71.学園祭にて
「「キタヨー!」」
「グラちゃん!玉ちゃん!」
「司ンおひさ~」「大人気ですねえ!」
「お次さん、お延さん!」
久しぶりだ―。グラ玉にもまれる。色々柔らかくて幸せだあ。
「司さん!この間は人生の至福を有難う!興奮の絶頂だったよ!」
「ちょっと時サン言い方言い方ー!!手を握るなー!」
「あれが噂の富豪姉妹…」
「凄い世界が違わない?」
「地上の美…圧倒的美!」
なんか友人ズが距離を取ってこっちを噂してる。
いや君らだって充分アジアンビューティでしょうが。
ウチのゼミの男共君ら目当ても多いんだぞ?
「時尾もだよ」「ギャー!」
「この展示の半分以上下心で出来てるヨー」「ウゲー!」
世の中そんなもんだ、そう割り切ろう!
「本当に、博物館の様ですね」「時様展示室の模型まで作って照明実験とかしてたし」
「あの人凝り過ぎだー!」嬉しいけど重いよ!
そしてあちこちの展示を案内してたら、他のお客さんだけじゃなくゼミの面子まで聞き入ってた。
「美歴女マニアック紀行…」
「これで動画投稿したら年収億超え?」
「コ〇ケでドマイナーな歴史ジャンルなら即壁だぞ…」
ゴメン何言ってんだかわかんない。
******
等と楽しい時間を過ごしていると。
「この歴史は傲慢です!日本はアジア各国に謝罪し賠償しなければいけません!」
面倒くさそうな奴が来た。
ヒスっぽい女とその取り巻きがなんかカラフルな半纏みたいなの纏って入ってきた。
「世界を平和にする国際親善ナンタラ会ダヨ!」
「あんまり相手にしちゃダメよラン」
「ソーイエバ昨日も何だか日本が悪いとかイチャモンつけてか客いたネ」
「後ろの奴じゃね?」
「ちょっと男子、あいつら抑えて!あと女子は教授と実行委員会に伝えて」
だが男子は尻込み。使えねぇ!
「日本が発展したのはアジアの犠牲あってです!
今なお貧困にあえぐアジアのため、日本人全員が財産を投げ打って償うべきです!
この展示は日本の驕りを褒め讃えている!罪の中の罪!
貴方達!アジアに謝りなさい!そして国際親善に尽くしなさい!」
あれは狂人。
本人は自分が正義だと信じ込んでいる。しかし主張は破綻している。
「アジア侮辱してんのお前ダヨ!」
「何ですか!日本人がアジアを語るな!」
「アタシフィリピンから来たよ。そんなのも解んないカ!
私の国がダメなのは日本関係ない、イヤ日本は助けてくれてる。
でもナ、男達がダメだよ、働かないんダヨ!
日本が立派なのはみんな働いてるからダヨ!
お前達もアホな事言ってないで真面目に働け!勉強しろ!バカ!」
うわお、ミキ過激。
「貴方は捏造された歴史を信じています!
日本はアジアを侵略し財産を奪ったのです!」
今度はランが怒った。
「財産奪ったのは欧米ダヨ!奪うのを黙認してお零れに与ったのがアジアの政治家ダヨ!
日本と、私達タイはテンノー陛下と国王様がイラッシャッタから、戦えたんだ。
お前達は日本の敵で、アジアのみんなの敵ネ!
ここは私達が日本から学ぶ大事な場所ダ!ここから出てイケ!」
「何を言うんです、私は日本の嘘を暴き、アジアの明日を導くのです!
アジアンマザーです!!」
やっぱ気〇いだコイツ。なんだアジアンマザーって?
「お前達はアジアに詫びろ!」「神様に背く奴!」「神の裁きが日本に降るぞ!」
後ろの取り巻きがアジアンマザーとかに従って叫び出した。
「神が!」「神に!」
嗚呼。こういう奴は歴史の中の存在じゃない。今でも居る奴等なんだ。
そんで、そういう奴の所為で泣かされた人達がいるんだ。
私はそいつを許せない。
叫び声がした。展示物を鷲掴みにした野郎が居やがった。
やりやがったな?
******
「神様の名をお前の商売に使うんじゃない」
吐き捨てた後気付けば、私は両手でこの気〇いの首根っこを掴み上げていた。
何かキーキー音が聞こえるがよく解らない。
私を見つめる視線に気づく。いや、さっきからずっと視線を感じていた。
お玉ちゃんが、グラシアちゃんが見てくれている。
お延さんもお次さんも、ランもミキも。
そして何でもできる筈の時サンも見ている。
凄く変な気配がした、何なんだろうな?
