ガイド九州北の城巡り

41.ガイド小倉城 九州へ空の旅

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 春の楽しい旅から数か月。前期のガイド検定も何とか合格。


 直接点数には関係ないけど、面接で「何だかよくわからん迫力ある話し方が魅力的」との謎の評価まで頂いた。

 オッサンと4姉妹のお蔭だなあ。よく解らんけど。


 他の出席ブッチ切った授業も必死に挽回したよ、欠席認められても点数低かったら色々後を引くしね。


 4姉妹とはメールで色々遣り取りしてる。ずっと現代を遊び倒しているみたいだ。

 スマホ駆使してる戦国人って…


 なんて遣り取りしてたら「夏休みどうする?」って玉ちゃんから。

 予定立ててないよって返せば「九州行かない?」って。

「そんな金ないって」と返せば「時様に頼む」と。

「悪いよ」「んじゃあ…」


「やあ、お久しぶり」と替わってLINEに出たオッサン。

「九州城ガイド旅行、歓迎します」だって。


 これ確定ルートだ。


「この時代に友人が出来て4人とも大喜びでした。同行してくれてありがとう」

 そう言ってもらえると、何だか悪いなあ。嬉しいのはこっちも一緒だ。

 よし、バイト代をここで使うか!

 その前に両親に相談しなければ。


 快諾された上小遣いまで貰った。

 前の旅行から帰ったら

「色々と物を考える様になった。良い経験をしたんだろう」

 だって。


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 出発前日夕方、羽田で集合。

「司さーん!」「お延さん!」

「つかさー!」「ツカサー!」「グラちゃん玉ちゃん!」

 二人が子犬みたいに飛んで来た…ハネ飛ばされた!主にグラちゃんに!

 お次さんがニヤニヤこっち見てるし。

「相変わらず仲良しさんだなあ」と、オッサンもニヤニヤ。

「ま、またよろしくお願いします…」

 グラちゃんのハグの下から挨拶した。


 ホテル泊で翌朝飛行機で出発って海外旅行みたい、ゼータク。

「みんなアメリカ行ったんだって?」

「スミソニアン行ったよー!」

「エン〇ープライズが堂々と飾ってあって驚いた」

「あの円盤の写真の?」

「アメリカは国がオタク」

「驚きの連続でしたわ」

「見てーまた飛行機が飛んでった―」

「凄い眺めですわねえ」


 なんか前回よりノリがいいなあ。


「あ、これ時さんに」と旅費を渡すと

「いいよ、無理やり同行して貰うみたいなもんだし」

「じゃあ、こっちで」と、ワインを。

「あー…気を遣わせたねえ、てこれペリエの結構なヴィンテージだー!冷えてるし―」

「色々調べてね。ガイドは酒にも精通しないと」

「いやいやこんなのそうそう飲めないよ?無理したんじゃない?」

「まだ日本酒もありますよ~」

「すまないねえ」

 ワイン、シャンパーニュって数万するのもある、っていうかワインは上限無いしなあ。


「そしてこれはグラシアちゃんとお次さんに」

 と、液晶ペンタブレットを2つ。初心者向けの安い奴だけど。それでも結構したけど。

「ほ…ほわあ~!」

「オー…エプレンディド(素敵)!」

「これは…一度挫折したデジタルアートに再挑戦しろとの天の声ですかー!時さま!」

「え?私もか?」

「ソデース!時サマも描コウヨー!」


 何と、二人ともペンタブ使った事あったのか。

 そして時さんも絵描くのか…

「司さんありがとうね!私、頑張る!」「グラシャス!ツカシャサン!」


「じゃあ、旅路の安全を祈って乾杯しましょ?オッ…もとい、時サン」


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 起きてゆっくり朝食、空港カウンター直結ですぐ飛行機へ。リッチだねえ。


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 席がビジネスだよ、初めて乗ったよ!快適だったよ!

 って興奮してたらもう九州だ。飛行機早!


「行きの旅費だけでペリエどころじゃなかったのでは…」

「いやいや、司さんのお酌の前じゃ霞んでしまうって」

「上手だねえ」

 妻4人従えてる中年に褒められても嬉しくないけど、不思議と嫌な気はしない。


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 小倉空港から国鉄線で小倉駅へ。荷物を持ってくれた時サンがクロークへホイホイと預ける。

 目の前に…櫓門と左右に続く石垣が、駅前と城内を隔ててる。白い塀が眩しい。

 その白壁の向こうにはかつて市役所や県庁だった洋風建築が左右に建ち、更にその奥には。

 なんだか一番上の階が下の回より大きい、変わった形の天守が聳えている。


「九州の玄関口に独特の天守が聳える小倉城は、17世紀始めに大阪の乱に備え徳川家の命を受けた細川忠興が領主となって築いた城です。


 この最上階が下の階より大きく張り出した形は、西洋の城館に例えられ南蛮造りと呼ばれました。

 全国でも高松城、岩国城等に類例が見られます」


「何で出っ張ってるの?」

「本当は下の階と同じ大きさですが、高欄、ベランダとして張り出した部分を雨戸で覆っているので出っ張って見えたのです」

「お~。堂に入ってるね」


「破風飾りが無い、何だかビルみたいな感じねえ」

「破風飾りは、まだ高い建物を建てる技術が無く、二階建ての櫓の上に更に二階建ての櫓を建てる時に入母屋屋根が建物を美しく見せた名残りです。

 天守が全国で上げられ、高い建物を効率よく建てるため、規律正しく1階から5階まで徐々に小さくなる構造の『層搭式天守』が四国の今治城で完成し、この小倉城でも同じコンセプトで建設されました。

