4.ガイド江戸城その4 歴ゲー?

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 私、花の女子大生、時尾司は困っていた。

 大東京の真ん真ん中、江戸城天守の天辺、5層で。


 珍妙なオッサンと、そのオッサンと珍妙な話を深刻そうにしている美少女4人に、つい要らぬツッコミをしてしまって、両者何故か固まっているからだ。


「あ。先ずは自己紹介から。

 私は…誰だったっけ。あ。

 亘時(わたりとき)という、観光客です。

 彼女達は友人で一緒に全国観光旅行に行く仲間です」


「友人ではありません、妻です」「そうです」「同じく」「オーマイダーリン」

「やめてややこしくなるから!」


「…重婚、ですか?」


「近い物です、ハイ」


「い~御身分ですねえ~世の中には彼氏彼女の一人もいない寂ティ~い人がいるこの世の中で、こんな綺麗なお嬢様方をはべらしよってからにぃ!」

「あら、あなたも時様と一緒になりたいのですか?」


「ハァ?誰がこんな冴えないオッサンと?!…」

 と言い放った瞬間、周囲の温度が5度は下がった、気がした。

 何この美少女軍団、コワイ。


「まあ、みんな落ち着いて。

 え~失礼しました。お嬢さんは、学生さんですか?」

「何故それを?」

「いえ、平日日中観光地にいるのは観光客が学生さんかな~って」

「その通りです。

 私は時尾司、耶蘇大学の4年生で観光ガイド科目のためにここに来てます」


「おー!耶蘇大学ですか?!私はそこのOBです!」

「えー?!嫌ー!!」

「嫌って言われたよー!」

「この娘、無礼!」

「時様、成敗なされませ!」

「イェース!ギロチーン!」

「「ちょっと待てー!」」オッサンとハモった、うげ。


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「まあ、今開発中のゲーム、『異世界帰りで狂わせちった戦国史・ハーレム連れて行くぜお城ツアー』って作品のシナリオチェックを、みんなでやってる訳です。ど~もご不快にさせてしまった様で」

 美女軍団、頭をコクコク下げてる。何だその頭悪そ~なタイトル。


 芝居か?芝居にしちゃ堂に入ってるってゆ~か。

 あ~江戸城天守五層の風が涼しー。


「とっても面白そうですねー。何て会社のソフトですかァア~」

「え、エーコーって」

 スマホポチポチ「そんなゲーム会社ないですよォオ~」

「当社の旗揚げ企画なのでまだUPしてません」


 この人、嘘つくのが下手?っていうか、ちょっと違う。嘘を言うなら私から目を逸らす筈だ。

 オッサン、ちゃんと私を見てる。

 周りの美女軍団も見てる。警戒している、というより、もっと優しそうな、楽しそうな感じ?

 てか何だか笑い堪えてない?


 う~ん。私、この人達を好奇心で見てたけど、今立場逆転してね?

 私の方が見られてる?


 …もしこの人らが言ってた「自分が歴史を変えちゃった」みたいな発言が本当だったら、逆に「変えちゃわれなかった歴史」って何?


 歴史って、昔は「必然」だと考えられていた。

 誰がどんな凄い事をしても、その時代の「必然」が歴史のIFを踏みつぶして消していく、というものだ。


 私はそうは思えない。


 もし、あの時何かがあったら。信長が明智を疑っていたら。豊臣秀長が、鶴松が長生きしていたら。日本が唐ではなくポルトガルと直接戦争していたら。

 この人達が本物かニセモノか知らんけど、もしかしたらそんな思考実験、「もしも」のアソビに付き合ってくれるかも。

 ガイド履修には関係ないか。でも、幅は広がるかもね。


「ねえ。その企画、私も参加できない?」

「ゑ”」

 うわ変な顔。


「私は大学で観光ガイドを履修しなきゃいけないのよ。だから、もしも違う歴史があったらっていうアプローチ、ガイド的には話のネタになるのよね!」

「「「ええ~???」」」「オー!」「おー!」

 ガイジン美女だけ楽しそう?いや、一番小っちゃい子も?


