48.ガイド出島・浦上天主堂 原爆の悲劇、消えた
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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「出島だー!」「デジマー!」
平戸を出たフェリーに乗った私達は長崎港に入ると、埠頭が並ぶ中一部だけ奥に入り込んだ、その先にある和風のどっしりした門の先に泊まった。
「ここが出島かあ~…ちっちゃ!」
ポルトガル・スペインと対立関係にあった時貿易商を拘留した街、その後オランダ商館を拘留した街って聞いてたけど、街一つの大きさもないよこれ。
スペインと言えば…
「グラシアちゃんはいいの?きつくない?」
「ワタシどこでも行きマース!ここも来た事あるけど、まぁこんなもんデース!」
「うんうん。やっぱグラシアちゃんだなぁ」
なんだか割り切ってるなあ。
船から降りたお延さん達も意外な小ささに驚く。
「あら…以外と小さいのですね。街一つ分かと思ってました」
「周り高層ビルだしー、余計箱庭っぽいねー」
「フツー」
三姉妹のツッコミ厳しいな。
海に(一部だけ)突き出た扇状の出島、評価イマイチ。
つか目の前バイパスか何かだし。
「まあね、最初は出入りを厳重にしてたけど結局なあなあになっちゃったからね。
和風洋館と蔵が並ぶ街、って感じです」
「本当の歴史だと江戸時代を通してオランダ人の出入りを厳重に取り締まった。
こんな狭い場所で閉じ込められたら嫌になるねえ」
「デモ…何だか懐かしい感じデス」
グラちゃんが笑顔で応えた。
建ち並ぶ家々は和風建築だけど、細部の装飾に洋風を感じる。
明治前後で流行する偽洋風の走りが17世紀にあったのかも知れないなあ。
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その日の宿は久々フツーのシティホテル、但し温泉付き。
船旅で潮風を浴びた身にはありがたや。
お昼を中華街で楽しんで、市電で北へ、浦上地区へ向かう。
食後の運動を兼ねて、かつて東洋最大だった浦上天主堂へ。
東京駅みたいな赤煉瓦のおしゃれでスマートな大聖堂。
正面左右二つの尖塔に圧倒される。
丸窓や長押?を飾る白い石のアクセントも装飾美ってのかな?壮麗な感じがする。
中に入ると、やはり大きい。
正面の十字架は小さいが、その周囲が宮殿の様に飾られている。
「これが、浦上住民7万の命を一瞬で奪った原爆に破壊される事なく済んだ、浦上天主堂だよ」
7万人?原爆で…
前に時サンが言ってた、本当の歴史。
この大聖堂が?
信じられない。
どんな神経ならそんな事出来るの?誰も反対しなかったの?
「いまここにこうして無事でいる事は、本当に幸せな事だ。
戦争を始めた時には、無差別爆撃も原爆も無かった。
わずか3年で戦争の常識が爆発的に進歩した。悪い方向に」
暫く時さんは俯いた。
「そんな事を平気で行うアメリカも恐ろしいが、日本だってイギリスやドイツだって原爆の研究は進めていた」
今や日本は世界3位の核保有国だし。
「だから結局は危険な道具をどう使うか、それだけの話なんだ。
アメリカは敵国民や異民族には兵器を使う。容赦なく使う。
それを正義だと信じる。
そういう民族だ。
日本はそうなるべきなのか、違うのか、それを考え続けなければならないんだ」
お玉ちゃんは真剣に祈っていた。何を祈っているんだろう?
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今度は長崎の南へ。
大浦天主堂だ。
丘の上に建つので堂々と見えるけど、割と小さそうだ。
「結局江戸幕府は宗教と国際戦争を切り離したけど、日本独自の同調圧力は『消極的弾圧』を選んだ。
そして200年振りの南蛮寺、もとい天主堂が建てられた、という事か」
「ここも史実では…」
何かやっぱり酷い事が?
