をご覧下さァ~い!」これ一度やってみたかったんだ!

「何故か司ンのテンション高いナ」

「城の西側に、五層の天守が見えます、あれが中世北条氏の小田原城を攻め落とした、豊臣秀吉の小田原御在所、別名一夜城です」

「ワンナイト…あっという間に出来た城デスカ?アレガ?」

「その秘密はあちらに行ってから、ね」


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 白く輝く天守の裏、鉄門から本丸を下ると…

 丘の上に白壁と石垣、その下の内堀に、崩れた石垣が。

「こちらの、石垣が綺麗に並んだ状態で崩れているのが、関東大震災で本丸の上から崩れ落ちたものです。

 その猛威を記録すべく、本丸の石垣を復元し、この崩れた石垣はこのまま保存したものです」


「震災の爪痕を保存しつつ復元までする余裕がある日本、やっぱスゴイ」更に変な感心をするラン。

「あんな上から綺麗に落ちたものね!」変な感心をするスー。

「ひえー!」単純に驚くミキ。


「皆さん驚くところが夫々個性的ですね」

「お延さん、流石に冷静だ…」


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 再び銅門を出て馬出曲輪を西に。

 城の正面で見たのと同じ小綺麗な二層櫓が、南曲輪の東西の端に並ぶ。

「天守もですが、小田原城の建物は江戸城と同じ格式、窓の上下に長押が壁から出た形で漆喰で塗られ、装飾性ある姿をしています。

 櫓の初層も江戸城同様出窓の上に入母屋屋根が乗る、装飾と戦闘性を兼ねたデザインになっています」

 

 ふと、大坂城で見た三層櫓の行列を思い出した。

 大坂城は長押の装飾は無かったなあ。あったらさぞかし華やかだったろう。

 江戸城の二之丸みたいに。


 駐車場に向かう途中、二之丸東南…巽の端にも二層櫓が。

 純白の櫓ってお菓子みたいで美味しそう、なんて思った。


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 等と思いつつ車窓を眺めると。

「あ!ここにもお城がー!」

 何故か城下町に天守みたいな、しかし城建築にしては何かが違う様な、彦根城天守よりド派手な建物が道に面して建っていた。

 時サンが駐車場に止め、皆で天守モドキに入ると…

 外郎屋さんだった!壁には関東大震災で失われた先代の外郎屋の建物の写真…これも華頭窓を三つ並べ、屋根に破風を三つ並べたかな~り派手なものだった!

 浮世絵に描かれた江戸時代の外郎屋も二階は格子窓で大屋根の軒に唐破風を設えた、これまた城を彷彿とさせる立派なものだった。


「「「うまうま」」」グラ玉とミキが試食の外郎をニコニコモグモグ食べている。

 魂が共振しているのか?


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「「「うまうま」」」

 何だかグラ玉にミキが増殖してしまった。

 魂の三つ子かよ?!


「君達さっき外郎食べてたよね?」

「別腹だよ!」「ベルバラヨ!」「またか…」

「レディ〇スカール!レディ〇スカール!」

「それフランス版ね、フィリピンでやってたのかな?」

 私には理解できないミキとスーのマニアックな会話が飛び交うここは、太平洋の波を眼下に見下ろす海鮮食堂。


 何と近所の漁港に漁船を持ち、目の前の生簀から魚を調理する贅沢な食堂だ。


「ワタシこんなの初めてヨー!」「ワタシも!」ランとミキの海外組は大喜び。

「実は私も…」「スーもか!」

「また結構な大事になっちゃって、時サンすみません」

「良いって事よ、学園祭の武勇伝の見物料って事で」

「ヤメテー!!」

「司ンかっこよかったヨー!」

「退かぬ!媚びぬ!ってネ」

「貴様は既に死んでいる!って」

「言ってねーってンな事ぉ!」


 新鮮な魚介に満足して再度小田原方面へ。


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※現実では本丸の常盤木門の中は後北条家のミニ博物館と、戦国ゲームのキャラショップになってます。


※小田原城五層天守案は、元禄地震後の宝永再建計画の一つとして計画され、実現されませんでした。

 その姿は大久保家蔵の模型と川部家蔵の絵図で戦前から研究発表されています。

 無念な事に模型は戦後失われてしまいました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijsaxxxx/27/0/27_KJ00004394794/_pdf/-char/ja

 この模型と図を元に有志の方が写真加工で再現したのが下記の通りです。スゲェ。

http://kaskoba.s500.xrea.com/EN_1721L.jpg


※本丸塁上の石垣が裾野までズリ落ちた遺構は実際に存在し(本丸石垣の復元まではされていません)震災の猛威を語っています。


※お城みたいな外郎屋さんは、その名も株式会社ういろう。

 その特徴ありまくりの本店は小田原名物となっています。

https://www.uirou.co.jp/uiro.html


※小田原から熱海方面にある海沿いの海鮮料理店、「ぱあくえりあやまもと」様は人気の店です。私も昔から会社の同僚や家族を連れて何度もお世話になりました。

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