58.ガイド柳川城 水面に映る壮麗五層天守

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 20分足らずで次のお城、柳川城へ。

 駅の近くにお堀があり、船が泊っている。

 それに乗って町の中へ。


 観光用だろうか、堀の周囲は昔の景色が整えられていて、それこそタイムスリップしたみたいにのんびりと進んでいく。

 あ、その先にチラっと天守が見える。


「水の町柳川では、万一戦いになった時は水門を閉じて城下町全体を水没させ敵を近付けない仕組みになっていました。

 佐賀城でも同様で、低地の水郷ならではの防御法です。

 城下町はたまったもんじゃないですよね」

「「あははは」」「全くだあ」

 グラ玉コンビだけじゃなく、船頭さんも笑ってる。


 船は何度か堀を曲がり、広い内堀に入る。

 掘の周りは古い民家や蔵が並ぶ。

 やがて家が姿を消し、柳並木とその向こうに武家屋敷、という景色に替わると城門が見える。

 そこを更に船は進み、一際広い堀に…本丸とそれに続く二之丸を囲む内堀に出る。


 奥の本丸には石垣の上に櫓が並び、その先に五層の天守が聳える。

 その手前は土塁造りで、大きな櫓門が口を開けている。

 この二之丸太鼓門に架かる橋の保てで船を降り、城内へ。


 本丸は高石垣で、その東にくっつく二之丸は土塁の上下が低い石垣という、鉢巻土塁なのね。船から降りて二之丸に続く橋のたもとへ。


「16世紀にこの地を治めた蒲池氏を謀殺した龍造寺氏が織田家の九州征伐によって改易され、移封された立花氏が柳川城を近世城郭として整備し、今に残る柳川城を完成させました」

「田中吉政の出番なくなっちゃったね」

「???

 それはさておき、現在でも城を護る堀はよく残っています。

 二之丸の役所や馬場は学校となり偽洋風の建築が今でも校舎として使われており、本丸御殿は内部を一部洋装に変え、迎賓館やホールとして活用されえいます」


 またまたみんなから拍手を頂く…ってさっき乗ってた船の乗客や船頭さんも聞いてた?

 ハズカシィーっ!


「姉ちゃーん!学校オシャレだけど冷房ねーからキツいんだぜー!」

「学祭御殿でコンサートやっから見に来てよー!」

「うわー!外人の子もいる、みんな激マブー!」

 門から出て来る高校生が笑いながら話してきた!

 何だか年下の子からのラブコールが増えてる気がする。

 何か欲望のカタマリみたいなオーラを感じるよ。

 これって人生の春?!私モテモテ?


「それはナイ」

 お次さんに心読まれた?!

 あー手を引っ張らないで、もうちょっとモテモテ時空を楽しませて―!


