30.ガイド伏見奉行所 伏見の酒は美味なのか?

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


******


 伏見城下で寺田屋とか見学。18世紀半ばの明治維新の際、伏見城の代わりに戦場になった城下の伏見奉行所も見学。

 この辺もガイドできる様にしなければ。


 伏見奉行所の御殿は廃されて金融機関のビルになっている。

 そのビルの前には、城門の様な、もとい城門そのもの二層の楼門が建っている。

 そして左右には水堀と石垣、そして海鼠壁と白壁の長屋、いやこれも多門櫓だな。多門櫓が伸びている。

 その左右の両端には、端正な三層櫓が聳えている。

 江戸城のドッシリとした重厚なものより、二条城本丸でみた様な端正な櫓だ。


 こうしてみると、何だか立派なお城だ。

 パっと見たら「これが伏見城デスヨー」とか騙せそうだ…いやちょっと無理があるか。


「この伏居奉行所は、江戸時代に入り伏見城が淀城の支城となった際、軍事的な機能を木幡山の伏見城に、そして交通の要衝であり続けた伏見の町を見張る役所、番所としての機能を町内に備えるために築かれたものです。

 幕末の動乱で、この楼門と櫓の内側にあった御殿建築の奉行所は炎上しました。

 現在残っている二機の櫓と長屋、楼門はこの土地を購入した金融機関の好意で整備され、その内部は左の櫓が幕末動乱の、右の櫓が伏見の酒の記念館になっています」

「結構マイナーなポイントだけどしっかり抑えてるね」

「長屋が土産物コーナーになっていて、観光の穴場って書いてありましたんで、ネットに」


 中に入ると今度はグラちゃんとオッサンが食い入る様に見てる。勿論右の酒記念館だ。

「ま、時様はどんだけ飲んでも肝臓潰れる事ないからいいけどさ」

 目を腫らしたお次さんが呆れつつ、少し笑いつつ話した。


******


 その夜は、巨椋池を見下ろす温泉ホテルに荷物を預けて、伏見の街のSakeバルで欧風料理と日本酒のマリアージュ?を楽しむ事にした。マリアージュって結婚?

「相性がいい、って事だよ。『結婚』はその派生語みたいなもんだ」

「そーなんだー!」初めて知った!

「ここは日本の酒蔵の中心地みたいな所だ。色々楽しんでくれ」

 メニューにはびっしり色々な酒の名前が。


「あれ?今までもそうだけど、テレビでコマーシャルしてた『伏見のお酒』って名前がないよ?」

「ああ。あの辺はもう伏見の協会から追い出されたからね」

「え?何で?」

「あいつらは大量生産するため日本酒じゃなくて工業アルコールの生産手法で、人の体に悪い酒を造りすぎたんだ」

「え?体に悪い酒って?」

「酒って、自然の発酵に人が手を添えて、ゆっくりと出来上がるものなんだ。

 アメリカ的産業哲学から言ったら真逆のものだよ。


 機械的にアルコールを作れば、人体に吸収され辛い物になり、悪酔いの元となる。

 でも明治以降、大手の酒蔵はそっちに流れそうになった。


 酒蔵の技量を評価する『品評会』だけに一流の酒を出品し、その評価を安価で大量生産した毒酒にも貼り付けてコマーシャルを流して売りまくった。

 その結果、多くの人がその毒酒を飲んで死んだり廃人になった」


 そんな事があったんだ。

「でも新聞もテレビも…」

「その新聞やテレビのスポンサーが大手酒造だ」「ああ…」

 酷いけど、まあ理解できる話だ。


「そこで各地の杜氏たちが酒造法違反だけでなく殺人罪まで適応させようと裁判を起こした。

 その結果毒酒メーカーの経営者共、中には洋酒業界のドンと言われてた奴もいたよ。

 そいつらは必死に抵抗しやがったが、しっかり有罪になって業界を追い出された。

 …いい気味だ!」


 オッサンオッサン!怖いって!

 ちょっと怖くなって廻りを見た…日が高い時間なのか、人影はまばらだが。

 お店の人も、少ないお客さんも、何だか凄く頷いている様だ。


「それでもそいつらの会社は生き残って今でも毒酒を「合成酒」と明記する事で作り続けている。

 それでも結局安い酒を求める消費者と、スポンサーを求めるテレビや新聞がそれを宣伝してる。

 ここから先は消費者の選択次第だよ」


 そういって、時さんは一番安い「京姫」を飲んだ。

「美味しい…安くても、美味しい…私は、こういうお酒が好きだよ」


 注がれた酒を見つめ、いつになく真剣な時さんの話に吸い込まれそうだった。


******


 それから京野菜の料理を、近江牛の焼き物を頂き、隣接する協会の販売店で「玉乃光」の純米大吟醸を買ってホテルへ戻った。

「家族風呂かよ!やだよオッサンに裸見せるの!」

「時様は来ませんよ」

 お延さんに手を引かれ、客室に繋がった温泉へ。

「但し、酔って潰れたら時様に引っ張って貰いますよ」

「うぇ~」

「そんな事言って、意外と嫌な感じでもないんじゃない?」

「やめてよお次さん!」

「サオシマイデース!」「オシマイデース!」お玉ちゃん意味わかってる?

「あたしはイケメンな王子様がいいのー!」

 その飲んでグダって、ちゃんと着替えてベッドで寝ましたよ。


******


 あ~。朝日が気持ちいい。

 飲み始めが早かったせいか、そんで飲んだ酒がいい酒だったせいか、毎度のことながら割とスッキリ目が覚めた。


 南に見えるお日様を眺めつつ、露天風呂へ。ちょいと昨日の残りをチビチビ頂きながら温まる。

 朝風呂朝酒って、小原庄助さんかよ、贅沢だな~。


「贅沢ですね」

 ひっ!お延さん!朝日を浴びる、ナイスバディ…


「司さんも、お綺麗ですよ」

「そんな。カレシいない歴=人生ですから私」

「それは見る目の無い男に囲まれていたのですよ」

「そんなお延さんは何であのオッサンに…」


「あのお方は、とても凄い方。とだけ申しておきます」

 そう言ってこちらに微笑んだその笑顔は、観音様より美しかった。


 暫く黙って杯を交わしていると、お次さんも、玉ちゃんも、グラちゃんも入って来た。

 みんな、今日は何食べたいとか、今までどれがよかったとか、笑顔で話し出した。

 みんな、とても綺麗な笑顔だ。


 ああ。確かに幸せだなあ。


「アタシぃワー!イケメンオージサマがァ、イイノオー!」

「おじさんがいいのー!」

「ヤメテー!」


 ちょっと嫌かも。


******


 朝食を終え、私達は京阪電車で淀へ。

 おお!遥か北に、そして南に五層の天守が聳えている。


******


※伏見奉行所は、今やちょびっと石垣の下の部分が残るのみです。

 三日月陣屋を城というなら、京都奉行所も城なんじゃないかなあ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る