50.グラシア アディオス パパママ

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


「グラシア。お前は優しくて利口な子だ」

 家に帰って私はパパに部屋に連れて行かれて言われた。


 家…?周りは暗いし、家のどこかだとは思うけど、何だか閉じ込められた感じがする。


「だが、お前が正しいと思う事は、必ずしもこの世の正義と一緒じゃない。

 パパの商会も、スペインという国も、未開の国を従えて栄えるんだ」

 それは泥棒と同じじゃないの?人さらいと同じじゃないの?


「もし、何かを叫びたくなっても、その裏にある物を知る事だ。

 知らない間は叫んじゃ駄目だ。

 酷く見える事も、素晴らしく見える物も、全部光があれば影もある。

 それを知って、学んで、それからお前が行く道を選べ。

 一時の気持ちだけで叫んでは駄目だ」


 パパは私を抱きしめた。

「お前の優しさを受け入れてくれる世界はね。

 神様の国だけしかないかも知れないんだよ」

 その時、パパの頬が濡れているのが解った。


******


 1日したか、2日したのか。小さい灯りしかない部屋に閉じ込められ、私はパパの言葉を考えた。

 光と影。

 インドの港で逞しく荷運びしていた大きな人は奴隷だが、ニコニコして荷物を運んだ。

 シナの商人は、パパに荷物を渡しながら嫌そうな顔をしていた。

 宣教師に連れていかれたあの子は泣きそうだった。でもあの子の親は幸せそうに祈りを捧げていた。


 何だろうこれは?

 奴隷になるのが嬉しい?いや、奴隷になった方がよかった?

 でもあの子は泣いていた。故郷から離されるのが嫌だったんだ。


 と、外から物音がする。


「神に背いた異端!お前達を処刑する!」

 え?こんな極東で異端審問?

「神に背いたのはこの地の宣教師たちか、さもなくばこの国だ。

 私は何もしていない!

 神の力が及ぶなら、この国を罰してみろ!」

 パパ!やめて、そんな奴等に逆らったら!


「我等に逆らう発言など…」

「お前ら如きがこの地で何が出来るか糞虫奴!

 フェリペの腰巾着の弱虫どもめ!

 地球を渡り歩く商人を舐めるな!」


 そこから激しい音が聞こえた。

 お願い!パパ!無事でいて! 


******


 暫くして、騒ぎが収まり、暗い部屋の扉が開いた。

「グラシア、ごめんね。もう大丈夫だよ」


 パパのまわり、床には血まみれの異端審問官の…死体。

 日本の兵と、あの中年、時亘。


「正当防衛だ。異端審問など日本では認めない」

 時さんが落ち着いてパパに言った。

「だが殺人を犯した!私はもう…日本にはいられないよ」

「何で!パパは何も悪い事してない!」

「イエズス会と異端審問に目を付けられてしまった。奴等は人殺しだ。

 日本の王のお計らいで異端審問が立ち入りできないマニラの日本領事館で商売する事になる」

「そう…よかった~」私は泣いてしまった。


「グラシアさんも逃げなさい」

 時さんが言った。

「君は悪に立ち向かって勇気を奮った。

 だからこそ悪は襲ってくる。

 私はそんなのを許さない。

 悪のはびこるこの九州から逃げなさい」

「嫌!」

「「え?」」パパと時さんが一緒に言った。


「私、逃げたくない!この日本っていう不思議な国がどうなるか、あの子が幸せになれるかこの目で見たいの!」


「グラシア!見てどうする?お前も殺されてしまうかもしれないぞ!そんな危ない所においていけるか!」

「危ないのは今までの旅も一緒でしょパパ?船がひっくり返ってたかもしれないんだよ?」

「その時は家族一緒だ!」


「日本はひっくり返らないよ、みんな他のアジアの国よりしっかりしてる。

 みんな、一番いい物を目指して自分と戦ってる。

 そしてこの国を大事にしてるし、他の国の事も大事にしてくれている。

 そこの時さんみたいに」

「この人が?」


「この人も、神の名を商売に使うな!って怒ったの。

 時さん、あなたもクリスチャン?」

「ああ。だから許せなかったんだよ」


 パパがこの時という人を見る目が少し変わった。

 そして私を見た。


「マニラにいてもこいつら異端審問は来るわ。

 日本も変わらないかも知れない。

 金のお城に住んでる領主でも、ある日突然家族揃って殺されてしまう事もある。

 この世の中に、安全なところなんて無いのよ」

「嗚呼、神様…」

 たった今その手で異端審問を殺したパパが神に祈った。


「パパ。私は、この国の事をずっとお手紙で知らせるわ。

 この不思議な国がどうなるか、それはパパの商売にも絶対に得になるよ。

 私もパパの娘、商人だもん!タダでは転ばないわ!」


「グラシア…私はお前をこの国に連れてきて…良かったのか?悪かったのか?」

「良かったに決まってるじゃない!トキサマ!ちゃんとパパママ、そして私を守ってね!」

「約束する!」


******


 その後、布教の名を借りた奴隷貿易や国家離反工作に加担しなかったポルトガル・スペイン商人は日本の王織田に保護され、希望する者はオランダとの契約の後タカサゴのゼーランジャ城へ護送された。パパとママも。


 アディオス、パパ、ママ。

 私は。


******


「わー!髪の毛金色ー!」

「お目目が青いよー!」

「マリア様みたいー!」

「駄目よ!切支丹って疑われるから!」

「ダイジョブヨー。ハポンの事悪く言わなかったら、マリア様大事にしてもイイヨー」


 私はトキサマに仕え、日本の中心、京で親に捨てられた子を育てる仕事に就いた。

 一緒に子供の世話をするトキサマの妻のオノブサン、オツギサンと一緒に、子供のご飯を作り、食べさせ、寝かせ、おしめを替えた。

 大きな子にハポンの字を教え、エウロパの字を教え、時には私も子供達と一緒に学んだ。

 …難しくない?


 そして数の数え方、計算の仕方を…

 …超難しくない?え?これパパできる?


「5年後には田畑が足りなくなって200万人が飢えます!」

「鉱山から銀が採れなくなるのは突然です。予想が出来ません!」

「明の生糸に対抗できるのは養蚕による絹糸の増産です」


 何?この子13歳なのに大臣みたいな事を言ってる?

 ここアテネの学堂?バチカン?フィレンツェ?ベネツィア?


 ハポン、オソロシデース!!

 ワタシ、来るとこ、マチガエマーシター!


******


 ソーシテ、今では、トキサマラブラブデース。


 パパ、ママ、グラシアはフェリーッ(幸せ)!

 トキサマ、ちゃんと私にハポンの未来を見せて、時にはパパママの所に連れて行ってネ!


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※本作内で描く事は無いかと思いますが、グラシアは日本で、両親は日本と本国を往復しつつ時にグラシアと一緒に旅をしながら天寿を全うしています。


※実際の禁教も日本人には改宗を、外国人には帰国を促し、強固に抵抗した人が処刑されたみたいです。島原の乱を引き起こした松倉家の残忍さは例外中の例外でした。


※グラちゃん、年を経るにつれてインチキガイジンっぽくなっているのは何故だ?精神年齢下がってないか?

 現代にタイムトリップしてトニー谷のファンにでもなったか?

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