54.ガイド島原城 スッキリした天守と櫓の美観の裏に?

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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「これ、カタカナの『マ』だよね?」

 ホントだ、レールの廻りの丸い飾り、マが4つ…4マ、シマ、島原?

 などとしゃべってるとすぐに北有馬駅。

 有馬氏の本拠地、日野江城まで川沿いを進むと、二之丸脇を山上の本丸、天守に続く一直線の階段が。


「この日野江城は島原の地を治めた有馬氏の本拠でした。

 当初は南蛮貿易による利益獲得で栄えた有馬氏でしたが、切支丹を弾圧したかと思えば一転社寺を破壊しこの日野江城の建材にし、城の西側には神学校セミナリヨを建設しました。


 中世の城郭を石垣や櫓、そして金箔瓦で近世化し、ポルトガル商人を招き豪華な部屋を讃える記録を残しました。

 有馬氏は龍造寺氏の圧力、島津氏の助力等を経て20万石に成長しましたが江戸時代初期に贈賄事件により当主晴信は切腹、その後本拠を島原に移しました」


 ホントよく色々城を築いては移り、築いては移りするよね。

 中腹にある三層櫓から、対岸の原城天守を眺めながらつくづくそう思った。


「切支丹大名の末路なんて知れた物。

 それよりお腹すいたー」


 駅前の屋台で貝や魚の焼き物を頂いた。

「「うまうま」」

 やっぱお玉ちゃんはこうでなくっちゃ。

「うまうま」

「オー!ツカサも食いしん坊デース!」

「はっはっは!」

 時さんは例によって酒飲んでるし。


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 更に島電に揺られ、途中普賢岳の土石流の爪痕を目の当たりにし、島原駅へ。

