28.ガイド向島城・伏見城ふたつ 洛外も城ラッシュ
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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京の大仏様と一緒に雷様から逃げまくった、お隣三十三間堂の観音様千体を拝観し…
あのデカい大仏様とこのうじゃうじゃいる仏像が金ぴかでピョンピョン走り回る…オウ!シュールだ。
何かイギリスでコメディアン集団が写真を加工したアニメでスケッチ作りそう。
等と考えつつ。
琵琶湖から来た、あの軍船みたいな遊覧船で、次の目的地の伏見へ。同じ船かな?
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京の南に広がる広大な巨椋池。
そこに浮かぶ小さい城は向島城。
軒瓦と鯱を金に輝かせる三層の天守が、一昨日の琵琶湖のお城を思い出させる。その近くで下船。
「一時は駿河殿…大御所の城になった、小柄ながらもよく戦った城だよ」
とオッサン、例によって見て来た様に言う。
京の城って言えば二条城や聚楽第。
そして伏見城は話題になるけど、この向島城ってあまり話題にならない。
でも大坂の乱では琵琶湖艦隊の中継地として兵站を良くこなした…ってガイドに描いてある。
腹が減っては戦は出来ぬ。弾が無ければ敵を討てぬ。
明治以降の軍で陸海空軍で念仏の様に唱えられた、なんて爺さんから聞かされた。
何でも、
「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々蜻蛉も鳥のうち」
と揶揄した部隊が、責任者の連隊長諸共懲戒免職されたなんて事件があった様で、今でいうロジスティクの重要さは戦国末期以来の伝統だとか。
そこから上陸して観月橋を渡った右手に、天守と三重塔。
三重塔は慶長大震災の慰霊塔だとか。
「織田信忠右大臣逝去の後、日本の政治を任された羽柴筑前守改め摂政は、居城とした大阪と京の中継地として、最初はここに伏見城を築く予定で整地を始めました。
しかし暫く築城を止めました。その後に慶長伏見大震災が起き、この地に慰霊碑として三重塔を建て、木幡山の上に城を築き直しました。」
「その通りだ。三重塔は京大仏と同時に上げられた慰霊碑だ。
手前の指月丘の伏見城予定地は江戸時代を通じて桃園になっていたのを、明治帝が愛されて、陵墓に定められた。
その際、帝が、この地に移築される予定だった淀城…もとい鶴松城の天守と同じものを造営されたんだ」
お次さんが、三重塔に手を合わせて祈っている。
そして
「やっぱり色々、踏ん切りつかないもんね」と時さんに苦笑いしつつ話す。
「私には、マルチバースは解らないよ」
何だ?マルチバースって。
「ここでも多くの女が禿鼠の所為で死んだんだ!」
するとお次さんが時さんに抱き着いた!え"?
なんだか、泣いているみたい。
何があったんだ?
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天守と三重塔、その間には屋根や望楼が乗る漆塗りの豪華な橋が架かっているけど、その下に小舟乗り場がある。
それに乗って上流の「船入り」、そう。木幡山に聳える伏見城に入る。
大坂から京に入るルートは陸路では淀廻りと伏見廻りがある。メインは伏見廻りだ。
その伏見ルートを抑えるのがこの伏見城。
舟入から上がると目の前に、櫓門ではないが豪壮に飾られた単層の門が迎える。
右手に見上げる二之丸、本丸は白く輝く塀に、黄金に輝く軒瓦、巨大な御殿の妻板。
その奥に上層部をのぞかせる、白亜の天守。
大坂の乱の砲撃や、江戸時代の落雷、そして明治の戦いで砲撃を受けながら焼失せずに済んだ、建築と障壁画、彫刻の国宝群。
先の京の二条城や聚楽第等と並ぶ美の饗宴…はあ。
柄にもなくこの壮大な空間に飲み込まれてしまいそう。
「ここで、ワタシの国はハポンのスゴさに頭を下げたのデスね…遅イーって!」
「グラちゃん!あんたの祖国でしょが!」
「祖国であっても馬鹿は馬鹿デース!フェリペ二世は一代で登り詰め過ぎて、調子に乗って転落したんデース!」
確かにフェリペ二世はスペインの黄金時代を築いた英雄だ。
しかし同時にアジアでは日本に、膝元ではイギリスにボコられて、今のスペインでは人気と不人気半々だそうな。
その失政の大部分は、ローマカトリックに偏重する余りプロテスタントへの弾圧、虐殺、異民族軽視といった差別によるもの…う~ん。
当時のヨーロッパではそれが当たり前だったのかな?
