27.ガイド京大仏 神も仏も天にいまし世は全て事も無し
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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平安神宮というか平安京を見学し、応天門前を横切る丸太町通りを市電で大坂行の運河へ…
とならず、御所の角で烏丸通をちょっと南へ、グラ玉コンビたっての希望で京都国際マンガミュージアムへ。
マンガの巨大な図書館だね。
巨大な○の鳥のモニュメントに驚く二人。
「オー!世界が亡びマース!」「マース!」いいのかよ。
「宇宙も滅びマース!」「マース!」何それ怖い。コズミック害鳥じゃん。
中には戦国末期から保存されている様々な絵物語に始まり、今人気の漫画まで。
「異世界転生…チート能力…ハーレムって。現実逃避だよねえオッサン」
おや?今度はオッサンが妙ちくりんな顔してるぞ。
4人もなんか笑いをこらえてるし。何なんだこの団体。
「あ~。ここで陳列してある本読んでたら日が沈むぞー」
グラ玉がこの世の終わりみたいな顔してる…
「お土産買って次行くぞー」
あ、すごいニッコニコに。切り替え早いなこの二人。
しこたま買い込んだ漫画のポスターや色紙を背負いコンビニの宅急便受付に駆け込むグラ玉。
身軽になり、烏丸通りを南下する市電に乗って、七条まで下って乗り換え、東へ。
鴨川の向こうに巨大な大仏殿の屋根が見えて来る。
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ほえ~。
「「「ほえ~」」」
私の心の声に応える様にグラ次玉が声を上げる。
デカいよね。上野の大仏殿の何倍あるんだって超巨大な大仏殿。
これが京大仏の大仏殿かあ~。
「東大寺とどちらが大きいのでしょうね」
「建物の規模では東大寺の方が横に長い分ちょっとだけ大きいけど、ほぼ同じだな。
松永弾正と三好三人衆の戦いで焼かれた後、天下平定の後に再建された今の東大寺金堂は焼けた鎌倉時代の物より天平の規模と同等に再現されたから、まあほぼ似た大きさだ」
「東大寺金堂?」
「奈良の大仏殿の名前だよ。この京の方は単に『大仏殿』だけどね?」
「じゃあ、東大寺みたいな、この大仏様はナニ寺なの?」
「それがナントカ寺、じゃなくて、スポンと『京の大仏』が正式名称なんだよ」
「何それ?」
「太閤殿下に聞いてくれよ」
「八坂の塔だって法観寺って寺の残りでしょ?昔はナントカ寺って名前なかったの?」
「無いんだよ、コレが。まあ、方広寺とかが出来た事があったかも」
「方広寺~。無いわよそんな寺」「だよね」
等と言いつつ大仏殿の中へ。
うわー!
「「「うわー!」」」
私の心の声にグラ次玉がリアルに声を上げる。
でか。でかでか。
金、キンキン!ピカピカ!子供が病院に連れていかれるレベルでピカピカー!
「落雷や失火は避雷針や散水機があったからとにかく、地震は大丈夫だったのかしら?」
「最初は慶長大地震の前に立てるつもりだったけど、その後に立ったから、大丈夫だったんだよ」
「地震前だったら首とかもげてたかもねえ」
グラ次コンビが凄くスケッチしてる。目指せ21世紀のモンタヌス。
「でも」
とスケッチを終えたお次さん。
「禿鼠にとっちゃあ、大仏さんもデウスさんも、どーでもよかったんだ。
あれはテメーだけしか愛せなかった哀れな鼠だ。
そう考えたら、この大仏も哀れか…」
相変わらず厳しいお次さんの太閤評。
「いや違うか…」
おや?ちょっと前向きになった?
「時様の進言あっての、ナマズで死んだ人達の魂を鎮めた大仏。
鼠はいい財布だったって事かも」
「ソーデス!ソでなければトクガワの御代で燃えてマシタよ?
地震、雷、火事、オヤジー、から全部逃げた大仏サマー!」
そうだ、何かで聞いた。
「京の京の大仏さんと三十三間、大仏さんと観音千人、天火を避けて逃げきった。
あっちゃピョンピョン、こっちゃピョンピョン」って。
京のわらべ歌とかで、落雷に耐えた京大仏殿と三十三間堂を歌ったとか。
大仏様がピョンピョンしたらスゴいよね。
この大仏、慶長の大地震で亡くなった人を、秀吉が追悼するために寄進したもので、この一件で秀吉人気が京大坂で不動の物になったのよね。
何度も落雷や地震に耐えて今に残っている。スゴいよね。
そんなスゴい大仏様、ありがたや。
さて、次は伏見か…あれ?お玉ちゃん?