 この天守の技術はは津山城や佐賀城に伝えられました。

 江戸城や今の大坂城、二条城天守等も層塔式天守の完成系です」


「おお!カンペキ!」「司かっこいー」「カッコイー」「えへへ」

「今では日本の城の色々な違いに詳しくなろうってマニア気質な外国人観光客も多いからね。

 これだけ答えられれば満足頂けるだろうね」


 ちょっと嬉しい。なんて思ってたら、後ろの方でガイジンサンの団体が聞き入っていた。

 気付いて顔を上げたら拍手された!嬉しいけど恥ずかしい!


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 等々話ながら駅正面に口を開ける職人口門から公園となった二之丸へ、左手にある虎ノ門から明治時代に役場になっていた洋館、今の郷土資料館や産業歴史館等の展示施設を経て天守の真下。

 石垣もグワーって感じなら天守もグワーって感じに聳えている。

 更にその先、多門櫓に固められた本丸大手門を潜り、すぐ先の槻門を入ると本丸御殿。


 明治に洋風化されつつ障壁画等の装飾はそのまま残る現代風御殿でまったり休憩して天守へ。

 最上階の、南蛮造りの望楼から眺めれば。

 かつては駅から北は海だったのだが、今は遠く埋め立てられ、その先には先ほど降りた空港に向け飛行機が着陸している。


 見下ろせばさっき渡った中堀から内側は緑と明治建築、一部武家屋敷が観光施設として残るものの、堀の外側はびっちり九州の玄関口にふさわしい高層建築がひしめき合っている。

「ここだけ歴史に取り残されたみたいで、少々寂しそうにも思えますね」とお延さん。

「いいじゃないか。これだけ広い部分が纏まって残されているのも、文明ではなく文化の力だよ」


******


 本丸から行きと違う、堀を太鼓橋で渡り北の丸へ出るルートで駅へ。

 北の丸御殿を改装したホールは今物産店となってさっきのガイジンサン達が刀とか羽織とか手に取って楽しそうに品定めしている。

 時さんはつつ~っと酒コーナーへ。そして赤ワインを手に取る…

 その瞬間!私が先に手にした、二本。

「道中用と、今夜用。旅費の分お酒は任せて!

 旅費分くらいは酒代任せて!」

「司さん。惚れて良いかな?」

「そんなに嬉しいか?!あと4人も侍らせて何言ってんの?!」


 なお、手にした酒は二代城主忠利、初代城主細川忠興と大坂の乱で非業の死を遂げた妻ガラシャとの間に生まれた子が醸造させた赤ワイン「伽羅美酒(がらみしゅ)」を再現したもので、小倉名物だ。

 フッフッフ。ちゃんと調べてきましたよ。


「時様嬉しそう!司さんやりますね!」

「司んも一緒に暮らそうよー!」

「それは嫌!で『司ん』って何?」

「いいじゃない司ん!」


 あれ?一緒に騒ぐグラちゃんは?

 あ、細川ガラシャの絵を眺めてる。

「グラシアちゃんの名前と、細川ガラシャ夫人の名前って同じだね」

「ソです。なんだか悲しいナって」

「そか」とだけ私は応えた。

 ちょっと物憂げなグラちゃんは、美しかった。


 その後、周りのガイジンサンたちが「伽羅美酒」に飛びついた。


******


※この世界では小倉は門司や八幡と合体して北九州市になる、という事は無く、夫々市として独自の発展を遂げています。よって北九州空港という呼称は存在せず、場所も小倉の北側洋上となっています。


※小倉駅は現実の位置ではなく、現実世界の西小倉駅近くにズレています。

 なお史実では小倉城と市街19世紀に二度も焼け、その上幕末に戦火で焼け廃墟となったため市の中心部は城の東隣になりました。

 この世界では防火設備があり、幕末の混乱も無かったためこうなっちゃいました。


 往年の小倉城の姿は下記の通り。

https://www.youtube.com/watch?v=kdp4sQssA4U&t=155s


※伽羅美酒は2020年に限定醸造されましたが今は作っていません。原料の伽羅美は山葡萄の事です。

 中々飲みやすいワインだったみたいです。なおお値段は結構した模様。

 酒は本来さんずいに「医」の旧字「醫」を書きますが、これは造語で、嗜好品ではなく薬として醸されたため当てられた字だそうです。

 病気がちだった忠利の薬だったのでしょう。

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