31.ガイド淀城ふたつ 縦に行ったり横に行ったり
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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京阪の淀駅から北へ。
お、外堀跡に史跡の看板がある。
納所川を外堀にした辺りには石垣や壁が残っているそうな。
そして内堀から先は門も塀も櫓も残されていて、軒瓦は例によって太閤秀吉らしい黄金の城。
「鼠が獅子を産ませた地だ」次さん怖い。
「ホントに禿鼠の子か知らんが」更に怖い。
「秀松公って小さい時にはしかにかかったんでしょ?よく耐えたよね」
「それは優秀なお医者様がいらっしゃいましたから」またお延さんが笑顔で解らん事を言う。
秀吉待望の第一子、鶴松、後の豊臣秀松が生まれた地。
出産のために態々築城したという、子煩悩の城と言われているが…
「実態は、瀬戸内、大坂、京の陸上交通を淀城で支配するためだったんだよ」
「それ以前は?」
「統一した管理や租税等が出来ていなかった。
それを秀吉は自分…もとい織田の手中に収めたかったんだろうね」
「抜け目ないなあ」
「尤もその後交通ルートを変更して伏見を拠点に変えたんだ。
もしかしたら秀吉は織田の天下を横取りするつもりで大坂・伏見・京の流通整理に力を入れたのかもね」
「抜け目ないを通り越して恐ろしいわよ」
「いや、禿鼠ならやりかねない」
やっぱりお次さんは秀吉には容赦ない。
「そういや、ここも鶴松城じゃなくて淀城なの?」
「ああ。最初は淀城と言われていたけど、大坂の乱で淀君が逆賊となって鶴松城に名前を変えられたんだ」
ほえ~。あれ?じゃあ南にある淀城は?
「南の淀城は、淀川の城という意味で淀君とは無関係、って事になってる。
鶴松城と違って、茶々様とは縁もゆかりもない新城だし。
大坂の乱は戦後処理が色々あったけど、それでも穏やかに済んだ方だよ」
「そういや天下の反逆者石田三成の佐和山城も残ってるけど、それも許された感じ?」
あの山上に聳える立派な天守を思い出す。
「本人は許されなかったけどね。
それ以前の功績もあって、記念として山上の郭が彦根城の前衛として遺されたってところだ」
「戦国時代も良く勉強しないと、流れって言うかドラマとして説明できないわね」
「そうだよ。ヨーロッパで日本史のマニアな人は色々知ってるから答えられないとガッカリされるよ」
壮大で黄金の天守を見上げながら、お産にこんな立派な天守とか何の役に立つかなあと疑問に思う。
「でもどっかで見た建物ね」
「さっき伏見の山麓で見たでしょ?」
「あ、あれかあ」指月丘の、五層の天守かあ。
「本当はこの城を解体して、伏見に映す予定だった。それを地震に備えて待ったのよね。
結局新しく山の上に築く事になったんで、ここは残された、って事よ」
「城を引っ越すとかダイナミックだなあ」
御殿はこれまた豪壮で…そこから離れてポツンと残された小さめの御殿。
もっとひしめいていた奥向きの建物の中で、ここだけ残された建物。
そこが豊臣秀松公、後の九州日出藩主となった木下秀松公の出生の場所か。
お城がデカくても、お産に要する場所は庶民も天下人も変わらないからね。
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そして、来た道を戻り線路の方角にあるもう一つの天守が聳える地へ向かう。
右手には巨大な水車が廻っている…
「あれは淀城名物、巨大水車だ。場内、西の丸庭園に淀川の水を引き入れているんだ」
等と話しながら今は無き東の丸、今や近鉄の駅の敷地となった場所を過ぎ三之丸の桝形門をくぐると、目の前に白亜五層の重厚な天守。
その周囲には子供の様に小柄な二層櫓を従えている。
櫓は一部が石垣からはみ出している、中々不思議な格好をしている。
「一時、伏見城を廃止してここを京都南の守りに特化させようって計画があったんだけど、色々変更になって豊臣家所縁の大和郡山城天守を模した天守を建てる事になった。
でも伏見城天守のサイズで天守台を作ってたんで廻りの敷地が余ったから櫓で囲んだ、そうな」
「色々紆余曲折だらけだねこの辺…」
「基本、城は物凄い物量が必要になる。
だから廃城して移築するも合理的なんだけど、歴史の証となる物が消え去ってしまうのも残念に思う。
色々コストもかかったけど、長く要衝を守る出城として機能してた。
そんな昔も過ぎ去って、今では外国の要人を歓迎したり、観光資源になってるのも良かったんじゃないかなあ…うん」
オッサンは自分に言い聞かせるみたいに頷いた。
私達は一度天守から離れ、北側の門から二之丸に入り、本丸御殿、そして天守へ。
先ずは四隅の櫓へ…
「櫓小っちゃ!」
「おひとり様専用ね」
「引き籠り専用だわ」
「シュギョー出来マス」
「んな阿保な!あははっ!」
みんなで笑ってしまった。
天守の方は、巨椋池の眺望が凄い。
対岸には遥か遠くに伏見城の二つの天守に向嶋城の天守も…ちっちゃ。あれかな?
