7.ガイド増上寺 都会の真ん中不思議な空間
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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ほえ~。
帝国ホテルの大食堂で朝食を。食器もカトラリーもライト風。
「んまんま~!」「デリショソー!」何このお玉さんとグラシアさんのニッコニコ笑顔、カワイイ!
「本当にお言葉に甘えてしまってすみません」
「いやいや、こっちこそ引き留めてしまって済みませんね。今日は江戸市内を観光しようと思っています」
「やっぱ増上寺と寛永寺ですかね」
「…やっぱそうなるかあぁ」眉間に皺を寄せてオッサンが答える。
「何ですそれ?」江戸観光の定番は江戸城、増上寺、寛永寺だよね?
「いやね、ガイジンスキーならセンソウジーでカミナリモンー、じゃないですか」
オッサンが変な事を言う。
「何で?確かに浅草寺は古いし近いですが。やっぱり豪華さじゃあ増上寺と寛永寺、そんで東照宮でしょ。
昨日見た御三家の御殿、日暮門といい勝負ですよ」
「オオゥ」
「あれですか?あなたのいた時代じゃ焼けちゃってたとか?
16世紀末に雷受けと雨天井が出来てからそうそう焼けるもんじゃないですよ日本の木造建築は」
雷受けは受雷針、雨天井は散水機の古い言い方だ。これらの発明のお蔭で日本は400年以上の古い文化遺産をかなりの量で失わずに済んでいる。
ヨーロッパでは天に槍を向けるのはバベルの塔と同じとかアホみたいなキリスト教の教えの所為で数多くの文化財を失っている。
木造建築が長持ちしている日本が神秘の国とか持ち上げられているが、なんとも間抜けな話だ。
「いやいや。古い物が今に伝わってるのはいい事だな~って、ハハ。」
まあ、おいおいこの人達の言わんとしている事は問い詰めるとしましょう。
まずは江戸東京観光の二番手、二大巨刹観光をば。
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「何で観光バス使わないの?」
「都電に乗りたいんだよ」
「え~?どこでも走ってんじゃないっすか。
これもまさか…都電がなくなってる世界があるなんて言うんじゃないでしょね?」
「え~、ハハ」
「まあ、観光ガイドって観点だと、都内一日パスで安上がり、ってメリットもありますけど。
あんまり贅沢できない若い人にはオススメだけど貴方達は違うでしょ?」
「いいえ、贅沢は慎むべきです」とお延さん。
「帝国ホテルのスイートに止まってそれを言うかー!全国の貧乏人を敵に回すかー!」
あ、ちょっとかなり本音が出ちった。
「そ、そうでした。慎むべきは私達でしたね。すみませぬ」
「すまないね。私はこの懐かしい感じが大好きなんだ。周りを走る車とか、街並みを眺めて。
東京は山手線内と外で全然景色が違う。その古い町並みを走る路面電車が大好きなんですよ」
ん~。何か取り繕っている様な、そうでもない様な。
「あそこなんて黒ふすべの商家が並んでる。
千代田区が大政奉還以後の鉄骨赤煉瓦建築や高層ビルになっても一部の区域は日本建築が生活しながら残ってる」
なんて言ってるオッサンの目は子供みたいだ。
「安土や京大坂もこんなになっているのかしら?」とお延さん。
「百聞は一見に如かズ!見に行くヨー!」元気で可愛いグラシアさん。
「京も、酷い事はなくなっている筈」顔色が良くないお次さん。
「天主堂もお参り…したいな」天主堂って…お玉さんはクリスチャンかな?
電車は幸町の外堀を渡り…あ、水上バスが東京湾に出て行く。
船旅ガイドもいいけど都心に行けないし上野にも行けない。
やっぱり都電が便利なのかな~。
などと思っていると風景は一気に高層ビル街に。ここからは景観条例もない19世紀以来ビルド&スクラッチ、政治経済の牙城だ。そんな高層ビルの谷間にあるのが、芝の増上寺。
かつては後ろの林に聳える五重塔がランドマークだったんでしょうけど、今では東京タワー、いや東京タワーですら高層ビルに埋もれている~。
都電は芝大門の停車場で止まる。城門と同じ作りの…何て言ったっけ?