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 本丸御殿、檜の間から見上げる天守は、綺麗だなあ。

「佐賀城の破風の無い天守も、久留米城の天守替わりの三層櫓も見応えあったけど、やっぱり破風が並んでる五層の天守が見応えを感じるわあ」

「全国天守人気投票でも上位に入るからね」

「そんなのあるんだ」

「まあ大抵は安土大坂江戸のトップスリーなんだけどね。それに伏見姫路名古屋、更に熊本広島駿府が争う感じ」

「あの~、埼玉のお城は?」

「川越、忍、関宿その他は御三階櫓なんで対象外だよ」

「サビシィ~ッ!」


******


 天守の五層目は、欄干が外に張り出すのではなく、雨戸の内側に収まる内廻縁で、もう少し規模が大きければこの天守も南蛮造りになっていたかも。

 そこから眺める景色は、広がる城下をくねくね廻る水堀。お城の南側に、大政奉還後に城を出た立花氏の邸宅、「御花」が見える。


 今でもこの街の人々の尊敬を集めているみたい。

 日本は幕府から明治政府へ計画的に権力を移譲したから御殿様が今でも愛されている街って多い。


「因みに…」

 時サンの方を恐る恐る向くと。

「私のいた時ではこの城は本丸の石垣が1メートルくらいの高さで数十メートルの道沿いに残ってるだけ。

 天守以下建物は全滅、石垣も堀も消滅。

 幕末に九州各地で特権を失った武士が蜂起した。

 それが柳川に飛び火するのを懸念した家老が、彼等の出鼻をくじくために天守を焼いたんだ。

 その後痕跡が残らないくらいに破壊されたんだ」


「ウゲェ…この城を消し去った代わりに反乱は無かったの?」

「ああ。城と引き換えに無駄な血は流れなかったよ」

「それは。よかったんだねえ」


 不思議な因果で私のいる歴史と、そうじゃない歴史を知ってしまうと、何だか目の前にあるお城が幻の様に感じてしまう。

 あ、三之丸跡のグラウンドからさっきの欲求不満ボーイズが手を振ってる。

 私も男子達に手を振り返した。


「時サンも高校でカノジョとかいたの?」

「キリスト教の男子校でした」あ"~。

「御愁傷様。だから拗らしたのね?」

「うるせぇ、ってか何だよ拗らしたって」

「さぁ?」

 後ろでお延さん達が大笑いしてる。やってやったぜ。


******


 柳川でも武家屋敷の宿があって、今夜はそこでご一泊。

 広い堀の向こうに並ぶ東西の三層櫓、その向こうに聳える天守を眺めて和室で寛ぐ。

 左右の街並みは、同じ様な武家屋敷の宿だ。

 前の堀を、船が往来する。


「和むねえ~」

 陽が傾き、空が色づくと景色が更に美しく感じる。

「ガイドの仕事は基本旅行代理店から声がかかるけど、有名な人になると直接指名される事もあるみたいだよ?

 そういう時いい宿やレストランを知っておく必要もある。移動する手段やお得な周回切符とかもね」


 時サンは「国の寿」ってお酒を飲んでる。城下の目野酒造のお酒だそうな。


「あのね時サン。私単位取るためだけでガイドに就職するまで考えてないよ?」


「あら。司さんなら海外のお客さんを良く案内できると思いますよ?」

「司ン最初お城好きでもなかったじゃん?今や時サンみたいな城オタ?」

 何と有難いお延さん。城オタって何だよお次さん。でもねえ…


「イエロー」

 長崎で陽気な外人さんが言った言葉が気になる。

 ガイドになればああいう差別と直面する事になる。


「ちょっと難しいなあ」

とだけ答えた。


******


※本当は立花氏が関ケ原の戦いで飛ばされ、田中吉政が転封されて近世柳川城を完成させましたが後に断絶、立花氏が復帰しました。

 土着の大名の城と思われながら実は豊臣政権の下築かれた城って、甲府城とか諏訪高島城とかありますね。

 その柳川城の姿を本丸東西の三層櫓をメインにして昔描きました。色つけてません。二之丸歪んでます。

https://www.pixiv.net/artworks/79849137


※この世界では現存天守がムチャクチャ沢山あるので、天守コンテストみたいなのがあります。

 なお大坂城天守というのは寛永期のもので、この後登場予定の天正期豊臣家の大坂城天守を移築した日出城天守は…そこまで一般に知れ渡っていません。

 現在でも秀吉の大坂城と徳川の大坂城は別物と知っている人はどっちかつうたらマニア寄りですからね。

 そして関東人号泣の御三階櫓選外。当然水戸城も選外です。

 水戸城御三階櫓カッケーって思うの私だけか?


※実際の柳川城はわずかな石垣の痕跡と城下の堀、と言うか運河を残して完全に消滅しています。日本三大消滅城(そんなもの無い)で言えば、聚楽第、尼崎城、そして柳川城でしょう。

 指月伏見城・高槻城・長岡城「ちょっと待て」


※柳川市の目野酒造さんは2019年に柳川酒造に改称し、現在でもご活躍されています。

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