60.ガイド宇土城 宿はホテル〇航熊本

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 新幹線一駅で今度は宇土駅下車。

 そう、熊本城宇土櫓で有名な宇土です。

 駅前はちょっとガランとしているけど、ここから天草まで行く天草線が発着する都合でこうなったとか。

 駅からはバス。ちょっと賑わう町を抜け、学校のある城北地区を抜け、そして三之丸大手門へ。

 大手を潜るとその先に三層のどっしり目の天守が見えた。


「ここ宇土城は平安中期から西向こうの丘に城が築かれ、この地に移ったのは16世紀末に小西行長が封ぜられた時です。

 天守を持ち、北側は湿地と運河が巡り、町屋が並ぶ惣構えがありました。


 加藤清正がこの地に入封、この城も全て埋め立てられ、新たに石垣の高さを倍近く、構築技術も新しく増強され、現在の壮大な規模に改められました。


 清正はここを隠居城とする予定でしたが隠居を前に死去したため叶わず、加藤家が改易し細川家が着任した後は幕府の監視職が置かれ切支丹勢力への抑えとして存続しました。


 なお宇土櫓というのは、宇土城が縮小された際家臣団が熊本に移住し、宇土方面に住みこの櫓の守備を担当したので着いた名前で、移築された物ではありません」

 

「清正の遺言では万一豊臣と徳川の戦いとなった際には宇土城の建物を全て熊本に移し、豊臣秀松か豊臣秀頼を迎えようと考えてた節はあった。

 結局親類筋を辿って日出に行っちゃったけどね」


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 支城として最低限の建物が残されたせいか、三之丸も二之丸もレトロな町役場があるだけで落ち着いている。


 高石垣に囲まれた本丸に聳える黒い天守も、静かに座っている武士の様だ。

 しかしさっきみた八代城天守の様な、今まで見てきた柳川城や佐賀城の天守の様な雄弁さはなく、小高い丘を石で固めた本丸で静かに座っている。


「ガイド試験のために色々調べてるとさ、江戸時代の藩があった城の廻りの支城って色々残ってて。

 ほとんどが昔の本城だったのが今の藩城に引っ越した後に残ったもので、なんかポツンとした寂しさがあるんだけど。

 その中でも戦国の英雄の隠居城ってさ、何か寂しい感じがするよね。」

「隠居城というと、秀吉の伏見城は隠居城といいつつ戦争外交の晴れ舞台だし例外だね。

 前田利家の富山城や高岡城、その子常利の小松城。

 黒田官兵衛の中津城。

 どれも天守のない穏やかな城だね。

 それを感じられる優しい感覚は、司さんならではのものかな」


「やだちょっと止めて」

「あら」「おや」「「オヤ~?」」

 こら4姉妹。


 天守の最上層で、海風交じりの潮気を感じつつ、城址を囲んで広がる田んぼを眺めつつ、思いは大坂の変を前に急死した英雄、清正公を思う。

 南蛮征伐で暴れまわり、熊本の英雄となったその人は、ここでのんびり暮らしたかったんだろうなあ。


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 そろそろ日も傾く中新幹線で清正公の聖地、熊本へ。

 駅から送迎バスでホテル〇航熊本へ。

 うはー!ここからもお城が丸見えだー!

 つか何?ここスイート?

 温泉は無いかあ?残念、街中だもんね。

 でも室内のお風呂快適~!

 結構海沿いを移動したからさっぱりしたかったのよね。


 夕食は馬肉!馬刺し!

「「うんま~!!」」「馬だけに…フフッ」

 グラ玉姉妹魂の叫びにお次さんが何かツッコンでる。

「口の中で蕩けますぅ~」やめてお延さん色っぽ過ぎ。

「昔怪獣映画のヌイグルミ俳優で有名な中〇さんが山の獣の肉じゃないと体力が持たないって言ってて熊や鹿や馬の肉ばっか食べてたって」

 聞いてねえって。


 で、時サンいつもの酒は「美少年」?

「え"?そういう趣味?」

「美少女だったらいいんかい?!」

「お巡りさんコイツです!」

「「あははは!」」「うふふ」「美少年イイネ!」コラお次!

「由来は李白の詩だよ!」

「おやアカデミックね」


「この酒造は18世紀半ばに熊本藩主細川家の命で酒造を開始した。

 暑い九州での日本酒造りには苦労したろうね。

 長く熊本の日本酒の代表格だったけど、最近米会社から裏金を渡された蔵元が農薬を過剰に含んだ米を酒米にしようとして…」

「ちょっと!そんなの飲んで大丈夫?!」

「内部告発保護制度でその年の酒は全量廃棄。

 卸元も廃業、蔵元も辞任。

 美少年も暫く純米大吟醸の高級品を、別名称で普通酒価格で販売。

 過去の蓄財を全部使い果たしつつ他企業に事業譲渡して銘柄を復活させたんだ」


「あ…事故米密売事件か」

「流石司さん、憶えてるね」

「何人も死刑になったからねえ。償いって、大変ねえ…」

「人が口に入れるものだからね。

 勇気ある告発のお蔭で今では200年の伝統を失わずに済んだんだ」


「世の中美味しい、楽しい、美しい物ばかりじゃないもんよねえ」

「それでも世の中には美味しく、楽しく、美しい物が多くあるんだよ。

 それを粗末にしちゃいけねぇ」


「何でもいいけど早く食べないと」

「「うまうま」」

 しまった爆食姉妹に全部喰われる!


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※今やかなり破壊され、僅かに熊本城と同等の技術で築かれた石垣が散見される宇土城。

 往年の姿の想像図は下記ページの中ほどにあります。

 実際本丸の石垣は今は埋められていますが、もっと高く10m程あった模様です。

https://kahoo0516.blog.fc2.com/blog-entry-986.html?sp


※70年代SFアニメ世代にとって日本酒と言えば「美少年」。


 しかし醸造元、美少年酒造が2008年に発覚した「事故米不正転売事件」で1990年代から三笠フーズから事故米を仕込み米に使い、更に三笠フーズから裏金を受け取っていた事が判明、翌年再生申告、14年に破産開始となりました。

 これは日本酒ファン、美少年ファン(ヤな言い方だな)を失望させました。


 その後各社から支援を受け、熊本郊外の温泉地菊池市にある廃校された校舎で醸造を再開、2013年から銘柄を受け継いでいます。

 熊本で酒、と言えばこの話題を無視できなかったもので。


 あ、流石に現実では死刑になった人はいません。

 現在の日本には犯罪者には無限の人権があっても被害者と遺族には人権はありませんので。


 しかしこの時代の流れでは、学校給食に汚染米を流した外道は死刑です。

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