8.ガイド江戸寛永寺 桜見るなら上野か飛鳥か 

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 オッサン大好き東京都電を乗り換えて、今度は上野、寛永寺。

 うわあ~、ガイジンさんだけじゃなくて仕事サボリのリーマンや動物園見学の子供達で賑わってるなあ。


 駅正面、上野のお山の正面玄関、黒門への階段を上る。

 その先は、江戸の清水こと岩清水八幡宮、そして天秤堂を控えてその先に巨大な…根本中道、東の延暦寺だ。

 その脇に江戸大仏がいる。

 左手には江戸三大東照宮の二番手、上野東照宮だ。ここにも壮麗な五重塔が聳える。


 西南にある不忍池のほとりは一大動物園。そして国立劇場や国立美術館、博物館。

「18世紀に、何度も博覧会を不忍池周辺でやった名残りだね」

 あ!それ私知ってたのに!

「その時に日本建築と洋風建築をごっちゃにして帝冠様式が生まれたのです!」

 寛永寺から見下ろして池の向こうにデーンと広がる和洋折衷の国立博物館は堂々としてる。

 その左右に連なる和風洋風の建築群も頼もしい。


「じゃあ、後ろを向いてみよう」

 黒門を過ぎたところでオッサンが言う。

 ジャストぴったり、江戸城の天守が見える。

 何と言う安心感。


「ここも江戸城の出城なんだ」

 えー!!

「増上寺と寛永寺は、寺であり、城でもある」

 知らなんだー!


 黒門から内側は境内だけど…

 ここは上野の東叡山。

 花見の名所だー!


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 境内の真ん中を貫く参道の左右は、青空の下薄紅の桜が満開、別天地だー!


 屋台やお茶屋が並んで、ガイジンさんどころか花見客で賑わってる。

 仕事を切り上げたのか、サラリーマンの集団が御座を敷いて酒飲んでる。いいなあ。

 何かガイジンさんが笑いながら花見の団体を写真に撮って、酔ったリーマンが芸してる。

 あれきっとバカにされてんだろうけど、それを芸で返すリーマンもスゴいなあ。


 そんな増上寺の一角には、小さな遊園地まであって、お猿の列車がぐるっと回る内側にメリーゴーランドや観覧車なんかがある。

 子供達の声が…ちょっとウルサイ。

「行こーよ!行こーよ!」あれ?お玉さんがオッサンを引っ張ってる。子供か?

 あ、お延さんがほほ笑んだら…諦めた!

「帰りにね?」お延さんの説得に首を縦に振るお玉さん。


「江戸の花見は上野か飛鳥か」

「飛鳥山は行った事ないなあ」

「どっちも徳川家由来の桜の名所。

 平民が酒飲んで、春の訪れを喜んだ伝統が今でも続いている。

 徳川様の治世は、優れた物だったんだなあ…」


「でも300年も持たなかったじゃない?」

「スンマセン」

「何でオッサンが謝るのよ!」


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 私達はそんな花見客を眺めつつ、さっきの増上寺山門くらいデカい文殊楼という二層の門をくぐる。

 正面の唐破風がオシャレだ。


 その先、左手に大仏殿があるけど、京や奈良の大仏殿と比べると、ショボい?

「柱が細いのと白木造りの所為かな?朱塗りの柱が聳える荘厳さがないよね」

その通りだオッサン。

 それでも結構な行列が出来てる。


 やっぱガイジンさんはデカいのがお好き?いや、社会見学か遠足の子供達も並んでる。

「イコーヨ、イコーヨ」おお、グラシアさんがオッサンを引っ張ってる。子供か?