「明治まで禁教、弾圧。明治になってこの天主堂が建てられ、夜に密かに参拝を申し出た信徒がいて、『信徒発見』ってキリスト教会では奇跡として扱われたんだ」
「それも、凄い話ねえ」
「その後また弾圧が続いたよ」
「悲しいねえ」
「この世界で生じずに済んだ、別の歴史の中で死んだ人の為に祈ろう。
そしてそんな事がこの時代では起きない様にも」
グラシアちゃんも、お玉ちゃんも、勿論お延さんお次さんも、真剣に祈っている。
後ろから何人かの集団が入ってきた。ちょっとウルサイかも。
しかし暫くすると祈り始めて静かになった。
あれ?小倉で会ったガイジンサン達かも。
「イッツミラクルオブファーイースト」
「キャンイェローキープワードオブザロード?」
「ハッハー!ソー、イッツザミラクル」
「ドゥーユーシンクソウ?」
隣に来たガイジンサンが何か言ってる。
何となく解る。
この人達、日本人馬鹿にしてる。
楽しそうに観光していたのに、やっぱり差別の壁は消えないんだ。
「レディースアンドジェントルメン。アワ、ジャパニーズラブサムシングニューワン」
お玉ちゃんが言った。
「ジーザスクライストイズ、シンプリーワンオブファッション、イッツノットサクリメント、アンドイッツデザスターフォーアス」
外人さん達が眉を顰める。
何人かの人はブツブツ言い始めた。
「バット、ゴッドフォーギブジャパニーズ。
ナウ、ウィーハブピースフルデイズ。
イッツトルゥーサクリメント、アイビリーブソー」
お玉ちゃんの言葉がその場を鎮めた。
何かを言う人はいなくなった。
グラシアちゃんがお玉ちゃんの手を取って出口に向かった。私達もそれに続き、皆で出口前で聖水に指を浸し、祭壇に向かって十字を切って出た。
「言ってやったわね」
お延さんがお玉ちゃんの手を取って言った。
グラシアちゃんも背中を抱くようにした。
「言いたくなかった。あの人達、神の祈りに裏切られた事ないのかな?」
「あっても気付かないダケかもネ…それもまた強かって事かもネ」
グラちゃんが、なんとも形容し難い相槌を打つ。
「はあ。神様も仏様も、私達を問い詰めるだけの息苦しい奴よね」
お玉ちゃんが少し笑った。
「そんな問いお構いなしの奴等が多すぎるけどね」
でもその言葉は、私には難しかった。
願いをかなえてくれるのが神様じゃないの?
お玉ちゃんには、グラちゃんにも。
もしかしたらお延さんやお次さん、時サンにも違うんだろうなあ。
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陽が傾くと私達は丘の上をグラバー邸へと進んだ。
「「「「ほわー」」」」
「綺麗…」
眼下には対岸の長崎港や造船ドックなどの灯り、その後ろの町の灯りが広がる。
星空を見下ろしている様だ。
「まさに100万ドルの夜景だな」
「そんなテラスでお食事とは贅沢だねー」
「「うまうま」」
ああ。平和だねえ。
時さんがワインを堪能しながら言う。
「結局この時代でも原爆は使われてしまったし、日本以外で多くの人が死んだ。
歴史はどっかで帳尻を合わせようとするんだろうね。
だとしたら私のやった事は日本の悲劇を他国の人達に押し付けただけ、って事だ」
「でもそれは使った連中が悪いんじゃない?」
「そうなんだけど負い目は感じるね。
国民が指導者を選べるならいいけど、そうでなければ不幸だ」
「私まだ選挙行ってないや。行かなきゃ」
「そうしなさい。選択肢は限られてるけどね」時さんは苦笑した。
その夜は中華街の、夜ならではの色彩や土産物を堪能し、宿で温泉と夜景を楽しんで寝た。
今の日本は平和だ。
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※実際の出島は、西側に大波止通りが、南側は埋め立てられ、すっかり内陸に収まっていますがこの世界では西側の埋め立てを控えたのでしょう。
※現在の浦上天主堂は、戦前のものより装飾を大幅に省略して、のっぺりとした印象になっています。
コンクリで再建された時には戦前を踏襲して存在していた窓や装飾もその時に埋められています。
その理由は不明です。
もしかしたら長崎のキリスト教徒の悲願であった教皇ヨハネ・パウロ2世来日に合わせるための措置だったのかも知れません。
戦前はこうでした。
https://blog.goo.ne.jp/macchan235/e/7ed5e704d6cb4db6a36facd7ed6f5e72
※なお壁など一部残った廃墟ですが。
当初原爆ドーム同様保存される様市議会で決定されましたが、アメリカと姉妹都市契約を結ぶため渡米した長崎市長が帰国後市議会を無視して撤去してしまいました。
どの様な政治的な駆け引きがあったかは不明ですがアメリカにとっての不都合な、「アメリカの正義である原爆によって破壊されたキリスト信徒の家」は地上から見事消えてくれました。
※「誰も反対しなかったのか」という問いに関しては、マンハッタン計画内部で主流派は白人至上主義でした。反主流派がジェノサイドに抵抗を示していた様です。
後、トルーマンは最初大喜びしてたけど「何コレヤベー」と被害の実態を後で知ったみたいで…
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