17.ガイド今浜城・大溝城 オタクツアー?

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 佐和山城、彦根城からの帰りは城の西側、山崎曲輪の三層櫓の下からまたまた琵琶湖へ、そして北上。

 ちょっと大きめの街の湖畔に点(ちょん)と見える三層の天守。今浜城だ。


「禿鼠の城か…」とちょっとクールに言い放つお次さん。この娘、アンチ秀吉なのかな?

 もしかして秀次ファン?


 でも二人は仲良しさんで秀次さんもしっかり豊臣家の二代目を育てたじゃない。

 狂女淀君が次男秀頼を溺愛しさえしなきゃ徳川幕府なかったかも知れないし。


 船は湖に突き出た本丸に近づくと、北側に廻って鈎の手状に湖水を抱え込んだ本丸、天守の真下に到着。湖に聳える天守、ファンタスティック。


 そこでは下船せず、更に堀を縫って市街地に入り、大手前の船着き場へ。

 前に琵琶湖を背にした天守、後ろに国鉄の今浜駅。

 一国一本城令で外郭の建物は失われたけど、街が市に昇格して、彦根城に持って行かれちゃった大手門や湖畔の本丸以外の櫓や壁が建て直されたお蔭で、浮かぶ城として見応えがある。


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「フランスはロワーヌ川で古城めぐりがあるけど、日本には琵琶湖の城巡りがあるからいいよね~」

「これもかの閻魔、いえご隠居様の近京坂路の施策があれば故です」


「今でも琵琶湖の南半分まで、彦根までだったら大坂の通勤圏だって。

 こっち出身の大学の友達に聞いたよ。

 小田原や高崎から東京行くのとあんまり変わんないんだって」


「うわぁ…」

 そんな通勤したくないけどね。


「そういやオッ…時…」

「オッサンでいいよ」

「じゃあさオッサンはさあ」

「田中邦衛かよ?!」

 なんだそれ?


「今は何の仕事してんの?」

「今は昔稼いだ金で暮らす無職だよ」

「それ無職じゃなくて資産家じゃない?!ですかぁ??」


 この瞬間私の中でオッサンもとい時様の株爆上がり!


「いいな~時様ぁ~!あやかりたや~」

「現金だねえ」


 なんてアホな話してたら…あれ?お次ちゃんとグラシアさんがいない?

「あ、あの二人は…」


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 そこにはガラスにへばりついた、美少女だった「謎の物体」がいた。

 グラちゃん、そしてお次さん…


 そのガラスの向こうには、何かアニメの人形とか、恐竜の人形とか…オタクな世界が~!

 何だここー!


「ここはアニメや特撮の人形を作り続けた会社の博物館でね、オッサンが若い頃スゲー欲しかった人形とかおいてあるんだよ」

「あのエッチな女の子の?」

「じゃねえよ、あの銀色の巨人の方だよ」

「あー。お子様が欲しがるヤツねえ」

「そうだ。オッサンはオッサンになってもガキなんだよ」


 だが二人の美少女だった物体は、エッチな女の子の人形の方にベッタリだ。何故だ?

「カワイーはセイギデース!」「でーす!」

 グラちゃんはとにかく、お次さんのイメージが崩れていく…


「お次ったらグラシアの真似して漫画が大好きになっちゃって」

「ワタシの国デハ!

 ハポンにボロ負けした教会の教えからイタリーの文化へと卒業し、自由にありのままに人の美しさを描く時代になったのデース!

 でもハポンはその斜め上いっちゃってたのデース!」


 嗚呼。江戸時代に入って浮世絵とか春画とか春画とか…


「まあ日本は江戸の頃から変態の国だったしなあ…」

 変態言うなやコラ。


「アニメフィギュアは世界の宝デース!」「でーす!」


 いいのか?!まあいいや。さっきまで辛そうだったお次さんが元気になって。

「あれ作ったなー!ソフビなんで自重でへにょってなって立たなくってさー塗料も乾かないしー」

 オッサン童心に帰ってんじゃねえ!


「お腹空いたー」

 ごめんね~お玉ちゃん。

 何故か仏像まであってお延さんが見つめている。


 もうカオスだこれ。

 そうか日本はカオスなんだ(違)。


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「うまうま」

 お玉ちゃんは船で鱒寿司を食べてる。みんなもいっしょに。

 で、オッサンとお延さんは更に酒を飲んでる。

 グラちゃんと次さんはさっきの人形屋で買った本をスゲー必死の形相で見入ってる。寿司なくなるよ~。


 でもいいなあ、船の上でおいしい寿司とおいしいお酒。

 こらオッサンイチャイチャすんな!


 なんて頭の中で言ってると、船は琵琶湖の南西、大溝城に近づいた。

 織田家琵琶湖ネットワークの一つで、ここも小ぶりな天守が輝いている。


 とは言えもう5か所目。ちょっと上陸して足を延ばして休んだ感じ。

 グラちゃんはダッシュで天守に向かって行った。お次さんはまたチャチャっとスケッチしてる。

 お玉ちゃんは船着き場で何か食べ物探してる。


 ちょっと寝入ったお延さんを肩にもたれかけさせてるオッサンに聞いた。


「織田家はこんなに琵琶湖にお城を築いて琵琶湖から京大坂への物流網を拓いて繁栄したんですよね」

「ああ。お蔭で本能寺の変で軍勢をかき集めて反撃できたしね」


「明日はそのルートで京へ?」

「いや、明日は琵琶湖隧道でもっと早く京へ入るよ」

「やっぱ水運って馬鹿にできないもんなのね」

「そうだ」


 琵琶湖遊覧船は古くから京と大津を結ぶトンネル水路で結ばれ、そのまま大坂まで行く。


「もっと琵琶湖と京が大きな運河で結ばれたら外洋船が琵琶湖に入れただろうけど、技術的に無理だったしなあ」

「見て来たみたいに言うわね。

 それでも近京坂の船旅が今でも強いのは、織田信長のお蔭ねえ」


 まあ今や鉄道や高速が主流だけどね。


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※今浜城は、現実世界で言う長浜城です。今浜は羽柴秀吉が築城した時の旧名です。

 なお今浜城は天正地震で一度倒壊しています。

 無論、建築物に関する資料は皆無なので、多分二層櫓に望楼を乗せた三層四重の天守なんじゃないかなあとだけ。

 現在、跡地に模擬天守が建っていますが、そこにある復元想像図は下記ブログで掲載されています。

http://blog.livedoor.jp/keinosora/archives/41399091.html


※長浜市内にある、美少女達を謎の物体に変えてしまうオタクスポットは、「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」です。

 その昔、海洋堂の特撮ソフビガレージキットには泣かされました(遠い目)。

 押し入れには部分的に組み立てた1/35〇ーサー車が(泣)。


※大溝城に至っては天守台は湖畔の諸城に比べきっちりと残っていますが、その上にどんな建物があったのかは今時点では謎です。

 規模から言って…五層の天守が聳えていた伊勢神戸城の天守台より一回り大きい?

 そうすると五層天守だった可能性もあり?

 下記HPでは天守台脇の説明板の写真があり、復元模型(しょぼい)と想定平面図がちょこっと載っています。

https://murakushu.net/blog/2022/01/15/ohmizojyou/

 下記は同時期の織田家の城、伊勢神戸城の天守復元を個人で試みた方による同天守復元図です。参考まで。

http://startrek1955.web.fc2.com/photo3.html


※なお現実の歴史では、大溝城主だった織田信澄は妻が明智光秀の娘で、そのため織田家家臣から攻められ討ち死にしていますが…

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