 やっぱり、大仏様は何か見応えがある。

「最初の大仏さんは塑像、木と土で作った所為で首が落っこちてしまった。

 次の大仏さんは銅で造って、大仏殿も出来た。だけどこれも関東大震災で首が落ちてしまった。

 でも持ち上げられて、今は立派な姿が拝められる」


「なんか学生が多いよね」

「何度首が落ちても持ち上げられるから『滑り止めだけでも受かります様に』って浪人防止のお守りになってるんだよ」

「なんか後ろ向きー!」でもちょっと吹いた。


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 大仏殿を左手に曲がり、東照宮と五重塔を見物。

 金箔で飾られ、精緻な彫刻を施された東照宮は、やはり凄いなあ。

 元の文殊堂から真ん中の道に戻る。

 正面には左右のお堂とそれを渡り廊下で繋ぐ特徴的なその廊下の下を潜って、正面に聳える巨大な根本中堂へ。

 やっぱデケー。

 ホントどんだけ木材使ったんだ江戸開幕。

 中堂の前を囲む廻廊の左右には二階建ての塔?お堂?が聳えてる。


 は~。久々に見物したけど大きさに圧倒あれる。

 巨大なお堂の真ん中の、御本尊は何だったっけ?

「薬師如来。

 本家、京の比叡山延暦寺も薬師如来です。

 因みにさっきの増上寺は阿弥陀如来ですよ」

 流暢に応えるオッサン。さいでっか。

 そういやウチの実家は何宗で御本尊は何だったっけ。

 婆ちゃんの葬式でギャーテーギャーテーって言ってたの。


「お延、大丈夫?」

「平気ですよ。こんな中堂の近くに行くこともありませんでしたし」

 オッサンがお延さんを気遣う。何でだ?


 我らが国宝、江戸最大のお寺を前に妙な話だ。比叡山の焼き討ちにでもあったんだろうか?

「それにここは、とっても平和な気分。みんなニコニコにてます」

 そらそうだ。大都会の中の歴史スポット、ガイジンさんがスマホで自撮りしてるし。

 そんなノンビリした景色に、満開の桜。

 長閑な景色を見て、お延さんは幸せそうだ。美人さんだなあ…


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 根本中堂の裏、更に北にある巨大な方丈は非公開だ。

 オッサンが何だかそっちをボーっと見てる。

「何ですか?あっちにもなんかあるんすか?」

「いえね。この根本中堂が大噴水で、この方丈が国立博物館だったら…ちょっとどうだかね?」

「どうだかねって言われましても。何すか?やっぱ焼けるんですか?アメリカの空襲で」

「いや、明治の戦いで」

「明治ぃ?清が内紛で欧米に食い散らかされたんで徳川と天皇家がバトンタッチしたのに、何で上野が焼かれるのよ?」

「そだよね…」


 一体どんなシナリオ書いてんだこのオッサン??


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 上野からチョイと足を延ばして、アメリカンスタイルの都電で下町浅草まで。

「うおー!ホントにマスコンないんだー!」

「オッサン!恥ずかしいから運転席凝視すんなって!」

「いやこれPCCカーだよ?」

「時様はたまにこうなる」

「恥ずかしーじゃんよ!」

「仕方ないよー子供だもん」一番年下っぽい玉ちゃんに言われてっぞオッサーン!


 苦笑いしてた運転手さん、ゴメンナサイ。


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※上野名物西郷隆盛像は、彰義隊との上の戦争がないので存在しません。

 日清日露で大活躍の大山巌元帥をして「自分等小僧に等しい程の大人物」と言わしめた巨人、西郷さんのこの世界での運命やいかに?


※上野大仏。大仏殿は明治に撤去され、大仏本体も関東大震災で首が落ちたまま放置され、戦時中に金属供出で解体されました。

 寛永寺が顔だけ保存し、今では受験生に「(これ以上)落ちない」と縁起を担がれ拝まれているけど…


※現在国立博物館は寛永寺の方丈跡に建っていますがこの世界では上野山の下、不忍池畔になってます。

 なお、延暦寺を模した巨大な根本中堂は、今の噴水公園に建っていました。


※都電ファンなら大好き?なアメリカ生まれのPCCカー、5500系。都電の新機軸として期待されましたがマスコンの替わりにペダルで加減速するのが難しかったか数台作られて終わりました。

 1号車5501が上野動物園に保管された後、今では荒川線沿線の都電おもいで公園で保存されています。

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