2.ガイド江戸城その2 豪華な御殿へ

※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。


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 天下の江戸東京のド真ん中、江戸城に観光ガイド演習に来た私。

 ヘンなオッサンと美女4人の、奇妙な会話が気になってソロリソロリとついていく。


 二之丸下乗門を左に行くと本丸、右へ行くと二之丸御殿。内堀を広げた池に半分せり出した、水上御殿だ。武家庭園の名手、小堀遠州の傑作とガイジンさんにも人気がある重要スポットだ。


 抹茶を頂きつつ、頭オカシイ集団を探る。


「ふう~。今では将軍様のお城やお屋敷にも、こんな風に誰でも入れるんだ。

 私みたいな下女でもね」

「お次。君は下女なんかじゃない。

 あの時代に多くの子供達に読み書きを教えた、立派な仕事を成し遂げた、女行基様じゃないか…」

「やめてー!」


 え?女行基?日本のマリア・モンテソーリとか言われる教育者?どっちが時代先だよって言いたいけど。


「この旅が終わったら、またみんなで一緒に頑張らないといけないんだよ?」


「は、はい!頑張ります!」


 …本当、何を言ってだこの人達。

 でも、あのショートでメガネの美少女、確かに頭が良さそうだ。


 はあ。いいなあ、堀というより泉、そして石垣の上に聳える白亜で優雅な櫓。はぁ~。

 イカン!あのヘンテコ軍団本丸に向かった!


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「やはり太閤様のお城もですが、曲がりくねりが多うございますね」

「この辺は江戸城の中でも最後の防衛線だからね」


 その通り。あの一番お姉さまっぽい美少女の言う通り。

 本丸中錫門、御書院門は二つの櫓で守られる、日本の城では萩城二之丸東門と並ぶ、門の廻りが櫓だらけの。攻める側にしてみればキビシィ~っ!門なのだ…

 中学の頃やたら歴史マニアな先生が偉そうに言っていた。

 何かキライじゃないんだよね、ああいう好きな物についてを自分の事の様に誇らしげに熱く語る人。

 バカみたいで可愛げがあるっつうか、愛情がにじみ出てるっていうか。

 実際、生徒を大切にする先生だったし。


 学校の経験って、先生の良し悪しで決まるよね。得意科目も。

 私も、ガイジンさんに「OH!ニッポン嫌な所ネ!」って言われない様がんばらないと。


 で、これは誰もが見とれる、本丸御殿玄関…OH!エドジョー素敵ナ所ネ!

 二条城や京の城、大坂城、金沢城に仙台城…等と並ぶ絢爛豪華な御殿の玄関、欄間の彫刻と彩色、金箔…

 これはやんちゃで勉強嫌いな小学生でも見惚れますわ~。


 おや?さっきの女行基様とパツキン美少女が小さいスケッチブックで御殿をスケッチしている。

 チラっと見ると…上手い!上手すぎる!本当何者だこの一行?!


 文化財保護用の靴ガードを履いて御殿の中へ。

 老朽化にも火災にも耐え、400年の間修理を重ね、今では材木の半分以上が取り換えられているという巨大な建築群、江戸城本丸御殿。


 障壁画も幾度かの火災の度に水を浴び、書き換えられつつ、創建時の豪華さを今に伝える。


 ヨーロッパの御殿が革命や戦火で多くの壁画や装飾を失いつつ、その大半が修復され維持されているのと同じ様に、ここ極東の国でも維持されている。

 だがこっちは木と紙だ。

 そこが海外からの観光客には不思議に思われる。何で木と紙なのに何百年も持つのか、と。


 う~ん、これは解らない。当たり前だと思ってるから解らない。


「物は作ったらその瞬間から壊れていく。

 それを直し続ける技と力と、愛情があるかどうか。それが文化だ。


 文化がない社会は、どんな立派なものを買い入れても壊れて使えなくなって捨てる。

 文化がある社会は、どんなに弾圧されてもそれを手放さず、なんとか守り抜く。


 今でも世界のあちこちで崩れ去った遺物を蘇らせる努力が続いている。それが文化だよ」


 OH!いい事言うなあのオッサン。


「多くの人を殺すのも文化ですか?」


 OH!ショッキングな事いうなあの一番年上っぽい美少女。


「そうかも知れない」


 身も蓋もない解答!


「お延、お次、お玉、グラシア。私達はそれを変えて来た。

 だからこの時代を見せたかったんだ。

 ま~…ちと思ってたのと違うけどね」


 やっぱ、何を言ってだこいつ。

 

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 はぁ~。心が落ち着く空間。

 江戸東京の中心地、近世200年、近代現代200年の魂宿る、江戸城本丸大広間。


 狩野派が描く黄金の障壁画に、黒漆塗りの柱、金の飾り金具。

 そして外には能舞台、CDか有線から能の音楽が。

 都会の真ん中ながら涼しい風が。


「都も遠くなったもんです」

「京に居ようと江戸に居ようと、どこに行ったって帝なんて私らとはかかわりの無いよ…」

「ノ!エンペラドール(皇帝)やレイ(王)はインポルタンテ(重要)!

 この時代のフィランツィア(仏)やエスタドニードス(米)みたいになっちゃいマス!」

「欧州事情はわっかんないねえ!」


 あの娘、スペイン人?聞いた感じ南の方の言葉?オランダとか北の方じゃないし。


「ハポン(日)は、ヘネラル(将軍)やミカドを大事にして、ヘネラルやミカドもトキサマの話を聞いて、こんな立派な国にナリマシタ!

 おツギ、アナタも、ヘネラルやミカドに護られたデス!」


 すごい一生懸命。何だろあの集団。


「そ、そうでした、グラシア。私が首を刎ねられなかった時の流れでは、…そうでしたね」


 ???

 あ、ガイジン美女が眼鏡っ娘を熱烈ハグしたー!

 てぇてぇ…


※小堀遠州渾身の、池と一体化した遊興感溢れる二之丸御殿は寛永期には解体され格式ばった御殿に再築されています。この世界ではそのまま愛され残されたのでしょうかねえ。

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