33.宿はホテルニューオー〇ニ 眼下に広がる大坂城

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。

 後今回長めです。


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 京から途中寄り道しつつ、淀川を下る遊覧船。

 ビル街の切れ目にある、大阪市内を流れる大川を左折すると…


 高層ビル街の中に、その数分の一くらいの小ささながらも強烈な存在感を示して聳えるのは…

 徳川大坂城の二之丸、本丸の林立する櫓群!

 その間を繋ぐ白壁、多門櫓!

 そして中央に聳える五層の天守!

 ふおお!江戸城も凄いけど、大坂城はそれをギュっと絞って集めたみたいな最強感があるわ!


「すごいー…」

「私には、江戸のお城の方が凄く思えますが…」

「いえね、なんかこっちの方が江戸城の凄さをギュっと小さくまとめた感じなのよ!」

「ぎゅ?」「ギュ?」「そうよグラ玉ちゃん、ギュっとよ!」

「ワッカリッマセーン」「せ~ん」

「この魂の双子はぁ!」


「江戸城は政治施設を広く設ける必要があったけど、大坂城や名古屋城は軍事に特化してるから司さんの意見は正しいね。本丸の三層櫓がズラ~っと並んでるのは江戸城以上の盛観、正に日本一だよ」


 と言っても、船がお城に近づくと、二之丸のやたら大きい三階櫓と、その周りの二階櫓しか見えなくなった。

 天守や本丸の櫓はその頭をチラチラっと見せる程度になった。


「今船は大川から寝屋川に回り込んだからね。

 今日は大阪市街を楽しんで、大坂城見物は明日にしようか」

 そう言っている間に、船は大きなドームの先にある船着き場に着き、迎えに来たホテルマン達に荷物を渡すと…


 今日のお宿は、ホテルニューオー〇ニ?!

 あれよ!サミットとかあると世界の先進国の元首が泊るホテルよー!!


******


「うわー!お部屋やひろびろ―!」「ヒロビロー!」

 魂の双子がベットにダイブした!

「太閤様のお城の跡がこんな近くに!」

「あの地下に埋もれてるけどねえ、フッフッフ」

 お延さんとお次さんの反応の差が怖い。


 しかし客室から見下ろす大坂城は凄い。

 二重の輪を描く様に堀が廻り、外側の二之丸には二階…じゃない二層櫓と白壁が。

 内側の本丸の、凄く高い石垣、その上には三層櫓とその間を繋ぐのは窓が付いた多門櫓。


 そしてお城の真ん中には五層の天守。江戸城や二条城と同じスタイルで、壁が真っ白の天守。

 この間オッサンに教えてもらった、一層から五層迄が規則正しく小さくなる層塔式天守。


「あれは徳川家康が最初に上げた江戸城の天守を移築したものだよ」

「えー!あんなデカイのをここまでー?!」

 ビックリ!初めて知ったー!


「昔は結構天守や御殿を解体して移築したもんだよ。

 これから地方に行くことがあれば、この間行った伏見城や鶴松城から移築された櫓や御殿を見る事になるよ」

「伏見城今でもあるじゃない!」

「昔はもっと周りに郭があって、御殿や櫓があったんだよ。

 新しく淀城が出来て、解体された多くの郭から櫓や門、御殿が移築されたんだ」


「ほええ~」


 昔の人、リサイクルーでエコロジー。


******


「大坂なんだからナニワのお店も見てみたいかな…」

 とボソっと言ったら。

「お好み焼きー!」「タコヤキー!」魂の双子が吠えた!

「たまには飾らず街へ出ましょうか?」

「賑やかなのも、たまにはね」

 4姉妹が乗り気だ。


「よーし!京橋あたりでお好み焼き喰うか!」


 私達は大坂城を背にして国鉄の京橋駅へ。駅前、居酒屋が一杯ひしめいて賑わいが大変な事に!

「よっしゃこっちだ!」

「時様、しっかり予約なさって…」

 抜け目ない人っているんだなあ。

「時様、結構抜けてるよ」「そうなのお次さん?」

「次ちゃんが言う位抜けてるよね」


 さあ!お好み焼きとビールは大坂の醍醐味だ!あとタコ焼きも!!


******


 腹八分目でホテルに帰ると、一同は最上層のラウンジで…

「「「「ウワー!!!!」」」」


 眼前に広がる、ライトアップされた大坂城!

 吸い込まれる様な景色だ…

 昼間見た時も白壁の輝きが綺麗だったけど、夜景に光る二重の城壁、その中心に輝く天守が江戸城に負けず素晴らしい!


