40.ガイド大坂駅…駅? そして笑顔の別れ
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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朝の光で目が覚めた。
ちょっと眠りが…足りなくも無く、よく目が覚めたかな?
不思議な感じだ。
心のどこかで、昨日の話を作り話だなんて思っていたのかも。
「おはようございます」
窓から大坂城を見下ろしていた私にお延さんが声を掛けた。
お次さんは、半分起きているけどベットに潜ってる。ダメだこの子。
でも二人とも昨晩聞かされた、あの地獄から生き延びている。
他に死ぬ筈だった、周りの人達と一緒に。
「おはよう!」
泣きそうだったけど、笑顔で返せた。
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我が人生最後の豪華ホテルツアーになるやもしれない朝食バイキング。
は、余りお腹に入らなかったので量より質で勝負した。
「うまー」「ウマー」
グラ玉コンビには質も量も負けた。
いや、もう勝負を挑む気にもならないや。
オッサンは…また朝から酒飲んでるしー!
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一行はリニアで東京に戻るため大坂駅へ…って、
なんじゃこりゃああ~~!!!
「駅に天守ががが!」
昨日模型で見た豊臣時代の、黒と白と金の絢爛豪華な天守とも、今聳え立っている白亜の天守とも違う、何だか両者を足して二で割った様な天守がデデーンと聳え立っていた!
軒瓦や破風板の金箔が、金の鯱が輝いて眩しい!
「あれ?司さん修学旅行とかで見て無い?」
「私大坂来た事無いんで、それに写真で見たかも知れないけどこんなデカいって知らなかったですよ!」
壮大とはいえ天守単独で建つその地の脇に、何かヨーロッパの宮殿みたいな大坂駅が建っている。
「あの大坂駅とかも見た事無いし!」
「確かにここは余りニュースとかでも映らないしねえ」
確かに、新幹線やリニア線の向こうには超近代的なガラス張りのビルが建っている。
私達は急遽この謎の大坂城天守を見物する事に…え?予定に組み込み済?
「これは昭和天皇即位記念に造られた、記念碑みたいな物だからね。
最初は九州から移築しようかって話もあったけど日出町が拒否してこうなった」
「いやいやある意味本物の天守よりド派手じゃないのよ!てか本物割と地味だし!
デカさは徳川、派手さは豊臣?…何というべきか」
確かに巨大な入母屋が縦に二つ重なって、5層目だけ豊臣時代の天守模型みたいな黒塗りに金の虎や鶴の浮彫が輝き、更に瓦は銅瓦…
江戸城や二条城の様なお利口そうでハンサムな本物の天守と違って、伏見城みたいなゴージャスさがある。
かと言って安土城みたいなアバンギャルドっぽさまで行かない感じ?
「はは。因みにこれはコンクリ製で中にはエレベーターもある。
日本風建築と最新式の鉄筋コンクリート建築が合体し、戦国末期の天守デザインとの融合を図ったチャレンジャーな建築だ。
設計は日本の城郭建築を統計的にまとめた工学博士、古川重春先生だ。
豊臣時代と徳川時代の二つの天守に姫路城や他の城の天守っぽさを合体させ、かつ独特のラインを持っている」
「むしろ鉄筋コンクリでここまで『ザ・天守!』ってのを作った方が凄いわ」
「なにせ出来てから100年近く経ってるし、近代化遺産として重要文化財に推薦されてるんだ」
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中は超洋風だった。格調高いわー。
で、名店街が並んでいる。上の階にはレストラン。まんまデパートだ。
中央にレトロなエレベーターがあるんで徳川時代の天守みたいに登るのにヒーヒー言わされなくて済んだ。
最上層だけ、内装は和風。あ、金の茶室発見!
「浪速っ子は『こっちがホンマモンやで!』なんて言う人もいたりする」
「わかんなくもないなあ」
「派手好きな浪速っ子には徳川ライクでシスティマティックな層搭式天守はお気に召さなかったらしいね」
思うんだが、ガイジンサンにはこっちの方がウケそう。
「この駅前天守もガイドしないといけない?」
「テストには出ないだろうけど、実際観光に来るガイジンさんには案内できるようにした方が喜んでもらえるよ」
「やっぱりね。なんか凄い物作った物よねえ」
グラ玉があれこれ土産物に夢中になってる。
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この天守風デパートを昇って降りて、宮殿みたいな駅に向かうと、例によってグラちゃんと、秀吉嫌いなお次さんも必死にスケッチしていた。
「ふわ~。最後までお城尽くしだったなあ~!」
「最後のを城というかはさておき」
家族と大学の友達への土産を買い込んで、地下深いリニア駅で列車に乗ると…
「楽しかったし、悲しかったなあ」
昨晩のお延さんとお次さん、そしてオッサンが話してくれた『本当の歴史』の話が思い出されてくる。
「ツカサー!何買った~?」
「たこ焼き!たこ焼き!」
グラ玉がお土産を抱えて来た!
楽しい旅だった。
素敵な出会いだった。
タダで贅沢させてもらった。
思わず二人を抱きしめた。
二人も、黙って抱き返してくれた。
「とっても楽しかったよ?」「私もデスヨー」
向い席にはお延さんとお次さん。
「よい旅でしたか?」「ええ」
「もうツカさんも時様の側室になれば働かないですむよ?」
会ってから最高の笑顔でお次さんがほほ笑む。
「だが断る!」オッサンは嫌だ。
「フラれたか」隣の席でオッサンが笑って言う。
「当然です!でも、本当にありがとうございました!」
これだけは嘘は無い。
この人は下心はあるし言動も謎だし、ちょっと鼻に付く何かがあるけど、広くて深い愛情もある人だ。
下心はあるけど。
「そう言って貰えてよかったよ。お誘いした甲斐があるってもんだ」
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最後のおしゃべりにも花が咲いた。
携帯メールを交換して、旅の写真とか交換した。
最初から最後まで殆ど地下を疾走して、僅かな間に東京に着いた。
着いちゃった。
「また会おうね!」
みんなと、笑顔でお別れして。
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※この世界、豊臣時代の大坂城天守は日出城へ移築され、徳川時代の天守が現存。
だがしかし!本当の歴史では最も長生きし、最も人々に愛し親しまれたコンクリエレベータ天守も存在していたのです!
国鉄大坂駅の目の前にー!!
実際、現在の大阪に聳える三代目天守は最早日本のアイコンになってるし、何より昭和初期の城郭復元考証の濫觴ともいえるこの天守建築事業は、「城とは何か」という問いの一つとして無視できないものです。
また鉄筋コンクリと伝統建築という水と油の融合を実現した古川重春先生の偉業にも頭が下がります。
※因みにこの世界の大坂駅、ゴシック様式の二代目駅舎が現存し、更に同じ建物が横に並ぶ様に増築されたカンジに仕上がっている様です。
https://osakastationcity.com/about/gallery/develop.php
※ここで司さんとオッサン一行の出会い編はお仕舞。
これからこの6人の運命や如何に?
(ヒント:全然変わらない)
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