「高麗門。左右の柱を後ろの控え柱で差さえ、コの字型に屋根がついてるね」そうでした~。オッサン古建築マニアかよ。
左右に賑わう土産店、おお。平日だってのにガイジンさんイッパイイッパイネ!
「オー!サムライ人形!それともスーパーセ〇タイ?」
「グラシアちゃん。あれは五月人形って言って男の子が元気に育つのをお祈りするものよ」ちょっとガイドの予行演習しちった。
で、目の前の巨大な、真っ赤な山門。
「南禅寺とどっちが大きいかしら~」とはしゃぐハーレム娘達。
その向こうには、巨大な金堂。その中央に金が輝く唐破風。
「綺麗に残ってんなあ~!」
何その創建時見て来た様な芝居。
「で、どうやって焼けたってのこのお寺」
「アメリカの空襲で…」
「…アメリカが日本と戦う訳ないじゃん!」ここアメリカさんも多いのでちょっと小声で話した。
「アメリカは日本の防波堤よ?色々持っていかれたけど!」
そうだよ。歴史で難しかった所だよ。
第二次大戦の時、日本は上手くアメリカを中国に貼り付けて共産党の侵略を防いだ。
反面、油田と鉄道の権利を全部くれてやったけどね!
お蔭様でドイツやフランスみたいな地獄にならなくて済んだし。
そんなアメリカが日本を空襲?
どうやったらそんなバカな歴史が実現できるんだろうか?
「そんなバカな歴史も、あったかもしれないんだよ」
随分と芝居がかった様な。オッサンの表情には、妙に説得力があった。
増上寺参りを済ませ…
「ここは江戸城の南の守り、出城だ」えー!そうだったの?!
いやいやお寺じゃん?!
増上寺の巨大な建物の南隣は、江戸三大東照宮の三番手、芝東照宮ね。
一番手は小さいけど江戸城内の紅葉山東照宮、一般人立入禁止。
二番手はこの後行くよ!
やっぱり観光客は多くても、都会のオアシスだよね。
林に囲まれて、ここが都心の一等地だって思えないくらい。
結構サラリーマンの皆様が昼食や休憩に来ている。
白い柱に金細工の唐門。その先に赤い拝殿。もうちょっと南側には、八角形のこれまた豪華なお堂が建つ。
高層ビルの真ん中で、緑の木々に囲まれた、金やら赤やら極彩色やらの霊廟の空間…
OH…江戸東京の宝だ。
「昨日の日暮門より小さいけど、綺麗ねえ」
「周りがあの大きなガラスの塔だなんて思えない、静か…」えー、ビル街の事かな?
「400年、平和だったのね」
「ワタシの国、ハポンみたいになれなかったのかな」
美少女達が思いを漏らす。美しい。
んだけど、さっきのオッサンの物言いといい、何か陰気だ。
さっきオッサンが言ってた、日本とアメリカが戦争してたら…いやいや勝てる訳ないじゃん!
そんなアホな戦争する奴がいたら見てみたいよ!
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※この世界では都電が昭和41年12月以降の廃止ラッシュが無く、兼用軌条を専用に変更して存続しています。
それ以前に交通集中を予測して環状線、外環道を完成しているので都心の渋滞は相当緩和されています。
※今ではプリンスホテルと東京タワー下のコンクリのお寺、みたいな芝の増上寺ですが、かつては絢爛豪華、幕府の威信をかけた巨刹だったのです。隣接する東照宮や将軍家の霊廟も豪華絢爛でした。
勿論山門と唐門以外全部米軍の爆撃で焼き尽くされましたが、この世界では大東亜戦争は無かった様です。
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