55.お宿は城下 城キャン凸?
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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島原城下の、二階建てにした武家屋敷の宿からライトアップした美しい天守を眺めていた。
「あれ飲兵衛様は?」
いつもなら一緒にいそうな時サンがいない。
「今夜は先にお休みです」
「あ…」
見ると、お玉ちゃんもいない。
多分、一緒にいるんだろうな。グラシアちゃんも。
「司さんのガイドっぷりも板についてきましたね」
「あとは外国語だ」
待てお延さんお次さん!
「いやいや!英語だと歴史用語とか相手国に合わせて翻訳するの大変だし!
私が出来るのは案内と質疑応答程度だけ、初級レベルよ!」
「そう?時サン遣り込めてるの見てると、サビエル辺りなら撃退できるんじゃね?」
「お客さん撃退してどーすんのよ!」
「それ位説明できるし、納得して頂ける、そんなお話を司さんなら出来るという事です。ね?お次?」
「う~、言わんでよ~」
照れるお次さんも珍しいなあ。
「お玉ちゃん大丈夫かなあ」
「大丈夫ですよ。
時々時様に甘えたくなるんです」
あのオッサン、そんな甲斐性あるんだあ。
「お玉ちゃんは結果的にそんな酷い事に巻き込まれる前に、時様に救って頂けた。
グラシアさんも。
御両親とは離れ離れになっても、時様が守り通して下さった」
「もし時サンが何もしなかったら?」
「そんな訳はないですが、もしと言うなら…」
「お玉は一揆で討ち死に。グラシアは一人身で追放、悪けりゃ切支丹として。解るでしょ?」
「やっぱスゴイなあ、あの人…」
お延さんやお次さんだけじゃなくて、グラシアちゃんやお玉ちゃんのためだけに歴史を変えちゃったのか。
琵琶湖運河も、南蛮征伐も、天下三代禅譲も。
「でもなあ、時々思うんだ。
時様の力が私にあったら、どうなってたかなって」
「お止しなさいお次!」
「大丈夫だよ姉さま。
私だったら禿鼠も大坂も焼き尽くす。でもね」
「でも?」
「何も良くなりゃしないし。
むしろ日本が泥沼の戦国に戻って、ポルトガルやイスパニアに食い荒らされるだけ。
こんな楽しい事が一杯の国なんか出来上がる筈ないよねって」
そうかも知れない。
「時様は歴史を知っていた。
もし知らなくても、未来を見て考えた筈だ。
そして色々細かい事を調整して、私達を救ったんだ」
調整、か。
お次さんの言う様に、目の前のみんなを救うだけだったら、色々な選択肢があった筈だ。
それに一時みんなを助けても、誰かを継の為政者に祭り上げても、ソイツが外れだったら。
長崎で聞いたみたいな、何万人が一瞬で焼き殺される未来だってあったかもしれない。
もしかしたら…いや。
私どっかで聞いた事があるかも?
「あのね、私SFとか知らないけど、過去に戻って色々やっても、何だか知らない間に結局元通りになっちゃう、そんな話、聞いた事ない?」
「歴史の自己修復ってヤツね。でもそれはウソ」
お次さんが言い放つ。
「歴史は分岐する。
時様はちゃんと分岐させて、悲劇を回避してる。
日本だって第二次大戦で焼け野原になってない。
まあ…その分他の国がしわ寄せ喰ってるかも知れないけど、それはその国の努力不足。
史実でも悲惨だったそうだし。
やっぱ、分岐させてんだよ、時様」
「お延さんもそう思う?」
「私は難しい事は解りませんわ。
でもね。
私は時様を信じます。
皆を救いたいって思うあのお方を信じます」
「そうだよ。
時様はね、あの禿鼠の子だって、他の捨て子の赤ちゃん達だって、下の世話を嫌がらずに笑いながらしたんだ。
『ぷりぷりころころ、にっこにこ~』、なんてね」
「うふふ!そうね。
時様は赤ちゃんのお世話がとっても楽しそうだったわ」
「下した時も大変だったけどね。
『おしりふきふき、きれいきれい~』って、夜中でも。
自分だったら、自分の子供でもそこまでできるかって考えた。
でもあの人は、この小さい子を見殺しにできなかったんだ」
そうなんだ。
旅の途中、地道に私達の荷物を右へ左へ動かして城巡りの邪魔にさせなかったり。
グダグダのんびりの旅なのに、乗り換えの時間とかあんまり気にせずに済んだり。
気遣いの人なんだなあ。
ニコニコ語るお次さんの目に、涙が滲むのが見えた。
「それに内府…いえ御隠居…え~、信長公。た…秀吉公と、家康公と怯む事なくお話なされた。
天下を統べる方と渡り合えるお知恵をお持ちなされる方なんですよ」
「延姉!それ言いたかったのにー!」
「私の方が時様とのお付き合いは長いのですよ?」
「うわー惚気ー!」
なにこの本人がいないハーレム!
「それに時様にはもう何百人という奥方が」
「そうそう欧州に匹敵する大陸諸国を統べたとか」
「なんだか大仏様みたいに大きくなられて龍を退治なされたとか」
「なんだそりゃ?」
「いやもう止めて君達」
「「げ!」」「あらぁ?」
渦中の人、本人参上。
「魂の双子、寝ちゃったから。
司さん。話半分で聞いてくれると助かる」
「もう遅いって」「「ねー」」
こうしてグダグダな中、部屋から白く輝く天守や櫓、白壁を眺めながら夜は更けていった。
ライトアップが消えながらも月明りにほのかに光る天守を眺めながら時サンは言った。
「本当に優しい人や頭のいい人、視野の広い人なんか一杯いたよ。
私はそういう人達を見殺しにしてきたんだよ。
ま、しゃ~ないけどね」
この人は4人を、他の人達を救ってきた筈だ。
それでも「見殺し」って言うのは何だろう?
やっぱり私はこの人の言う事がよく解らない。
******
※武家屋敷の民宿はありませんが、本丸キャンプは本当にあります。
城の観光活用も、色々変化しているのは楽しいです。
反面、昨今の文化財棄損事例を考慮すると、破壊者への防御、厳刑化、原状回復義務等も同時に用意すべきですが。
https://shimabarajou.com/shiro_camp/
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