52.ガイド原城・日野江城 異聞島原の乱
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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長崎ではお城ではなく教会と宗教、そして「この世界では起きなかった」原爆について色々考える事になった。
実際この世界で起きなかった事について考えたからってどうなる事でもないよね。
けど、考えずにいられなかった。
そして翌朝、またまたフェリーで島原半島、加津佐港へ、更にそこから島原鉄道で原城駅。
丘の上にひときわ高い三層櫓が輝く。
「江戸初期、切支丹弾圧に耐えかねた信徒が起こしたと言われる島原の乱。
その最後の戦場となったのが島原三城の一つ、この原城です。
元は島原地方の領主、有馬家が本拠日野江城からの移転ために築いた城でしたが、徳川幕府の命で島原城へ移転したため完成途中で城代が置かれただけとなりました。
そこを一揆軍が攻撃しましたが、堅牢な構造であった事と少数とはいえ守城兵がいた事、更に原城攻め以前に島原城での攻防で一揆軍が疲弊していたため一揆軍は敗北する事となりました。
この事例を元に、江戸幕府は全国の大名に命じ、支城の主要部分の維持と幕府派遣の城代を配置する諸国支城見附令、俗に言う一国一支城令を発令しました…
これホントの歴史では支城を全部壊させた、って話だよね?」
何という壮大な無駄…
「お蔭で諸藩は維持費を払ってしかも幕府の視察を常時藩内に迎える破目になった、ってオチ」
「そのお蔭で17世紀中頃にはほぼ日本全土の交通網が仕上がって、18世紀には全国鉄道が出来たって訳かあ。
狙ってやったんなら、江戸幕府、超有能じゃん?」
「さあ。未来を知ってた人でもいたんじゃね?」
「あ…」
駅から国道を渡ると坂道を上がって三之丸大手門。左折して…只々荒野となっている三之丸跡、二之丸跡を進む。石垣ではなく、大手道の左右に土塁の曲輪跡が続く。
すると空堀の向こうに壮大な石垣と、その上に二層櫓。
空堀を渡り、石垣を迂回すると巨大な本丸大手櫓門とその脇に二層櫓。
それを潜って右折、更に左折。左右を石垣に囲まれ、そのまた先を左折。
壮大な石垣に要所を二層櫓に見下ろされ、コの字型に進んだ先を更にもう一段昇って門が…
「オーバーキルってこの事よね」
「城代の兵もこの大手を使って一揆勢を漸減させ、死体の山を築いて攻め手を怯ませたみたいだ」
「うわぁ…」
目の前の、歴史と風格のある景色が突然血と死臭に覆われた気がした。
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「この島原の乱は、切支丹弾圧に対抗したものと言われていましたが、その後公開されたイエズス会の書簡により、スペイン宰相オリバーレス伯のアジア貿易復活を狙って引き起こされたものと判明しました。
結局失敗し、この後ポルトガルはスペインと戦争の末独立する事となりました。
諸行無常よねえ」
「実際15世紀末の日本から輸出される銀の量は凄かったからねえ。
日本はかなりの貿易赤字を金銀の産出で埋めていたんだ、モンゴル帝国みたいにね」
「それもバブルなのかなあ」
「それを内需や国産品輸出に切り替えた江戸幕府の経済政策は、何とかうまくいった感じかな?」
「もし失敗してたら?てか史実は?」
「そらもう対外貿易をギリギリに絞って後は内需頼り」
「御先祖様に感謝だねえ」
「そうですよ、ねえ時さま」
「そだそだ」
「時サンガンバリマシター!」
「やっぱ時サン絡んでんじゃん!」
でも待った。
もし一揆勢が勝ってたら?九州が占領されてたら?
それを時さん一人が防いでくれたとしたら?
「私一人で出来る訳無いでしょうが。
本当の歴史だって全国を動員して鎮圧したんだよ?」
広大な本丸は、かつては御殿もあっただろうが、今は煉瓦造りの兵舎?だけだった。
「長く海防拠点で海軍が常駐してたからね。
本丸建築の維持費も海軍持ちだよ」
「海軍さんありがとう」
確かに三層の天守から見渡せば有明海を出入りする船が良く見える。
そして北側には、島原三城のもう一つ、日野江城である。
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私達は再度あの本丸大手を通って、国道へ出た。
途中、地元のキリスト教団体が建てた、一揆勢の墓地や発掘された白骨群の写真展示を眺めた。
切支丹殉教の地、幕府の非情な弾圧と書き連ねてある。
「当初、海外から来た反日キリスト教団体が日本のイメージを低下させるため、天守内に悪意ある展示室を作ろうとしたんだ。
それを地元のキリスト教徒が追い払った結果、城と駅の間の土地を買ってこういうアジ看板を立ててるって訳」
「酷い嘘だねー」余り物を悪く言わないお玉ちゃんがあっけらかんと言った。
「一揆って言っても、悪そうな侍ばっかりが残って私達農民は敵わないーって逃げたんだよ。
ホントの歴史みたい皆必死に戦ってたら私も死んでたかもね。
でもこうしてるし」
「お玉ちゃんが元気で私も嬉しいよ~」
「司ちゃ~ん!」
ひっしと抱き合った。ぷにぷにして可愛い。妹みたい!
「ワタシモツカサチャ~ン!」
さらにグラちゃんも…圧が凄い!どことは言わんが!
原城を去って駅で電車…もとい汽車を待つ間お玉ちゃんが言った。
「結局神様はね、天国にいる。
この世の事は、この世にいる人が頑張るしかない。
神様に縋るのは間違ってる。
神は天にいまし、世は全て事も無し、だね」
「お玉ちゃん、あなた島原の乱で…」
「人が沢山死んでも、酷い地獄があっても、それは人がやった事。
全て事も無い事なんだよ。神様は天にいるもんだよ」
酷く残酷な達観だ。
お玉ちゃんはどんな地獄を見てしまって、それを「何事もない平和」と捉えてしまったのだろう?
本当の歴史では、どんな地獄があったのだろう?
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※現実では普賢岳噴火により、島原鉄道は島原より南が切断され、廃線になっています。加津佐駅はそれ以前の終点でした。今でも廃線跡、廃駅がかなり残っています。
※原城はかつては日野江城の支城と考えられていましたが、原城の規模や構造、発掘された堅牢な石垣を考えると、本拠地を移転しようと築城されたのでは?とも考えられます。
なおそのイメージは下記の島原城博物館・凸版印刷作成のCGから伺うことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=YIhTe9OIi2U&t=1s
※「神は天にいまし…」はアニメ好きには「赤毛のアン」最終回のサブタイトル(話の内容は養父マシューが心臓発作で死んで葬式、なんだけど)として忘れられないロバート・ブラウニングの詩「春の朝」の一節です。
神が天に居るから地上は平和だ、という賛美なのですが、お玉ちゃんには別の意味に聞こえた様です。
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