「琵琶湖から京まで、凄く色々お城を見て回ったなあ…」
「付き合わせちゃったねえ」
「いえいえ、こんな贅沢旅行、時様とお知り合いになれていなかったら社会人になっても出来なかったかも」
ちょっと駆け足っぽいけど、それでも凄く贅沢な旅だよ。
「ガイドの資格取れれば出来るかもよ?」
「あれは大学卒業のためよ。
こんな色々な場所で他人を案内なんて余程の事がなきゃしたくないかも」
「まあ、歴史や城や寺が好きじゃなきゃねえ」
「ま、今度の旅でちょっと好きになったかな?」
「それは何より」
本当に観光ガイドやる事なんてあるかないか。
ましてやガイジンさん相手なんか。
いや、外資系の会社とか就職したらあるかも?
やらされたとして、その分ちゃんと給料出るかな?
「それにしても、どのお城も凄い建物の数ねえ。
江戸城も凄いけど、この淀城も三階建ての櫓が本丸の御殿を一杯取り囲んでる」
「帰りがけにもう一度本丸の外から眺めてみるといいよ。
列を成した武将の行進の様だ」
何を似合わず詩的な事を…と天守を降りて去り際に本丸を眺めると…
うん。オッサンの言う通りでした。
江戸城二之丸の三層櫓程大きくはないけど、リズミカルに並んでいる白亜の櫓は、正に武士の行進の様だった。
「よくぞこれだけの建物が焼けたり壊されたりしないで残ってくれたもんだわあ」
「残す為に結構な維持費を捻出してくれた、時の政権に感謝!だなあ」
「維持費ってそんなにかかるもんなの?」
「木造建築はねえ。傷みやすいんだよ。
数十年毎に修理したり、場合に寄っちゃ解体して腐った部材を交換、なんてこともある。
それがこれだけ建物があると観光収入や外務省が来賓を招いてのイベント予算と、国の予算で何とかってところだ」
等と世知辛い話をしつつ、西の丸の御殿で庭園を眺めつつ、お茶を頂いた。
この庭園の池の水、淀川の巨大な水車から組み上げているそうだ。
その水車が遠くでゆっくり回っている。400年近く回り続けているんだろうなあ…
「お菓子欲しい~」「オカシホシー」魂の双子が風情もへったくれもない事を言う。
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ちょっとまったりした後に、淀城の西端に行くと船着き場が。
京まで乗った軍船…を改造した遊覧船がやって来る。
「私達あれに乗って安土から来たんだなあ。タイムトラベルみたいだぁ」
「ではタイムトラベルの終点、大坂へ途中寄り道しつつ向かいましょうか!」
「「「「ハーイ!!!」」」デス!」みんな仲いいなあ。
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※現実世界では夭折した鶴松、この世界では成人して豊臣家を継ぎ、徳川の天下でも生き延びています!
それ故か、実際は跡形も無く消えている淀古城も主要部が残って天守も御殿も聳えています。
現実では駅の北、納所という町に「納所北城堀」「納所南城堀」という地名を残すのみです。
18世紀の淀城下古図ではこの辺りに寺や邸があり、その辺が古淀城のあたりかと推測されます。
五層の天守は現実では指月伏見城に移築され…慶長地震で崩壊しました。
天守として移築されたか、単なる建材として移築されたかは不明ですが。
※江戸時代の淀城、実際には本丸南面の堀と石垣、天守台を残し消えています。
そして天守台ギリギリ脇に京阪線が走っていますが、この世界ではもうちょっと南側を走って、内郭を残している様です。
下記はその昔私が描いた淀城内郭部分(西の丸が異様にちっちゃかったり)の復元?想像図です。
https://www.pixiv.net/artworks/71861409
※なお、勝龍寺城は寄りもしない様子で、ファンの方地元の方すみません。
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