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 子供の頃に見た、いやいやもっと大昔から江戸東京の空を見守っていた天守はやっぱり綺麗だ。

 いつかTVで豊臣の城と徳川の城を黒いか白いかで分けようとした学者が「聚楽第と伏見城白いだろうが!江戸城黒いだろうが!」って反論されてたのを思い出した。


「いいよねえー。科学時代の大都会のど真ん中に聳える木造の巨塔!これぞ日本!って感じだよね」

「あのー、私あんたの愛人さんじゃないんでそんな近寄らないでくれます?」

「おお、ゴメン御免。眼鏡が似合う知的でちょっとコミカルな女性って魅力的で…」

「何言ってだ!何をするだアー!」


 このオッサンはぁ!このオッサンはぁ!

 あとコミカルってそれ褒め言葉?!


「ツカサー、顔赤いデース!」

「うるさいよ!」「ウルサイじゃなくて、ワタシグラシア、デース!」

「あ…ごめんね、グラシア、さん」

 グラシアさんは笑顔で応えた。綺麗だなあ。

「あたし玉!」「お玉ちゃんかあ!」「えへへ」「エヘヘ」

 何だこの魂の双子?歳は離れてるのになんか同じ様にカワイイ。


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 天守脇の三層の月見櫓が聳える埋門から吹上へ行くと…

 なんか眩い世界が。


 ここ吹上は徳川御三家の豪華絢爛な御殿が建ち並ぶ、江戸東京で最もゴージャスなアベニューである…

 だそうな。


 パッと見区別がつかないけど、秀吉の大坂城や聚楽第に伏見城、そして徳川の東照宮達にも劣らない、豪華絢爛な、金と極彩色の彫刻に飾られた「日暮門」、眺めてたら日が暮れる門が三つ…その脇にも金の飾りが凄い瓦の門が。


「あの彫刻が凄くて正面が唐破風、檜皮葺の門が将軍専用口の「御成門」、その隣の瓦葺きの四脚門が表門だよ」そうですかオッサン。

 その左右は、真っ白い長屋が低い石垣の上に延々と伸びている。その奥には、巨大な御殿の、これまた金の金具で飾られた大きな屋根が。

 内部は今でも徳川御三家が管理していて、特別な日以外は非公開だ、残念。


 なんか黄金の世界だけど、その四方は松並木に囲まれている。

「これは火除けだよ。どんな豪華に作っても、焼けちまったらオシマイだからね」

 御尤も。


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「ツカサは今日どこに宿をとるの?」一番年下っぽい可愛い玉ちゃんが聞いて来た。

 うん、この子も美少女だ。でも、あのオッサンの…妻?

 私は考えるのを止めた。


「私は今日は家に帰るよ。明日は…」

「明日は?」こら、そんな一緒に居たそうにじぃ~っと見つめんな。

「学校、かな」

「あたし達明日は江戸のお寺に行くの!」「お寺?」

「ああ。江戸城の出城であり、歴代将軍の墓所だ」


 流石歴史ゲームのシナリオを考えるだけあってスラスラあ~って出て来るな。

「増上寺と寛永寺?」「そうだよ」私の問いに答えるオッサン。


「君も来るか?ちっとは案内できるよ?」

「ゑ"~?」


「一緒に行こうよぉ!」お玉ちゃんが笑顔で見つめる。

「ツカサ!この時代のハポンの声を聞きたいデス!」グラシアさんも笑顔で見つめる。

「旅は道連れ」ショートヘアでメガネの絵描き、お次さんだったかな。

「偃武の時のお方のお話も、聞きとうございます」一番年長で、お淑やかな長髪の美女…。

「失礼しました、お延と申します」

「もし、御無理でなければ都合の良い日に合わせて」オッサンが言いかけるが。


「ん~解ったわよ!明日も一緒ね!」

「え?大学は?」

「単位習得のためだからその辺融通効くわよ」

「じゃあ一緒に泊まりましょうよ!」「え?」

「オー!オトマリー!」「修学旅行みたいー!」「えー?!」


******


 こうして、私は奇妙な歴史ガイドツアーに足を踏み入れてしまったのだった。


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※本作では「黒い城=豊臣、白い城=徳川」論が破綻している様に描かれていますが、現実世界では結構幅を利かせています。単純に漆喰技術が向上したのと白い豊臣政権の城が残っていないだけなんですが、人は解りやすい方に流れるものです。


※皇居吹上の森を「原生林」とか気が遠くなることを言う文化人もいましたが、あそこはかつて「江戸図屏風」に描かれた豪華絢爛な御三家御殿が並ぶ領域です。この物語では防火用の並木で遮られていますが。

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