「約束の、シャンパーニュだよー」

 おっさんが、ボーイさんに頼み、細長いグラス…

「フルートグラスだよ」

 フルートグラスに…これはチャンパーグニュ?

 あ、フランス語だからシャンパーニュか。

 黒いボトルに赤く斜めの線が入ったオッシャレーなボトルを注ぐ。


 グラちゃんがグラスに顔を近づけると…

「セニアル!やっぱりシャンパーニャは素敵ネ!

 コドーニュもいいけど深みが…」

 おぉ?珍しくグラちゃんが難しそうな顔をしている!


「私はカヴァ大好きですよ?」それはフォローなんですかお延さん?

「私も普段はカヴァかスプマンテだしね」

 うん、オッサン肝臓がブっ壊れてるな。


「「「「「「カンパーイ!」」」」」」

 美味しいー!!


 さっきのお好み焼き屋のビールも美味しかったけど、それと違う美味しさがあるけど、どっちも美味しい!

 幸せ―!


 改めて窓の外の大坂城を見ると…

「うわ、私、修学旅行で来たのに。こんな綺麗だなんて思わなかったよ…」

 店の雑踏も楽しかったけど、この落ち着いた店から見下ろす絶景も素敵!


「言っとくけど、これは鼠の城じゃないからね、徳川様のお城だからね」

「お次さんは秀吉に厳しいね」

「アイツの本性は餓鬼畜生だからね」

「ヒデェ…」

 相変わらずお次さんは秀吉にキビシい。


「御隠居様も駿河…大御所様も本性は変わりませぬ。

 大御所様も若き頃に妻と子に死を命じております。

 為政者とは、畜生道に身を投じる物なのでしょう。

 ねえ時様?」


「家を守るため親子供でも切り捨てる。

 国民の多数を救済し、一部を殺してでも全体を護る。

 それが畜生道というなら…

 誰が為政者なんかになりたいもんだろうかな」


 そうだよね。

 それでも権力者になりたがって、多くの人を殺して平気な奴が後を絶たない。

 それがこの世の定めなんだろうか。


「オッサン難しい事いいますなあ」

 ちょっとオッサンの反応を聞きたかった。


「司さん。今でも同じだよ。

 日本は軍事経済大国でも19世紀以来ずっと戦争をしてこなかった。

 それはそうならない様に政府が工作して来たからだ。

 でもその裏側で多くの裏切り者が殺されて来た。

 一億人の為に千人を殺す、それも為政者の義務だ」


 戦国以降の日本は国内は平和が続いた。

 だが外に対しては外交で戦った。

 西欧やアメリカに食い物にされた中国や朝鮮とは違って戦い続けた。

 その結果、今の私達の平和がある。


「だが私は違うよ。

 目の前に殺されそうな、罪の無い人がいたら後先考えずに助けてしまう。

 私には、本当の為政者の苦しみは解らないよ。

 共感も同情も出来ない。

 その人の負っている重荷が解らないからねえ」


 振る話題を間違えたかな?

 お延さんも、皆もオッサンの言葉を受けて黙っている。

 何か、お祈りしている様にも見える。


「せめて司さんという友達を得た、この平和な社会に感謝しよう。

 そして、司さんが観光ガイドに合格して大学を卒業できる様に、

 皆で乾杯しよー!」


 4姉妹の顔がパアっと明るくなって、

「そうよね!」「司、ガンバレー」「留年だめよ!」「ダメヨダメダメー!」

「留年って言うなー!」

 皆がフルートグラスに残ったシャンパーニュを開けるとボーイさんが注ぎに来てくれた。


「よし、明日は大坂城見学の後、ガイド検定の近世城遺産の模擬試験だ!カンパーイ!」

「「「「カンパーイ!」」」」

「ひぇ~!」


 どうぞ、お手柔らかに。


******


※かつてゴジラにも踏みつぶされた由緒ある?ホテルニュー〇ータニの最上階から

 眺める大阪城天守と城跡、広大な城址は、城好きにとって一度は眺めたい絶景です。

 もし本丸や二之丸の櫓が残っていたら、復元されたら。

 そう思わずにはいられません。


※「大阪」と「大坂」が入り乱れている様な本作ですが…

 現実世界の江戸以前を「大坂」、現実の明治以降を「大阪」と呼びます。

 この世界では「大阪」は存在しません。天正期から「大坂」のままです。

 明治になって「土に反るとは縁起が悪い」とか言った人がいなかった模様です。


※現実のホテルニューオータニから眺める大阪城の夜景は極上です。

 お財布に余裕のある方は是非。

 家族連れで行くとボーナスすっ飛びますけど。

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