「宗教バカは現実が見えまセーン!」
グラちゃんがプリプリ怒ってる。なんだか可愛い。
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三之丸跡から二之丸へ上り、そして廊下の様に張り巡らされた廻廊。これ常に左側を二之丸から狙われてる?
「縄張はかの黒田官兵衛だからね。大坂の乱の前の大坂城も同じ。
本丸に行くには二之丸からの攻撃に耐える必要がある」
「こんな厳重な守りだったらそう簡単に落城しないわね」
「ああ。守る兵がいれば、ね」
時サンが遠い目をした。何だ?この人時々こういう顔をする。
何?もしかしてこの人が言う史実ではこのお城、兵隊がいなくて落城した?んな馬鹿な。
アンチョコのケータイ見てもそんな事書いてないし。そもそも建物残ってるし。
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「「ほわー」」「オオーウ」「鼠…」
本丸の千畳敷御殿で、感嘆の声を上げる。お次さんだけ別の事言ってる。
前後に入って来る観光客も同様に声を上げている。
聚楽第同様、黄金の空間。
東アジア、マニラとマカオからポルトガルとイスパニアを排除した南蛮征伐で、イスパニアからの降伏使節を圧倒するために設えた広大な空間。
その後近代史においても支那やロシアの施設を屈服させた歴史的空間。
欧州の宮殿のサイズに合わせて日本建築らしからぬ天井の高さを設けた、鏡の様に磨かれた床張りの空間。
戦国末期、17世紀の日本が世界の強国と渡り合った空間。
それがここ、京の南、伏見にある。
「日本、スゴい…」思わず漏らした。
「江戸城や二条城だって、スゴイよ」オッサン、徳川寄りの人かな?
「どっちにしても、400年前ってのが信じられないし、400年残ってるのも信じられない」
黄金の障壁画、極彩色の欄間を眺めながら、話した。
「そデスね。ハポンは奇跡の国デス」
「グラシア、奇跡じゃないんだよ」
「オ!そデシタ。ハポンはそうしないと、生きて行けない」
「どゆ事?」
「ハポンは豊かな国デス。でも、台風、地震、火事ありマス。
だから、みんな、力を合わせマス。だから、強い。
神の教えなんかより、天災、もっと強いデス」
「そういう見方もあるもんねえ…」
天災と宗教比べるのもどうかしら。
そして恒例の天守登り。
はあ~。
京と淀川の下流が一望できる。
そして眼下に巨椋池、そのほとりには鶴松城に淀城が見える。
「明日はあそこに行くよ」
「時さんホント元気だよねえ。小学生みたい」
「ああ、小学ン千年生だぞ?」
「千年とか厨二病かよ」
「否定はしない」
「しないんか!」
「あらまあ、ホント司さん、時様と仲良くおなりになって」
後ろでお延さんが嬉しそうに笑う。
「なんかこの人のペースに慣れました」
「大人なんですね」
「私が小学ン千年生です!」
「威張んなて!」
皆が笑う。あんまり笑わなそうなお次さんまで噴き出してる。
つられて私も笑った。
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※京都の南にあった巨椋池は瀬戸内、大坂、京を結ぶ水上交通の要衝でしたが、昭和に入り干拓で消滅しました。
この世界では今尚水上交通の拠点として存在し活躍している様です。
※向島城は伏見城の出城として築かれましたが、今では地名と僅かな高低差のみが城地を忍ばせるのみとなっています。
明治の古写真でわずかに城らしい高地を忍ばせる景色が記録されています。
※史実の日本軍でロジスティクスが徹底的に無視され惨劇を招いたのは今更言うまでもありませんね。
しかし令和日本でも政府によるロジスティクス軽視は現在進行形です。
近い将来の破滅を招いています。
ホントにドライバーさん、10年以上面子が変わってないのよ。給料も。
※史実では指月伏見城は完成寸前に慶長伏見地震で崩壊し、事前に入城していた女性五百余人が崩壊した御殿の下敷きになり圧死したという記録があります。
※下記は過去私が書いた徳川再築の木幡山伏見城想像図です。
この図の真ん中、左右に連なる本丸と二之丸だけ残っているのがこの物語の情景です。
指月伏見城も途中まで書いたのですが、どっかいった。
https://www.pixiv.net/artworks/82498621
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