44.ガイド名護屋城 大海を望む五層の天守
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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朝いちばんで壮大な福岡城を部屋から眺め、ホテルを出発。
ホテルの目の前の門の脇に船着き場。
ここからは昨日乗った福岡港遊覧船だけじゃなく、名護屋行の観光フェリーもある。
名護屋までのんびり船旅だ。
昨日訪れた名島城を東側に眺めて博多湾を出る。
高層ビルの谷間に、福岡城天守が見える。また来たいなあ。
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船の上でグラ玉コンビとわちゃわちゃし、時サンのご相伴に与りつつ進むと、その先に見えるのは小さな軍港。
灰色のデカい船が数隻並んでる。
そしてその向こうの山の上に、白く輝く天守。
織田信長が南蛮征伐のため秀吉に命じて築かせた、肥前名護屋城だ。
よく「何で九州に名古屋があるの?」って勘違いされる「名護屋」だね。
船が岸に近づくと、長~いエスカレーターが。
ここではロープウェイじゃなくてエスカレーターなのね。
って、軍港へ続く道でもあるせいか海軍の人達も見える。
すれ違う度に頭を下げると、向こうも海軍式の敬礼で返礼してくれる。
礼儀正しいね。
エスカレータの左右に町が開け、食堂やホテルがある。
振り返れば軍艦が縦に並んでいる。ふあ~。
見上げれば近づく天守。
「昔と今の軍隊が一目で見られるねえ」
「でも船の数が少ないですね」
「今の軍艦には小さい港だからね。
昔の名残で日本海警備のため出入りする艦が少しある位だよ。
あくまでこの辺の海軍は佐世保が本拠地だ。
ただ南蛮征伐戦勝記念日には空母なんかも寄港してお祭りがあるよ」
ほえ~。見物したいなあ。
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エスカレーターから降りれば、何だか玩具みたいなタイヤ式の小さな列車が。
ああ。ショッピングセンターの中を子供を乗せて走ってるヤツだ。
これに載って大手門へ…大手門、デカ。豪華。
金箔の五つ木瓜の金具が光る。
「五三の桐じゃないのがウケる」
例によって毒を吐くお次さん。
「あ。みんなの歴史だと…
ここは唐入りの本拠地で築いたのは信長じゃなくて秀吉、紋章も織田家じゃなくて豊臣家、って事よね」
「おまけにこの門も廃城後に伊達政宗の仙台城に移築されてるしね」
こんな巨大な城築いて数年で壊すとか…頭おかしいよねリアル歴史。
ホントの歴史は兎に角…
「え~、ここ佐賀県北端にある肥前名護屋城は、日本をキリスト教布教の後征服し、奴隷貿易を企んだポルトガル、その後ろにいるスペインをアジアから駆逐する戦争、『南蛮征伐』の拠点として築かれました。
最初にポルトガルに占領された朝鮮半島の釜山を攻撃し、日本海を守ると見せかけ、鉄の船体と世界初の蒸気機関を備えた『鋼鉄艦隊』を瀬戸内海から回航させ、偽装進路を取って台南、マカオ、マニラを制圧しました。
それら艦隊に地上占領の兵力を全国の大名に命じ招集したため、それまで長閑な漁村だった名護屋は巨大な軍事都市に生まれ変わりました」
「ハポン、やっぱコワイデスネー」
「戦国末期の日本の経済規模はブリテン以上だったからね」
「そんなハポンに喧嘩売ったフェリペ、やっぱ阿保顎デース」
自国の王にヒデェ。あと顎って…
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大手門を潜ると、左手に壮大な石垣と塀、二層櫓。そこから討たれる。ウヒー。
その先に180度曲がる二重の城門から三之丸に入る。
かつては御殿があり、今やレンガ造りの兵舎が並ぶ。
その奥に本丸の壮大な本丸大手があり、その先に壮麗な本丸御殿。
京や大坂で見た御殿を思い出すなあ…
天皇陛下が戦時中の大本営とされた事もあるみたいで、中は障壁画はそのまま、明治宮殿の様な床張りの玉座があり、天井にシャンデリアが付いている。
ここでも海外から要人を招いてパーティーして城内の他の御殿に宿泊させているみたい。
「特にイギリス海軍に人気だって。
東洋のトラファルガーって縁起物みたい」
「しまった世界史も勉強しなければ!」
「結構外国のお客さんのお相手するのは深い知識や洞察力がいるもんだよ」
「司さんならお出来になるでしょう」
「司ン、がんばえー」
「お次さんだって絵で頑張ってよー」
「液タブ絶好調だぜー」
喜んでもらえてよかった!
