随筆、オーバードーズ
咲頼踏都 / Sakurai Toto
オーバードーズ
もし仮にオーバードーズがもっとへんてこな名前だったのなら、オーバードーズをする人はめっぽう少なかったんじゃないかなと思う。薬の過剰摂取による急性アレルギー反応をあらわす言葉に、オーバードーズは格好が良すぎてしまう。彼らは鬱屈でダウナーな雰囲気を求めているから、例え死ぬとしても、オーバードーズで死んだというのは彼らの心象にとって快適なのではないだろうか。そもそもオーバードーズは、薬を沢山飲むという誰にでもできる全く特別な技術を必要としない、人間の基本的動作で行える最小限の労力で満足してしまう行動である。のに関わらず、彼らは自分に特殊能力があると錯覚している。そんな無学な彼らは、音象徴の威勢が良い言葉がその概念を表現するのであれば、好んで自らの表現に取り込みたいと挙るのだろう。
例えば薬の過剰摂取による危険性を訴えた人物がベドヌバチ・バリュグぺぺ氏だったとしよう。彼の献身的な啓蒙活動に医学会が敬意を払って、薬物の過剰摂取とその中毒症状をバリュグペペと呼ぶことにした。すると、沢山の薬を飲んで病院に入院することになった彼らをクラスメイトはこう語るのである。
「ねぇ聞いた?あいつバリュグペペしたらしいよ。」
「まじで?バリュグペペとかダサすぎて。」
存在しない自分の特別性と特殊能力を信奉するような想像力の豊かな彼らは、このような会話もまた容易に想像できるに違いない。そして、あまりの恥ずかしさに薬という道を断念し、また新しい自分の特別性を象徴する「簡単な方法」を知るのである。
最後に、ベドヌバチ・バリュグペペという名の人物へ。大変申し訳ございません。
随筆、オーバードーズ 咲頼踏都 / Sakurai Toto @razphyxia
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