 地元の消防団が、非難した人々の家を勝手に占拠したマスコミを殴る蹴るで追い出し、土石流から守った美談の舞台だ。

 無論、暴行を訴えたマスコミは棄却された。


 あの時テレビが何局か映らなくなって、好きなアニメが見られなくなって凄く怒った事があったな。

 放送免許取り消し、って初めて知ったのはその4~5年後、学校で嫌われ者の先生がヒステリックに「言論弾圧ー!」とか騒いでクビになった時知ったよ。


「駅が城門だ!」

 凄い勢いで次グラがタブレットに手を走らせている。

 そして正面に、島原城の天守。

 破風飾りのない、天に向かって一直線!のスマートな天守だ。


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 観光バスで島原城へ。

 道の左右は武家屋敷…

 と思いきや、その門には「カフェ」とか「トラットリア」とか「ブティック」とか「バル」とか洒落た看板が。

「和洋折衷ってこの事ねえ」


 そして目の前に迫る、壮大な石垣。


「本当はこの城の外側をグルっと石垣で囲む予定だったけど、着工が遅れて島原の乱に突入して後事が中断。でもこの内郭だけで守り切ったんだよねえ。

 有馬氏の切支丹懐柔がスローテンポだったのが乱勃発を遅らせて民衆の求心力も減らして…」


「それって本当の歴史と比べての話?」

「そです」

「じゃあ本当は?」


「幕府は切支丹弾圧を強め、有馬家はいたたまれずに宮崎へ異動を希望、後に入った板倉家が壮絶な弾圧と島原城完成を急がせ重税。

 それも一因となり一揆に多数の農民や切支丹が加勢し、皆殺しにされたんだ」


「そうならなくてよかったよ」

 それ以上言えない。

「そのお蔭でね、私も時サマと一緒になれたんだよ!」

「…」

 何も言えないよ。


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「有馬氏二十万石の新たな拠点となったこの島原城。

 一揆勢にも破れなかったこの本丸、二之丸は深く広大な堀に囲まれ、二之丸へは北の門、本丸へは廊下橋のみで繋がれる堅固な守でした。

 天守は層搭式で、飾り破風の無いシンプルなものです。

 本丸は大型な三層櫓三棟と、二層櫓五棟に厳重に守られ、廊下橋から天守への道も複雑に防御されています。

 御殿は二之丸の北にある三之丸に築かれ、有馬氏の後松平氏に替わられ江戸時代を治めました」


「本当はさっき言った松倉重政が五万石以下のくせに出世に焦って十万石レベルの城を築いて乱の一因にしちまったってマヌケな話なんだよね」

「ヒデェ」

「おまけに重政は将軍家光に阿ってマニラ侵攻を進言して兵力を集めたり無茶苦茶だった。

 九州の切支丹をどう軟着陸させるか、難問だったなあ…」


「時さんは大勢の命を救ったんだねえ…」

「玉ちゃんを助けたかっただけだよ」

「うひ~」玉ちゃんが照れる。


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 聳える天守は今や乱の資料館になっている。

 林立する三層櫓の中も、美術館や工芸館等に活用され、公開されている。


「最近は二之丸に自動車が入れる様にして車中泊キャンプ場とか本丸にテントサイト開設しようって企画があってね」

「そういや島原城の本丸って御殿ないね」

「御殿は三之丸。乱の時は未完成で籠城軍は大変だったみたい」

「トイレが確保できない籠城はイヤだなあ…」

「今ならトイレシャワーも期間限定なら確保できるしね」


「面白いかもね、テントとかハンモックから天守や櫓を眺めながら乾杯!って。

 安土城や平戸城の城泊もよかったし。グラちゃんも面白いって思うでしょ?」

「ワタシハポンの家にズーッと住んでて解りマセーン!」

「しまったこの子ナンチャッテガイジンだったー!」

「ソノ気も無いのに無理スンナー!」

「どこで覚えたよ?!」

「アハハ!デモ、お城の中で、天守の直ぐ下で、櫓の中で寝て起きて食べるのはトクベツデスヨー!」

「…だよね。最初っからそう言ってよ~」

「ツカサンオモシローイ!」


「まあいいや。ガイドとしては、お勧めコースかもね?」

「もし司さんが観光コース選びを頼まれたら、組み込んでみるのもいいかもね」

「そうする、お値段相応で」

「それが大事だ!」


 本丸キャンプは今はやってない。てか木陰の無い本丸で夏休みにやったら熱中症対策とかタイヘンだよね。


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 本日のお宿は、武家屋敷に二階を増築したお部屋。

 いやコレも高そうだって!


 屋敷に曳かれた温泉にドボン。

 あー、何か肌に優しくてぬるい感じの温泉だなー。飲用泉もある。


 船旅と島原城巡りで体についた潮風を洗い流してスッキリー。

「あーサイコー」

「ハポンはシロにテラ、サケにテルマーユ!サイコー!」

 サイコーなのはグラちゃんのナイスバディだよ裏山。


 そして夕食は…

 夏なのに煮物…

「島原の乱の際、天草四郎時貞率いる原城包囲軍に持ちこたえた籠城軍が周囲から食べられる物を集めて煮たものと言われています…でも割と良いもん食べてるよね」


「おうちで食べてたのより贅沢…」

 お玉ちゃんがボソっと言う。

「お餅なんてお祝いの時でも食べたかどうか、だからね」

「でも、おいしい」

 いつも「うまうま」が無い。

 お玉ちゃん、ここが故郷なのかな。


 なお時サンは例によって日本酒。

「まが玉?またよさそうな酒を…」

「司さんもどうぞ。城下の山崎酒造って酒蔵のお酒だ」

「うはあ!」

 諸国城巡りにして酒巡り。学生の身にしてはゼータクだなあ。

 

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※普賢岳火砕流の人的被害は、この世界では無かった様です。

 無責任な報道の自由とやがら、地元の人々の命を奪う事がなくて何よりです。


※島原城の本丸、二之丸復元図は下記の通りですが、史実ではこの両曲輪を南側に置き、倍の長さで囲った三之丸がありました。堀は無く、石垣だけの曲輪でしたが長大なものでした。

http://cocolog-taro-karino.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-e168.html


※現実では有馬氏は晴信の贈賄事件で切腹、子が跡を継ぐも改易され、出世の鬼松倉重政が封ぜられ、重税を課し堅牢な島原城を築いたのが乱勃発の一因になりました。

 この世界ではそれが起きていませんでした。

 んで有馬氏による切支丹弾圧も過酷でなく、それ故天草四郎がさほどの支持を得られなかったため農民層が集まらなかった等、悲惨さはかなり薄まった様です。


※現実では具雑煮は原城に籠城した一揆軍がなけなしの食糧を煮て耐えた、という謂れです。

 この世界では一揆軍への支持がさほど高くないので、むしろ一揆軍が周辺から掠め取ったという話になっています。

 もっと言うと、史実の籠城軍は海藻で飢えを凌いでいました。討ち取った一揆兵を解剖した幕府軍がそれを悟って総攻撃をかけたのです。

 餅なんて食べる余裕は無かったでしょうね。


※武家屋敷の民宿はありませんが、本丸キャンプは本当にあります。

 城の観光活用も、色々変化しているのは楽しいです。

 昨今の文化財棄損事例を考慮すると、悪用したり破壊する者への防御、厳刑化、賠償改修等も並行して用意すべきですが。

https://shimabarajou.com/shiro_camp/

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