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白亜の天守から見渡す玄界灘は爽快だあ~!
眼下には壮麗な城と、数か所に点在する広大な御殿、有力大名の陣地か。
いやあれ小さな城じゃん!
そして坂道に張り付くように並ぶ街と、軍港。
遠くには、江戸時代に入って開かれた焼き物の町、唐津が見える。
「何でこんな辺鄙な所にこんな大城郭築いたかなあ。
しかも敵は中国やフィリピンにいるじゃない」
「確かに陸路を考えると辺鄙、しかしここは平戸や長崎と、博多や瀬戸内を結ぶ中間地点でもあり、先ず日本の喉元に刀を突きつけた様な朝鮮半島への至近距離でもある。
南蛮征伐の緒戦、釜山攻撃から始まって、イギリスやオランダとの貿易ルートも守るためここに城を置いた。
昨日見た福岡の名島城も、海の道の中継点だて何となく解るでしょう」
「海の道かあ。あんまり意識した事ないけど、琵琶湖から大坂まで船で行けるんだから瀬戸内海通ってここへ、そこから長崎へ、更に東南アジアへ、ってのも凄く重要な道だったんだろうなあ」
「そゆ事」
海の道かあ。物の見方がひっくり返るなあ…
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本丸を一歩下がって外から本丸や天守を眺める。
ふおおお!石垣すげええ~!天守でけえ~!
大坂城や江戸城より小っちゃい筈なのに、真下から見ると感慨一入だなー!
お次ちゃんとグラちゃんのスケッチする手の動きが見えない!
液晶バキーンって割れないのが不思議だ。それもテクなのか?!
天守から一段下の水の手郭から水の手口門を通って、秀吉の城名物「山里曲輪」に入る。
曲輪のシンボル、月見櫓の高欄と華頭窓が「いらっしゃ~い」って歓迎してくれてるみたいだけど…
その先の桝形門は相変わらずキリングマシーンだった。
庭園の先に白亜で綺麗な天守を眺め、お茶を頂き「はふぅ~」と一息。
「ここに泊れたらいいのにねぇ~」
「さっき言った海外の提督とかを招いて泊める場所でもあるんだよ。
記念式典とかだと迎賓館になって見学できなくなるんだ。」
「すごい所なんだなあ…」
「他にも天守に泊まりたいとか本丸がいいとか、ここがいいとかさっき見た月見櫓で宴会したいとか色んな要望があるみたい。
本丸は皇族以外宿泊されないけどね。
そういう祝典の時は、本丸や山里の御殿はコンサート会場みたいになってさっきのエスカレータも大混雑するみたいだよ」
ああ、同行した水兵さんとかも招待されるんだ。
「南蛮征伐、凄いなあ」
「勝ったからだよ。負けてたら植民地さ」
壮大な天守を見上げつつ、時サンの一言に何と言うか無常を感じた。
「絶対勝つ戦いだったけどね」
「時サン、ズルし過ぎだよ」
「ハハ…」
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※途中の航路は架空の物です。
※子供の頃見た名護屋城図屏風(その下絵)は、描かれた大城郭の姿に興奮したものです。
今では名護屋城博物館に復元模型が展示され、城の凄さが実感できます。
…まあ、その展示内容は色々アレですが。
佐倉市の国立歴史民俗博物館なんかもですが、アカデミーの世界は利口なナントカが多いので。
http://www.uraken.net/museum/castle/shiro205.html
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