何だか笑顔で見守られている気がする。
突然気が抜けて手の力も抜け、狂人が床に崩れ落ちた。
「くぁWせDRFTGYふじこ!」狂人達の喧噪がうるさい。
が、ピタっと止んだ。
警察が次々と闖入者に手状を掛けていた。
「もう大丈夫だよ」時サンが隣にいた。
警察は喚こうとする連中に電気警棒を叩きつけ、廊下を引き摺って行った。
「すまなかった時尾君、奴等は留学生として日本に潜入した敵国の工作員達だ。
去年から全国の大学で増えているらしいがウチは後手に回った。
そこの方が通報してくれなかったらもっと騒ぎになるところだった」
教授が私と、皆に詫びる。
「学内の防犯カメラで確認しますが貴女は犯人確保にご協力頂いた事になります。感謝します」警察に感謝されたー!
「何だ、知ってたんじゃん」
時サンに文句を言ってやった。
時サンとお次さんは壊された展示物を調べ、プリンタをつないで直しに入っていた。
「君が奴等に勝つ事もね」
「意地が悪い!」「ごめんよ」
「へへ。勝ってやったぜ!」
時サンに一発拳を入れてランとミキの所へ、そして安心して泣き出してしまった。
「時様酷うございましたよ」「サイテー」
「でもね、絶対司ン負けなかったよ?」「優しく、強い、マリア様デス」
「神様の名前を悪用する奴を、やっつけてくれたよ?」
私達も泣きながら展示物の修理に入った。
何となく解ったのは、この人達がいたから、いてくれたから、
私は怒れたんだろうなあ、って事。
******
学園祭シーズン、全国に出没したカルト団体は敵国の大使館と日本国内の教育者団体が結託して各大学に送り込んだサボタージュ要員だった。
イエズス会の伴天連と同じ様な連中だ。
警察は工作員だけでなく、そいつらの入学を斡旋した共産党系教育者団体、ひいては文部省幹部や票田に利用していた国会議員、更に敵国大使も国際条約を敢えて無視して逮捕し、幾人かは処刑されたらしい。
敵国の抗議に対し、日本は国際裁判所に訴えたが敵国は出廷せず誹謗を繰り返すだけだった。
因みに学内の者もあの気〇を筆頭に退学処分、さらに懲役刑となった。
******
「トンでもない事件に巻き込まれそうだったね」
「事件じゃないよー。もー国際紛争だよー。」ウンザリだ。
「中には無理やりカルトに参加させられ財産巻き上げられた学生もいたみたい。
無事でよかったよねー」
「無事だったのは、あの時ランとミキが反論してくれたからだよ」
「何言ってんの!止め刺したの時尾ダヨー!」
「『神の名を使うなー!』パパ様(ローマ教皇)でも言えない20THセンチュリー最後のエバンジェリン(福音)!」
「ヤメテー!」
学園祭の喧噪も冷めやらぬ中、私達はじゃれ合っていた。
******
例の事件の翌日はパニックに近い人の入りだったよ。
ヒィヒィ言いながらお客様の案内を中断し食堂へ。
「時尾さん~、なんか大変だよ」
「え?何?」
「ホレ」とスーが持ってきた保守系の新聞。
『学園祭を襲うカルト、全国で逮捕』そうだね。
『果敢なる女学生、不逞の輩を鎧袖一触』…
『狂信者を締め上げ神仏への冒涜を一喝』…
「ビ~~エ~~!!!」
何だこの新聞はぁ!
「おい、あれ観光ゼミの女〇オウ」
「引かぬ!媚びぬ!って言ってた子?」
「我が生涯に一片の悔い無し!って侵入者を絞め殺したって」
何じゃそりゃー!!殺してないしー!
そんな好奇の目を浴びつつ再度ゼミの展示案内に戻りましたよ。
このカルト捕り物騒ぎもあってか学園祭人気投票で観光ゼミは文系で最優秀賞貰った。
普段の文系よりブッ千切りの得票で名指しで壇上に上げられたよー!
カンベンしてくれー!
その後の打ち上げは楽しかったなあ、超二日酔いしたけど。
飲む酒を選びながらだったせいか、頭痛や吐き気は弱かったけど、力が入らず寝込んでる中、思い出すのは天守、御殿、車窓…温泉…そして、お延さん、お次さん、グラちゃん、玉ちゃんの笑顔。
あと後ろで酒ばっか飲んでる時サン。
うえ。また眩暈がしてきたよ。
******
※この世界の20世紀末、Youtubeはあるか分かりませんが動画配信は10年前倒しであるみたいです。
※敗戦してないので日本の警察もアカデミーの無法でも学内に突入してきっちり取り締まります。
犯罪者への殴打なんかも事情によって賞賛されます。
加害者の人権より被害者の人権、大事。
※今回で九州北編はおしまいです。次章にご期待下さい。ちょっとショボくなります。
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