3.ガイド江戸城その3 聳える天守の天辺で
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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江戸200年、武家と農民、商人、町人の合議の場となった『極東のアテネ』こと松の廊下を過ぎて黒書院、そして…色々肥大してヒドイ事になった挙句今や何もない大奥の跡地の先に、巨大な五層の天守が聳える。
はぁ~。ここも子供のころからすごいなあ~って感じる景色だぁ。
黒い壁と白い軒下、金の軒、んでもって黒と緑青が混じった屋根。天に聳える金の鯱と、若干無粋な避雷針。
でもその無粋な避雷針や、中に張り巡らされた散水栓、スプリンクラーのお蔭で400年前の巨大建築がこうして拝めるんだから馬鹿にしちゃいけない。
「江戸のドンジョン(天守)とバシリカ(サンピエトロ聖堂=バチカン)とどっちがオッキイ?」
「そりゃ向こうだよ。江戸城天守が50m、サンピエトロ寺院のドームは120mだ。
ローマには大きな地震は少ないからねえ」
へー。イタリアも地震国だけど、日本程じゃないんだ。
そーだよねローマとか地震あったら壊滅すんだろうし。
「雷様も当たらずに済んだのは時様のお蔭です」
「いや、当たっていたよ。避雷針は絶対じゃないんだ。雷が避雷針を避けて壁に当たって焼く事もあった」
へー。そういやそんな話もあったなあ。姫路城のあの綺麗な天守でも落雷で瓦が砕けたとか。
…いややっぱりコイツらの話オカシイ。
等とブツブツ言いつつ、天守を登る。
登るのはいつも大変だ。
この天守、一階が三階分くらいある。ド高い天井目指してひたすら長くて急な階段を上る。
しかも周囲は何の飾りも障壁画も無い、ただデカイだけの空間だ。
各フロアは近世から近代までの武器博物館になってるけど。
ガイジンさん達が兜や刀に釘付けになってる。
「スペースポリス!」「○ーパーセンタイー!」なんてガイジンの子供達の声がする。
そりゃそうだ、日本のトクサツヒーローのデザインソースは戦国時代の鎧だからね。
「これが、あの、時サマの、『やらかし』っていう物でしょうか?」
「ん~?何の事かな~?ん~?間違ったかな~?」
何か聞こえた気がするが気のせいだ。
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「ひぃ、ひぃ。ほわ~!」
50mの高層建築を、エレベーターも無しに登ると、流石に辛い。良い運動になった。今夜は飲むぞまずは生中!
…我ながらオッサン臭いなあ。それはさておき。
眼下に広がる我が大東京!大江戸!
緑の放射線と環状線が街を区分けし、千代田区の外は超高層ビルが壁の様に並ぶ。
眼下の市街には都電が黄色に赤い線を纏って市内の至る所を走り回る。
江戸城天守五層を吹き抜ける風は、大都会とは思えない程涼しい。
中は無骨なだけの江戸城天守だが、この最上層だけは御殿の様に飾られている。
「そりゃやっぱり他国から使節が来たら、お迎えしたくなるのが情ってもんでしょう」
「バチカンに巡礼してもドームの天辺まで登れる訳じゃないですしね!」
「でもお江戸は緑が多うごさいますね!」
「ああ、そうしないと辺り一面焼け野原、街に死が迫るからね!」
「それも時様が?」
「私がいた時代では、江戸が出来て60年で、この天守も江戸の街も焼けてしまったんだ。
建物をみっちりと建て過ぎたんだ。
だから火除けの道と広場と、火の粉を防ぐ並木を進言したんだ。
あの御三家の御殿も、紅葉山の東照宮も全部焼けて火除けの森になってしまってたんだよ」
あ?あの建築彫刻国宝の?吹上御殿群が全部焼けたぁ?
日光、久能山、芝、上野、そして眼下の紅葉山の五大東照宮に次ぐ江戸東京の国宝が焼けたぁ?
「ちょっとあんたらァ!さっきっから何言ってんのォ?!
この国宝を護るため400年どんだけの努力があったと思ってんのー!」
あ、しまった。ついツッコンでしまった!
あ、オッサンも目を逸らした。
「いえ~その~、でもさっきっからスゴい変な事言ってない?」
なんかオッサンを囲ってた美少女達が、何か申し訳なさそ~~な顔でこっちを見てる。
「え~、お嬢さん。
どうかヘンなオジサンの戯言とスルーして頂けないかと」
まあそうだよね、それが常識ある大人の振舞いだよね。
だが断る!
「いやいやいや!もしかしてあんたたち別の時間軸から来ちゃった人達?
伝説の天地宙海上人の生まれ変わりとか言うんかいな!?」
「誰だそりゃー!」
「こっちが聞きてぇよー!」
江戸城の空にとってもマヌケな叫びが、風に掻き消された。
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※実際姫路城では落雷が避雷針ではなくすぐ近くの瓦に落ち、幸いにして火災にならなかった事がありました。
※この世界では武士や戦争が現実世界程否定されまくっていないので、子供向けヒーローも戦国武勇伝の色が強いです。〇ムライ〇ルーパー?!
※実際の江戸城天守は最上層も板張りの床で、居住設備はありません。
割と外交していたこの世界の江戸時代で、迎賓設備として展望台みたいに設えていたのでは~?
※天地宙海上人(誰だそりゃー?)…それは江戸時代から伝わる、謎に満ちたキングメーカー。
都市伝説みたいなものです。
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