何で?真っ白な顔。
「何で?デウス様はみんなを殺しちゃった。この大仏様はみんなを守ったの?」
「そうだよ。
デウス様のためにー、なんて言ってたインチキ野郎は、みんな人を売り買いする外道。
ヤソ会の外道共たちはね、みんな死んだか追い出されたよ」
その通りイエズス会の奴隷商人どもは追い出されたか、日本に潜入して社会の分断を企んだ者は処刑されたんだよね。
今、日本でキリスト教の信者は0.1%未満、1万人もいないし。
でもクリスマスは皆で「聖なる夜」って祝っている?し、バレンタインデーとかもチョコレートが無茶苦茶売れている。
しかし「イエズス・キリスト」という言葉は「奴隷商人の旗頭」「有色人種の虐殺者」という、日本人の誰もが嫌う鬼畜外道の代名詞になっている。
あれ?そういえば、その外道たる「イエズス・キリスト」の誕生日なのにクリスマスで恋人たちがエッチな事してるって…
なんだやっぱり外道じゃん。
お次さんは玉ちゃんを抱きしめて言葉を続けた。
「この大仏殿は、でっかいから雷をここに集めて低い建物を護った。
この世に神も仏もいるかも知れない、でもねお玉。
そいつらは何もしないよ。
この世にあるのはデッカイ作り物だけだよ」
お次さん、冷たい事を言う。でもそれは、本当に酷い目に遭ったから?
目が座っている。
それを見ているお延さんも、同意する様に目が座っている。
グラちゃんは…グラちゃんの目には、しっかりと気持ちが込められていた。
そしてグラちゃんが言った。
「おタマ。おツギ。ツカサも。
主なる御一人子イエズス・キリストは、天にいまス。
地上の私達は、私達で何かをするダケなんデス。
キリスト様がお示しになるのは、私達の行く道デス。
地上の私達を助けてくれる、そんな事などありまセン。
地上を旅する私達は、私達が信じる道を歩むのデス」
更にお延さんも言った。
「そうよ、司さん。
神様も仏様も、何もしないよ。出来ないよ。
このあたし達の生きてる場所には、いない。
いても何もしない。
いるとしたら、この世の外側。
それをどう信じるか、どの教えに従うのか。
それは、結局私達一人一人の思い次第なのよ」
グラちゃんが、やさしく頷いた。
オッサン…私達を何も言わずに、でも納得したみたいに見ている。
複雑な思いを胸に、私達は大仏殿を去った。
でも皆大仏に一礼して、オッサンもグラちゃんも大仏に頭を下げて、大仏殿を出た。
信仰って、何だろう。
そういや、ウチって何宗だったっけ。
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※「方広寺」という名称は、当初存在せず、江戸時代まで「京大仏」でしたので本作もそれに従います。
秀吉はあまり寺とか仏教とかに拘らず、イキナリ「奈良の大仏の替わりだあ!」とブチ上げた感がありました。
なお、現在の東大寺大仏殿や東寺金堂は、京大仏の大仏殿を模倣した、と考えられます。
大林組が復元考証した大仏殿は下記の8ページ目にあります。
https://www.obayashi.co.jp/kikan_obayashi/upload/img/057_IDEA.pdf
※初代京大仏は塑像で、慶長伏見大震災で首がもげたと言われていましたが、この世界では震災後に鋳造物として建立されています。
なお史実の二代目、鋳造大仏も17世紀半ばの地震で傾き、銅貨に転用されました。
その後規模を縮小され再興された三代目の木造物も18世紀末に焼失しました。
その時のわらべ歌が
「京の大仏つぁんは天火(てんび)で焼けてな 三十三間堂が 焼け残った
ありゃドンドンドン こりゃドンドンドン」
という物で、この物語で歌われている物の元歌です。
なおその後4代目?というには粗末で不人気だった木造半身の大仏が大仏殿と共に再興されましたが、1970年代に周囲の感心も低いままに練炭の不始末で焼失しています。
最近の話なのになあ…。
※この世界の江戸期東大寺金堂は、実際のものと違い天平期の規模、今の規模の倍で建立されている様です。
全長100mに及ぶ巨大な七重の塔については、またいずれ。
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